私を変える人
隠れ家に戻ってヴァイスの部屋に行くと、ワタルがボロボロの状態で放置されてた。息はしてる、本当に目的を果たして生き残った。なんとかした、普通じゃ出来ないのに。
「不思議」
こんな事する人見た事が無い。これからもこんな事を見せてくれるの?
「うぅ」
「手当しないと」
とりあえず元居た部屋に連れて来たけど。
「腕、折れてる…………」
腕を触って確認してみたけど、骨も少しズレてる。治して固定しないと……真っ直ぐな木と布が要る。すぐに部屋を出て必要な物を集める。背中の打ち身に塗る薬もあった方が良いけどここにはそんなもの無い。
「今度外に出た時」
部屋に戻って、骨の折れてズレた所を触って確認しながら骨を元の位置に戻していく。
「戻った」
後は真っ直ぐな木を当てて動かない様に固定して終わり。
「起きない…………」
やっぱり異界者は弱い、簡単に壊れる。
なのにあんな事をした、他にどんな事をするのか見てみたい。どんな話をしてくれるのか早く聞きたい。早く起きて欲しい。
「一人は、つまらない」
ワタルの近くに座って頬を撫でてみる。少しだけチクチクする。
「髭…………」
ワタルには無い方が良い。邪魔。チクチクが嫌だからチクチクしない所を突く。少し表情が変わる、苦しそう、突いたの駄目だった?
手当をしてから一日経った。ずっと見てるけど起きない、壊れた? このまま起きずに死ぬの? っ! 起きた…………また変な顔してる。
「なに変な顔してるの?」
「っぅ~!」
起き上がろうとして凄く痛がってる。そんなに痛い?
「左腕折れてるよ。そんなに痛いの?」
興味が湧いて少しだけ触ってみる。
「っっ!! 突くな! 滅茶苦茶痛いわ! っぅ~!」
っ!? びっくりした…………大声は嫌い。
「! そうだ! フィオ、リオはどうなった!? ヴァイスに捕まったのか!? 酷い目に遭わされてるのか!?」
自分の心配よりあの人の心配…………なんか、変な感じが、する。
「あの人なら逃げた」
「それ本当か? 俺を憐れんで嘘ついてるとかじゃなく?」
「本当、なんで私がワタルを憐れまないといけないの? あの人が逃げたせいでヴァイスの機嫌が悪い」
あの人を捕まえられずに戻ってきてから、私が嘘吐いたんじゃないかってしつこく付き纏ってきて煩かった。
「はは、あはははははは」
? なんで笑うの? 痛がったり、心配したり、表情がどんどん変わる。
「壊れたの?」
「そっか、リオ無事に逃げ切ったのか……よかった、本当によかった」
っ!? 泣いてる…………泣くのは痛くて苦しい時と怖い時じゃないの? そんなに痛いの? それとも、私が怖いの?
「なんで泣くの?」
「え? 泣いてないよ」
自分で分かってないの?
「泣いてる」
顔を見ながら分かる様に頬を触る。
「なんで泣くの?」
教えて欲しい。
「嬉しいからじゃない?」
嬉しい? あの人の無事が? …………分からない。
「ワタルは嬉しいと泣くの?」
「わからない、でも今は嬉しいって気持ちしかないと思う」
嬉しい気持ちだけ…………嬉しい、でも涙は出るの? 不思議。自分の事なんか全然気にしてない、なんでそんな風に思えるの?
「ふ~ん、やっぱり変わってる、変な人。そんなに他人の無事が嬉しいの? 自分は殺されるかもしれない状況なのに?」
「嬉しいよ、俺なんかが人の役に立てたんだから、それに死ぬのはあんまり怖くないし、リオに助けてもらわなかったら疾うに死んでたはずだから、恩返し出来てから死ぬなら本望だ」
疾うに死んでた…………あの人が居なかったらワタルに会えなかった? ……でも助けたからって死なれたら困る。私と居て欲しい、退屈を変えて欲しい。
「まだ泣いてる、変なの、子供みたい」
むぅ、また子供とか思ってる。
「っ! 痛い! 止めろって言っただろ、いいもの遣るから突くな」
「いいもの?」
それを私にくれるの? どうして?
「俺のリュック有るか? それに入ってるんだけど」
リュック? ワタルの荷物? それならヴァイスの部屋に投げっぱなしになってたから持って戻ってる。
「リュックってこれ? この中服と変な物だけだったけど?」
そう、この中にいいものなんて入ってない。嘘、吐いた?
「この中に俺がいた世界の菓子が入ってるんだ、っ!」
無理して起き上がって荷物に手を突っ込んで漁ってる。偶に左手を動かそうとして顔を歪めてる。治したいけど、骨折の薬なんて知らない。それにしても――。
「お菓子で釣られるのは子供だけ、私は子供じゃない」
なんで信じないの? 普通なら一回痛い思いをしたら信じるのに、なんでワタルは…………むぅ、突こうと思ったけど痛がってたから我慢した。
「でも、この世界じゃ手に入らない菓子だぞ? それを考えると結構いいものだと思うけどなぁ」
この世界で手に入らない物、それを私にくれるの? 無くなったらもう手に入らないのに?
「ふ~ん、そうかもね」
お菓子を気にしたら子供みたいだから嫌なのに…………早く出せばいいのに、ずっと荷物を漁ってる。
「ほれ」
透明な皮? を剥がした箱を渡された。中に何か入ってる、でも…………。
「これが食べれるの?」
「食えるのは箱の中身だからな、あけ口って書いてある所を開けて中身を出して食べるんだぞ」
箱くらい分かる。でも書いてある文字? は分からない。異世界の文字なんて初めて見た。箱も変な模様が描いてあって色んな色をしてる、箱の透明な所から中身が見えるけどつやつやしてて変なの。
「これが箱だって事くらい分かる、でも異世界の文字なんて解らない。それにこんなつやつやの食べ物に見えない」
「ここが開くんだよ。味と食感はそれぞれ好みがあるだろうから何とも言えないけど」
「ん~」
開けてくれたから一つだけ出してみた。異界者は普段こんな物を食べてるの? 本当に美味しいの? …………やっぱり食べ物に見えない。
「これ美味しいの?」
「俺は食感が気に入ってるけど、この世界の人がどう感じるかはわかんないな」
「そう…………」
ワタルが気に入ってる食べ物…………気になるけど、ん~?
「味は? どんな味がするの?」
「味は甘くてそれぞれ違う果物の味がするな、色が違うだろ、色毎に味が少し違うよ」
「本当に甘い?」
確かに匂いは甘い感じがするけど、匂いが甘くても辛い果物がある。これもそうかもしれない。
「甘いよ、菓子なんだから」
「わかった…………」
甘い、お菓子だから甘い…………食べるっ!
「…………」
ホントだ、甘い。それにぐにぐにしてて面白い。異世界にはこんな面白い物があるんだ。
「美味しい、私もこの食感気に入った」
「そりゃよかった。その一箱はフィオに遣るから好きに食べたらいいよ」
「! 本当に? これいっぱい入ってるけど」
本当に全部くれるの? こんなに美味しくて、もう手に入らない物なのに? どうして?
「本当に、縄を解いてくれたお礼って事で」
本当に、くれるんだ…………胸が変な感じがする。ワタルのせいで私がどんどん変になる……でも、嫌な感じじゃない。もっと感じていたい。
「人からなにかを貰うの初めて…………」
こんな時なんて言うんだっけ…………? 前に拾った本で読んだ――そう。
「……ありがとう」
自分でびっくりするぐらい声が小さい。ちゃんと聞こえた? …………変な顔してる、間違えた? 言っちゃいけなかった?
「変な顔してる、お礼変だった?」
「いや、変じゃないけど少し意外だった」
意外……間違えてないなら良かった。
「そう、お礼なんて初めて言ったから、何か変なのかと思った」
そう言ったらワタルが悲しそうな顔をした。また、変だった?
「フィオは盗賊やめたいとか思わないのか?」
「どうして?」
なんでそんな事を聞くの? 私は他の生き方なんか知らない。
「どうしてって、町で普通に暮らしてみたいとか思わない? 他の奴みたいに人を傷つけるのが楽しいのか?」
楽しくなんてない、だから必要ないなら殺さない。ヴァイス達と違うから退屈してる。それに、人間と一緒になんか暮らせない。
「ワタルは自分を蔑む人たちと一緒に暮らしたいの? 私は今のままでいい、闘って殺すのは必要だからそうしてる」
「俺もこの国じゃ普通には暮らせないな、でも他の国に行ったらいいんじゃないのか?」
「どこだってきっと同じ」
混ざり者は化け物で、その化け物にも化け物って言われる私がどこに行ったって変わらない。今みたいにワタルが怖がらずに話してくれるならそれだけでいい。
「! …………」
ワタルが私にくれたのと同じお菓子の箱を出して中身を全部口に入れた。頬が膨らんでもごもごしてる…………面白そう。ん? 真似したらワタルがじっと見てくる。なに? ……優しい目?
「なんで急に一気食いしたんだ?」
「おもひろほうだったから」
それに、いっぺんに食べるともっと美味しい。
「それで、どうだったんだ?」
「食感が増していい感じ」
? ワタルが嬉しそう、私何かした?
「よし、もう一箱遣ろう」
「あ、ありがとう」
またくれた。それに今度は普通の声で言えた。
「なぁ、処分ってどの位の期間で決まるの?」
「適当、ヴァイスの気分次第」
でも、殺されそうになったら……盗賊をやめる? 殺す以外の、他の生き方なんか知らない。でも、ワタルが一緒だったら他の生き方、出来るかもしれない。
「ぷふぅ」
「ん?」
なんで笑ったの? ワタルは変な時に笑う。処分の話、面白かった?
「フィオはヴァイス見て笑った事ってある?」
「ない。ワタルはどうして笑ってたの?」
「ヴァイスをもっとカッコいい感じで想像してて、想像と現実のギャップに笑ったというか…………」
カッコいい感じってなに? ヴァイスはヴァイスなのに。
「よくわからない」
ワタルはまた何か考えてる。見てると胸が熱い? 苦しい? この感じ、嫌いじゃないけど、何か…………分からない。
「飽きたからもう部屋に戻る」
まだ居たいけど、今は変になってる。ワタルはずっとここに居るんだからまた明日来ればいい。
「ああ、わかった…………?」
不思議そうにしてる。戻る前にもう一回言いたい。
「お、お菓子、ありがとぅ」
言ったら走って逃げだした。顔が熱い、こんなのなった事ないのに、ワタルのせいで変な事ばっかり。でもそれが嫌じゃない自分が不思議、ワタルは面白い、私の退屈が変わっていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます