排除する
三人で逃げる……リオはワタルが絶対に助ける。だから私は頼まれた事をする、キノコ頭を気絶させる事とワタルの荷物を探す事、絶対に遣り遂げる、邪魔する者は排除する。
「……ワタルが私の事大事って言った。ふふ、頑張る――」
「おい貴様! こんな所で――ガキ? なんでこんな所にガキが居るんだ?」
ガキ…………普通の兵士、私の情報が伝わってないの? 職務怠慢……人間の兵士はこれが多いのは相変わらず。
「剣を頂戴、そしたら見逃してあげる」
「はぁ!? 何をふざけた事を言ってるんだこのガキは――」
「ならもういい、勝手にもらう」
この兵士に私の動きは追えていない。まだ、さっきまで私の立っていた場所を見てる。このまま首を折――っ! 駄目、ワタルと約束した。勝手に殺したら怒られて一緒に居られなくなる。
「うっ!?」
首を折るつもりで打ち込もうとした手刀の力を抜いて当てた。たぶん、殺していないはず……生きてる。よかった、攻撃して殺さないなんて事は今まで殆どなかった。その上殺すつもりで打ち込んだのを途中で無理矢理抑えたから生きてるか自信がなかったけど、このくらいでやれば普通の人間は気絶するんだ。殺さない加減は分かった、逃げる時の邪魔になったらいけないから、出会う兵士は全部気絶させていこう。
「っ!? おいっ! 混ざり者が脱走して――」
「うるさい、寝てて」
「なんで脱走して枷まで外れてるんだっ!?」
「こいつ超兵最強だったんだろう? 俺たちじゃ取り押さえられるはずがない。早く混ざり者を――」
一人見つけたらいっぱい出てきた。全部気絶っ!
「ひぃっ!? よ、止せっ! 俺はまだ結婚したばかり――」
出会うのは全部気絶させるって決めたけど、騒ぎのせいで兵士が走り回ってて少し移動しただけですぐに出てくる。まだキノコ頭も荷物も見つけてないのに、これじゃ時間が掛かり過ぎる。
「兵士が点々と倒れていると思って辿ってみれば……オリハルコンの枷を外してその牢からも出てきているとは、まったく恐れ入るぜ。一体どうやってあの状態から逃げ出したんだ?」
今度は混ざり者……これも殺しちゃ駄目? 聴いておけばよかった。二十七、多くないけど手加減は面倒、あっちの部屋を確認したらこちら側の部屋の確認は終わりなのに――。
「無視して余所見とは、この人数を相手に随分と余裕じゃないか。俺たちはお前が脱走した後も過酷な訓練を続けさせられていたんだぞ? その俺たちを相手に――なっ!?」
「訓練してた割に遅い」
人間の兵士と違って私が移動したのには気付けたけど、反応は出来てない。こんなのが二十七居たって大した意味はない。
剣を持ってるのに打ち込むのは刃じゃなくて柄頭、だから剣の長さが役に立ってない。私の動きを目で追えてても、全く反応出来ていない身体に柄頭を打ち込んでいく。腹、顎、腹……もう残り七、数が居るくせにこの程度。
「本当に訓練してたの?」
「なめるなクソガキ!」
「っ! ふんっ!」
後ろで剣を振り上げてた奴の顔に回し蹴りを当てて壁に叩きつけた。加減するのを忘れてた……ガキって言ったあいつが悪い。
『なっ!?』
「なんだよ今の速さは……これ程の差があるものなのか?」
なんでこの程度で驚いてるの? 前に見たピンクはちゃんと強くて私の動きにも付いてこれてたけど、ここに居るのは弱すぎる。こんなので訓練してたなんてよく言える。
「こんな、こんなに差があるはずねぇ! 同じ混ざり者だぞ!? なんであの人数差でこのガキの方が優位に立ってるんだ」
「また言った……これで終わり」
やっぱり弱かった。全員あっさり気絶させる事に成功した。能力が使えるならワタルでも倒せたと思う。
「あ、逃げ出せたのは大事な人が迎えに来てくれたから……聞こえてない――」
「うぅ……混ざり者が、大事な人だと? 馬鹿々々しい、何の冗談だ?」
「気絶しなかったんだ。丁度いい、ワタルの荷物はどこ? それとキノコ頭」
「言うと思っているのか?」
「私は今殺せない。でも殺さずに苦しめる方法は知ってる。試す?」
混ざり者は人間より丈夫だから、多少壊したとしても簡単には死なない。使い物にならなくなったら軍に殺されるだろうけど、それは私には関係ない。
「…………荷物は三階の右の突き当りの部屋だ。キノコ頭というのが何なのかは俺には分から――」
気絶した。説明したら聴き出せたかもしれないのに……でも荷物の場所は分かった。早く取りに行ってキノコ頭捜さないと。
「ワタルの荷物、ナイフもあった」
荷物の中身がなくなってないか確認したいけど、私じゃ何が入っていたのか分からないから確認してあげられない。分かるのはリオの持ってた服くらい……服はある。とりあえず頼まれた事の一つは終わり、あとはキノコ頭を気絶させてワタルとリオの所へ行って一緒に逃げるだけ、そしたら一緒に居られる。
「っ!?」
下から大きな音が響いて少し揺れた。今のも爆発? ワタルと一緒に居た紅い女が燃やすとか言ってたけど、あれがやってる? ……珍しいけど、混ざり者の覚醒者? 危険な物だったら排除しておかないと、ワタルとリオに危害を加える可能性のあるものは全部排除っ!
下に降りて二階を確認していくけど、ここの階には変な気配はない。だったら一階? …………そういえば、牢に居る時から聞こえていた爆発音が今は聞こえなくなってる。牢を出た後も暫くは聞こえていたのに。
…………一階にも変な気配は無い。この階は最初に気絶させて回ったから居なくて当然……それなら地下牢? 爆発があの紅い女が原因のものだったとして、それが止んだのは何故? 使う必要がなくなった? それとも使えなくなった? ……使えなくなったんだとしたらキノコ頭が関係してる。人捜しをしているって言ってたから、私が居た以外の地下牢のどれかに――声……こっち。
「まさか捕まえた異界者を取り戻すためにここを襲撃するような大馬鹿が居るとは思いもしなかった」
「こんな騒ぎを起こされる間抜けに言われたくないわよっ! なんで急に使えなくなっちゃうのよっ、今までこんな事なかったのに」
「キクチの能力はそういうものだからな、周囲の覚醒者の能力は封じられる」
居た、変な頭の覚醒者とその護衛……それに紅い女と黒い瞳の男女、紅い女はあの二人を助けに来た? 混ざり者なのに?
「ちょっとあんた! 日本人なら――」
「何を言っても無駄だ。使い勝手を良くする為にこいつは指示を聞くだけの人形になっているからな。これだけの騒ぎを起こした張本人と脱走者だ。無事で済むとは思っていないだろうな?」
考えるのは後でいい。ワタルに頼まれた事をする!
「っ!? 何故お前が――」
「うるさい」
キノコ頭に突貫する私とキノコ頭の間に入ってきた混ざり者の剣を弾いて、無防備になった状態のところを顎に柄頭を打ち込んで昏倒させた。
「あの枷を外したのか!? どうしてそんな事――がっ!?」
残った一人はさっきのよりも出来が悪い、簡単に気絶させられた。護衛が任務のくせに、状況に混乱してろくに動きもしなかった。あとはキノコ頭を気絶させて終わり…………覚醒者であるワタルにとっては天敵みたいな能力なのに、気絶させるだけでいいの? 確実に殺しておいた方が安全は増すのに? …………ワタルに頼まれたのは気絶、だからこれでいい、間違ってない。
「あなた、なんで私たちを助けたのよ?」
「助かったんだからそんな事どうでもいいじゃん麗奈」
「そうですよ。はぁ~、死ぬかと思った」
他の二人は脅威がなくなって安心したみたいだけど、紅い女だけは私を睨んで警戒してる。
「別に、ワタルに頼まれてた事をしただけ」
「わたるって、さっき麗奈さんが言ってた人ですか?」
「そうだけど、あいつが私たちを助けろって言ってたの?」
「違う、キノコ頭を気絶させろって言われた。そっちが助かったのはついで」
面倒、早くワタルとリオの所に行ってここから出ないと――。
「ああっ、待ってまって、君はどこに行くの? わたるって人の所に行くなら、よかったら僕も連れて行って欲しいんだけど」
異界者の男…………連れて行ったらワタルはどう思う? 同じ世界の人間だから喜ぶ? それとも邪魔? ……さっき戦うような姿勢をしていなかったから覚醒者ではないはず、なら足手まといが増える事になる。そうなったら危険が増える事になる――。
「そんな顔しないでさ、この世界じゃ僕たちは酷い目に遭うし、出来れば同じ世界の仲間と一緒に居たいんだよ」
「ちょっと、あたしたちと来るんじゃなかったの?」
「いや、ここから抜け出すまででもこの子と一緒に居た方がいいですって、またさっきみたいな事になったら麗奈さんだって危ないでしょう?」
「それにわたるって人の事心配してたしねぇ~? 一目惚れ?」
「ち、が、う、わ、よ!」
「いふぁい! いふぁい! ほっへひぎれるへっば!」
異界者の女が紅い女に頬を引っ張られてる。それにしても、心配? 紅い女が? むぅ~、変な感じ、でもワタルを牢から助けたのはこの女みたいだったし……。
「…………好きにしたらいい、その代わりその荷物持ってきて、私は先に行く」
「ちょ、ちょっとちょっと、どこに行くの!?」
「上」
クラーケンみたいな怪物を倒せる程の能力を持ってるし、ワタルは運も良いんだから、リオを助け出して無事でいると思うけど、ワタルは無茶な事もする。それが失敗したりしてたら……急ぐ!
三階までは確認してる。そこまでの階に二人は居なかったんだからワタル達は四階に居るはず――声、リオの叫び声!? 何が起こってるの? 二人とも無事でいて――っ!?
「ぎぃゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ! 腕、腕が! 僕の腕がぁぁぁああああああああああ」
リオの声のした部屋に行くと、赤い髪の男がワタル目掛けて剣を振り下ろそうとしていて、その男の腕を斬り飛ばしてどうにか止めた。この男、斬ろうとした。私の大事なもの、やっと見つけた大事な人を。
「ワタルは私の大事な人勝手に壊されたら困る」
「こぉの、クソガキぃいいいいいいいい」
まだ喋る元気があるんだ? 普通の人間にしては強いのかもしれない。でも、もう終わり。
「ワタル、許可」
「許可はしない、気絶させとけ、そんなのわざわざお前が殺さなくていい」
ワタルを斬ろうとしたのに駄目なの? …………斬りたい、私の大事なものを傷付けるものは全部排除したい……でも、ワタルが言うなら我慢する。
「…………分かった」
もやもやするけど、我慢がまん……すっきりしない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます