辿り着いた王都で

 王都へ着くとすぐに王宮へ向かい、優夜と瑞原の異常への対処をしてもらおうとしたが、特に何かの影響を受けている様子はないと言われてしまった。紅月の思い過ごしだったのか? 二人が一緒に居るようになったのはやっぱり恋仲になったから? ん~、俺はそういう経験がないから疎いけど、紅月が間違うか?

 その後謁見も済ませて今優夜と瑞原以外はテラスっぽい場所で姫様と一緒に茶と菓子を頂いてる。二人は疲れたからと言って客間で休んでいる。


 姫様は、というか王都に居るのは普通のエルフ、肌の白い人ばかりでダークエルフは殆ど居ないらしい。

 姫様は綺麗なブロンドで腰の辺りまでの長さがある、瞳は澄んだ空の様な蒼をしていて、少しツリ目で勝気な印象を受ける。服装も姫っぽく白いドレスを着ていて装飾品なんかも身に着けていて流石王族って感じだ。そのせいか、余計に緊張して萎縮してしまう。

 謁見で何を話したのか全く覚えていない、無礼をしないかと緊張してビクビクしている間にいつの間にか終わっていたので会話の内容が何だったのか、無礼をしたのかしてないのかが全く分からない。


「どうしたの? ワタル、口に合わなかった? 別の物を用意させた方が良い?」

「あ、いえ、大丈夫です姫様」

「むぅ、姫様は止めてと言ったでしょう? ティナでいいわ。いずれはナハトと一緒になる男なのだから変な気を遣わなくていいわ」

 こういう認識のせいだからか、やたらと姫様がフレンドリー、というか、軽いというか…………。

「さっきも言ったかもしれませんけど、結婚するつもりはないです」

「なんだ、ナハトはフラれてるんだ? ナハトが気に入らないなら私の婿にならない? ナハトを倒した男なら興味があるし」

「なっ!? 駄目だダメだ! ワタルは私のだ! 婿なら自分で探せ!」

 だからいつからナハトのになったんだよ…………。

「探せって、ここに居たら人間を見る機会なんて絶対ないもの。それに強い人間ってのは面白そうだし、それ共有って事にしない?」

 それ扱い……なんか知らんけど姫様に気に入られてるのも分からない、人間だから警戒されててもおかしくないくらいなのに、ナハトの知り合いって事でそういうのがないんだろうか?


「ダ、メ、だ! ワタルは私だけのものだ。なんですぐに私と同じ物を欲しがるんだ。私の真似をして自分を倒せる者じゃないと結婚しないなどと言い出すから、ダグラス様に会う度に私は愚痴を聞かされるのだぞ?」

「私はナハトのお父様、ミトス様には喜ばれてるけどね~、それに結婚相手が自分より劣ってるなんて嫌だし、対等かそれ以上を望んでも不思議はないでしょ?」

 族長ってミトスって名前だったのか、世話になったのに名前知らんかった。

 相手は対等かそれ以上がいい、か……確かにそうかもしれないけど、立場も力も圧倒的に俺の方が劣ってるだろ、ナハトの件だって最後を俺がやっただけで、ほぼフィオの勝利だ。

 ナハトを倒した、って部分だけ見られて過大評価される事が道中の村でも結構あって困った。中にはナハトの事が好きな人も居て勝負しろって言われもしたし、全部ナハトが断ってたけど。

「だからそれを自分で探せと言っているのだ! ワタルは渡さないぞ」

 グイッと引き寄せられて抱きしめられる。最初の頃は混乱したり慌てたりしてたけどこれにも慣れて来たなぁ、こうなった後に周りからジト目を向けられるのにも慣れて来てしまった…………少し悲しい。

 リオは、またですか……みたいな呆れ顔、フィオはなんだか不満げにもさを構っていて、紅月はくだらないと言わんばかりにこちらを無視して、庭と言うには広すぎる宮殿の庭を眺めて茶を飲んでいる。

「いいじゃない一夫多妻でも、父様もミトス様も孫が見たいだけだろうから多少変わった夫婦関係になっても気にしないと思うわよ? それに贈り物でカーバンクルの宝石をくれるなんて素敵な事をしてくれる人間なんだから欲しいと思うのも普通でしょ?」

 カーバンクルの宝石を贈るってそんなに凄い事なのか? だとしてもあれは俺が採った物じゃないし。

「あの宝石はゲルトが採って来た物だ、別にワタルがティナの為に採って来たわけじゃない」

「でもカーバンクルを捜そうとはしてくれたんでしょ? それにカーバンクル自体は見つけて捕まえてるみたいだし、そっちの銀髪の、フィオだったかしら? その娘が抱いてるのを最初は贈り物にするつもりだったのでしょう? なら同じ事だと私は思うわ」


「いつまでこのくだらない会話は続くのかしら? あたし達は元の世界に帰る方法を求めてここに来たのだけれど?」

 紅月に滅茶苦茶睨まれた。この状況は俺のせいじゃないだろ、俺のせいじゃないよな? 違うはずだ。

「ん~、そうは言われても、そんなものは無い、としか言えないかしらね。そんな方法があれば疾うに獣人たちは自分たちの、元の世界に帰れてるはずだもの」

「なら異世界への穴を開けている魔物を利用する事は出来ないの? 穴を開けている魔物が開けた穴は私たちの世界へ固定されているんでしょう?」

「利用も無理ね、あいつらは異世界の存在を呼びたくて穴を開けているんじゃなくて、封印から逃げ出そうとして空間を歪めていて、それが失敗して結果としてあなたたちの世界の特定の場所に繋がっちゃってるんだろうから、それに固定されていると言っても穴が開く世界が固定されているだけで、ずっと開いているわけではないもの、穴が開くのは散発的にだし毎回場所だって違うからそこへ入るなんてのも無理ね。あなたたちの世界に異界者が現れたって話は聞いた事ある?」

 そういえば、穴が開いて繋がってるのに日本からこっちへ来る事があってもこっちから日本へってのは無い、はず。だって異世界の人間が現れたなんてなれば確実に大騒ぎになって、大ニュースだろうし、暇つぶしでニュースを見る事もそれなりにあったけど、そんなものを目にした覚えもない。


「無いわね、でもおかしくない? 突然穴が開いてそこに巻き込まれて日本人がこちらに来るなら、逆が起こる可能性だってあるでしょう?」

「そうねぇ、あくまで推測でしかないけど、開いた穴は一方通行なんじゃないかしら? 魔物は封印の外へ出る為の一歩通行の道を作りたくて力を使っているんでしょうから、それが上手く制御出来ない結果として異世界からこちらへの道を作ってしまっていて、それはあなたたちの世界からこちらの世界への一方通行の道になっている」

 なんでわざわざ一方通行なんだよ、理不尽な…………行き来出来るようにしておけよ。でもこれで魔物を利用するって線は駄目になったわけだ。あとは姫様の能力を上手く利用して日本へ繋がる道を開くって事だけど……族長がやるなって言ってた事だし、同じ様に上に立つ者の立場な姫様が協力してくれたりするのか?

「あなた……お姫様の能力でどうにかならないのかしら? 空間を斬り裂いて移動できるんでしょう?」

「私の能力でも無理かなぁ~、まぁ見せてみた方が早いかな、着替えてくるから先に修練場に行っていて、ナハト場所は覚えてるわよね?」

「当然だ、しばらく来なかったくらいで忘れたりしない、幼い頃はここで過ごさせてもらったりもしたのだからな」


「ここが修練場…………というか俺たち滅茶苦茶見られてるんだけど?」

 開けた、かなり広いグラウンドの様な場所で剣や槍、能力を使った戦闘の訓練をしてた人たちに滅茶苦茶見られて注目を集めている。物凄く居心地が悪い…………睨んでくる人も居るし。

「まぁ仕方ないだろうな、人間を見た事がある者など王都には殆ど居ないだろうからな、皆珍しくて見ているのだろう」

 いや、明らかに敵意を持って睨んでる方も居る様なのですが…………そりゃ嫌うし敵視もするよなぁ、魔物発生の原因を作ったのが人間で、その人間は未だに人攫いをしようとこの大陸にやって来たりしてるんだから。

「居心地が悪いわね、なんでわざわざここなのかしら? さっきの庭でも充分広かったんだからあの場で見せてくれてもよかったのに」

「それは私がワタルと戦ってみたかったからよ」

「うわっ!」

 声がしたと思って横を向くと姫様が俺の肩口から顔を覗かせていた。姫様は軽装になっていて、ナハト程じゃないけど結構露出もしている、姫がこんなんでいいのか? 剣を持った姫様…………姫騎士?

 ナハトも背が高いけど、姫様も高いなぁ俺と同じ位かもう少しあってナハトと同じ位かもしれない。

「そんなに驚かなくてもいいと思うのだけれど、人間から見たら私の顔って急に見たら驚いちゃう様な出来?」

「い!? いえ! そんな事ないです、ただ顔が近かったから驚いただけです」

 危ない、姫様の質問を聞いた、訓練をしていた人たちから一気に殺気を感じた。

「ふむ、ならワタルから見てどう?」

 え゛!? これ答えるの? こんな注目された状態で?


「くだらない事はいいからさっさと本題に入ってくれないかしら」

「あ~、そうだ、戦いたいってのはどういう?」

 特殊効果の付加に依って多少は動ける様になってるけど、ナハトの幼馴染と言うからには相当強い気がする、ミンクシィでの訓練を思い出して鬱になる。

「どういう、ってそのままの意味よ? ナハトを倒した男に興味があるから戦ってみたいの」

 姫様の言葉を聞いた周りの人たちがざわざわし始めた。ナハトの強い相手じゃないと結婚しない宣言って王都にまで知れてるのかよ…………恥ずかしい。

「あの、俺がナハトを気絶させたのは、ものすっごい偶然なんですけど、強い相手と戦いたいならフィオと戦う方が面白いと思いますよ?」

「あら、自信がないのかしら? ナハトを倒したって話も嘘で実は凄く弱いとか? ナハトは自分の言った事を曲げて結婚相手を選んだと?」

 自信なんてあるはずない、嘘だと言われても語弊は無い、ほぼフィオのおかげなんだから。


「そんなわけないだろう! ワタルは私を倒した! 間違いなくワタルは強い、クラーケンだって仕留める男だぞ」

 なんで全力で否定してくれてんだ!? ナハトの言葉でまたざわざわし始めた。嫌なんですけど! 変な注目浴びて滅茶苦茶嫌なんですけど! そしてハードル上がった気がするし。

「それは楽しみね。怪物を倒す程の強さ、是非見てみたいわ」

 何このやらざるを得ない感じ…………クラーケンを倒したのは裏技みたいなもんだ。対人で使うもんじゃない。

「さあ、一戦交えてもらおうかしら」

 姫様は修練場の中心へ行って、もう剣を抜いてやる気満々だ。

「ワタル、ああは言ったが勝たなくていい、勝てばティナまで婿にすると言い出しかねないからな、ある程度戦ったら負けていい」

 仕方なく修練場の中心へ向かおうとしたらナハトにそう耳打ちされた。

 ナハトの様な事を言う人が増えるのは避けたいけど、戦い慣れた人に態と負けるなんて事が通用するだろうか?

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