発見?

 フィオにブン投げられた翌日にカーバンクルを捜す為に村から離れた森へと来ていた。

「どこに行くの?」

「カーバンクルって獣を捜すんだ」

「捜してどうするの?」

「王様とかに会う時の土産にするんだ」

「ふ~ん」

 興味なさげだな……それにしても未だに背中が痛い、受け身も取れなかったからなぁ、一瞬で身体が浮き上がり気付いたら床に叩き付けられていた。こいつが寝惚けていたせいで加減がされてなかったから結構痛む。

 にしても、こんなにぞろぞろと居たんじゃ獣探しなんて出来ない気がする、初めて猪鹿を捜した時もそうだったし。

「なんで全員来てるんだよ」

「幸福になれる宝石とか興味湧くに決まってるじゃん」

「私は綾乃の付き添いよ、収容所に連れて行かれた時の様に面倒起こされても困るから」

「幻獣捜しってなんか異世界っぽくて面白そうだったから」

 本来の目的の献上品の準備って目的のやつは居ないのかよ。リオ以外の全員が来ているが真面目に捜してくれそうなのはフィオとナハトだけだな。


「少し静かにしてくれるか、ここからはレウリィコシュの縄張りなんだ。長に許可をもらわない限りは私たちは敵と見做されて襲われるからな」

「なにそのレウリィコシュって?」

 瑞原じゃなくても疑問に思うだろう、ここに居る六人中四人が異界者なのだ、この世界の生き物の名前なんて分かるはずない。

「フィオは知ってるか?」

「知らない」

 フィオが知らないとなるとアドラには居ない生き物なのか。

「巨大な肉食の獣だ、大きさは……そうだな、大体これ位だろうか、長はもう少し大きいが」

『え゛!?』

 フィオとナハト以外の声が重なった。

 ナハトが示した大きさはライオンや虎なんかの一回り以上のデカさに思えた。そのサイズで肉食の獣って滅茶苦茶危険なんじゃ…………。

「なぁ、長に許可をもらうって、その獣とは意思疎通が出来るのか?」

「ああ、少し仕掛けをしてあるんだ、それで人語を解する事が出来るようになっている」

「仕掛けって能力に依るものか?」

「そうなるな、物に特殊な紋様を描く事でその物に様々な効果を付加する事が出来る者が居るんだ」

 物に特殊効果を付加出来るとかアイテムクリエイションっぽくてRPGみたいだな…………特殊効果の付加……能力強化の効果を付加とか出来ないだろうか?

「ナハト、俺の剣に身体能力強化みたいな効果を付加出来たりしないか?」

「ふむ、身体能力の強化か、可能だが強化出来たとしても対象の基礎能力が高くないとそれ程の効果は見込めないはずだぞ? 強くなりたいのなら私が稽古をつけてやろうか?」

 それやると大変そうだから効果付与に頼ろうと思ったのに…………。

「ナハトより私の方が強いから稽古は私がやった方が良い」

 なんでお前まで乗り気なんだ!?

「なんだと? 私はワタルに負けたのであってお前には負けていないぞ」

 いやー、俺が勝ったんじゃなく、ほぼほぼフィオによる勝利でしたけど。

「あー、二人相手だと多少なりとも強化されてないと付いていけないだろうから付加して欲しかったんだけど…………」

「なるほど、そういう事なら戻ったら私から頼んでおこう。ふふふ、恋人と稽古というのも楽しそうだ」

 俺は嫌な予感しかしないんだが…………。


『騒々しいぞ貴様ら、我らの縄張りに勝手に入って何を騒いでいる』

「ひゃあっ! ば、化け物!?」

「こんなに大きい獣が居るものなのね」

「で、デカ過ぎでしょこれ!? なんで麗奈さん冷静に見てるの」

 現れたのは純白の体毛をした巨大な狼の様な獣だった。額の辺りに角が一本生えていて、両前脚に不思議な紋様(少し梵字に似ている気がする)の描かれた帯の様なものを巻いて金色のリングを付けている。

『無礼な小娘め、俺をそこらに居る醜い魔物と一括りにするような言い様だな』

「ゲルト、騒がせてすまない、今日は頼みがあって来たんだ」

『頼みなど一人で来ればいいだろう、何故こんなにぞろぞろと連れてきた? それにこいつらは人間じゃないのか? お前たちエルフは人間と和解でもしたのか?』

「か…………」

『か? なんだ小僧、何が言いたい』

「かっけぇー! 滅茶苦茶カッコイイ! どうせ異世界の生き物見るならこういうカッコイイのが見たかったんだよ」

 猪と鹿の合わさった様な変な物に巨大ゴキブリ、ゲジゲジした変な虫にクラーケン、ハルピュイア、あんな変なのじゃなくこいつはマジでカッコイイ!

『む、むぅ?』

「わ、ワタル?」

「あの、一つ頼みがあるんですが!」

『な、なんだ? 聞くだけ聞いてやる、言ってみろ』

 偉そうな物言いだったのに俺の勢いでたじろいでしまっている、が! そんな事はどうでもいい、とにかく頼み事が優先だ。

「乗せてください!」

 こんなカッコイイ巨大生物是非乗ってみたい。


『は?』

「わ、ワタル、いきなり何を言い出すんだ。レウリィコシュは皆誇り高い種だ。中でもゲルトは長なのだぞ、人を背に乗せたりしない、況してや初対面の相手など絶対に無理だ」

「いやいやいや、こんなにカッコいいんだから乗ってみたくもなるって、毛も真っ白で綺麗で毛並みも凄く良さそうだし、帯巻いてリング付けてるのも似合ってて尚良い!」

 乗ってみたい、是非乗ってみたい、ドラゴンに乗れないなら、もう巨大狼でいいから乗りたい。

『ふ、ふん! 不躾な小僧だ、そこの小娘よりは見る目がある様だが――』

「乗せてください」

『い、いや――』

「乗せてください」

 押せばいけそうな気がする、押せ押せだ。

『…………それ程に乗りたいのか?』

「乗りたいです!」

『そ、そうか…………ふむ、ならば仕方ない、少しならいいだろう』

 よっしゃ! 心の中でガッツポーズを決めた。

「げ、ゲルト!? ほ、本当に乗せるのか? レウリィコシュが人を背に乗せるなど前代未聞だぞ」

『ふん! 仕方ないだろう、これ程期待した目で見られては断り辛い』

 長、凄く良い人だった、獣だけど。

『乗れ』

 伏せをして乗り易くしてくれる、この気遣い、やっぱり良い人だ。

「おぉ~ふさふさ、毛並み最高ですね」

『当然だ、手入れには気を遣っているからな』

「それに獣臭さが無い」

『フッ、毎日水浴びをしているからな』

「身嗜み完璧ですね、流石は長、帯とリングも似合ってて良い感じだし」

『分かるか、エルフたちから貰った物だが俺もこれは気に入っている、言葉を話せるというのも悪くない』

 カッコイイ上に人語を解して意思疎通も出来る巨大狼とか最高だな。

「あのゲルトが初対面の者を背に乗せて談笑している…………」

「そんなに凄い事? あたしにはあっさり乗せた様に見えたけど」

「私も昔乗ろうとした事があるが逃げ回って姿を晦まされて一度も乗せてもらえなかった、それにエルフや獣人との接触を嫌う者も多いんだ。もし人を乗せでもしたら群れから追い出される可能性だってある」

 へぇ、他種族嫌いなのか。もしかして乗せてもらえたのはかなりラッキー?


『走るぞ、振り落とされない様に掴まっていろ』

 そう言って木々の間を縫う様に疾走する。木をすれすれで躱したりするから結構なスリルだ。

「はえぇー! これならフィオより速いかもなー!」

『なんだそのフィオというの――っ!? 何故人間の小娘が俺に付いて来れる?』

「私の方が速い」

 なんでお前は狼と張り合ってるんだ!? それも並走するどころか微妙に先を行っている。無茶苦茶過ぎだ…………。

『面白い、これが俺の全力ではないぞ!』

「うえぇえええ! ぶっ!」

 急に加速したと思ったら枝葉が顔に当たる、さっきまでは俺に当たらない様に完璧に避けてくれてたのに。

「私ももっと速く走れる」


「死ぬかと思った…………」

 フィオとゲルトの勝負はデッドヒートして、しばらく森中を走り回って並走したまま元の場所に戻って来た。

『やるな、銀色の小娘、まさか引き離せぬとは思いもしなかったぞ』

「そっちも速かった…………」

 ゲルトの背から飛び降りたけど、目が回ったかの様にふらふらする。二人とも速すぎだ…………。

「私も速かった」

 そう俺に報告してじっと見てくる。知ってるよ! おかげでふらふらだ。これは褒めろって事なのか?

「そうだな、フィオは凄いな」

「ん」

 頭を撫でてやると気持ちよさそうにしている。やっぱりこど――危ない、睨まれた。

「ロリコンね」

「やっぱりロリコンだね~」

「僕は小さい娘はどうかと思うなぁ」

 ロリコンが定着しつつあるな、昨日フィオは十八だって言ったのに。


「もう一つ頼みがあるんですけど、いいですか?」

 ちょっと思いついた事を試したくなった。

『欲張りな小僧だな、なんだ? 言ってみろ』

「フィオを乗せてあの木の陰から出て来てもらえませんか?」

『? それが何になる? 俺といい勝負をした銀色の小娘を乗せる事は構わないがお前になんの得がある』

「いえ、ちょっと見てみたいというか…………」

『? まぁいいだろう、乗れ』

「ん」

 フィオを乗せたゲルトが大樹の陰に隠れて、その後ゆっくりこちらに姿を現す。

「発見、野生少女…………」

『ぷふぅっ』

 日本人全員が吹き出した。フィオは『野生少女』の称号を手に入れた。

「あははははは! 確かに! 確かにそんな感じ」

「そういえば狼に育てられた子供というのを何かで見たわね」

「これで槍とか持ってたら完璧だったね」

「? あれがそんなに面白いのか?」

 ナハトはよく分からない様子、まぁ森で暮らしてるんだもん――。

「ひっ!? 危ないだろ! なんてもん投げるんだ!」

 フィオがナイフを投げて、それが頭を掠めて行った。切れた髪が何本かはらりと落ちた。

「大丈夫、ちゃんと外した」

 そういう問題じゃねぇ、簡単にそういう事をするのが問題なんだよ!


「ワタル、そろそろ本題に戻ってもいいか?」

「本題?」

「カーバンクルを捜すのだろう?」

 あ…………すっかり忘れていた。そうだった、献上品を採りに来たんだった。

「あぁ、うん、そうですね…………」

『ナハト、お前が宝石探しとはどういう風の吹き回しだ? 宝石など興味がないんじゃなかったのか?』

「別に私が欲しいわけじゃない、ダグラス様とティナに会う時の献上品が欲しいとワタルが言うから」

『ワタルとはこの小僧か? …………そもそも何故ナハトが人間と一緒に居る? 人間は全て海岸で始末しているのではなかったか?』

 そういえば最初そんな質問をしてたな。

「ワタルは特別なのだ、私の夫になる者だからな、だからワタルの仲間も特別に滞在を許可されている」

『夫? お前がこの小僧に負けたのか!? 自分の村どころか他の集落の男も伸したお前が人間に負けたのか?』

 うわぁ、結婚せずにいた事獣にまで知れ渡ってるのかよ。その上他の集落のやつらにも勝ってるんだからその場所でも知れ渡ってるんだよな…………そして今度は俺が勝ったって広まるのか? 恥ずかしい。

「ああ、刺激的な負け方だった…………」


 何を思い出してるのかぼぅっとしている。刺激的じゃなく本当にたっだの電気刺激だからね。

「とにかく、カーバンクルを捜したいので縄張りに入る許可をもらえませんか?」

 ナハトがぼぅっとして進みそうになかったので自分で切り出す。

『そのくらい構わんが、あれを捕まえるのは面倒だぞ、その銀色の小娘とナハトがいれば出来ぬ事ではないと思うが…………まぁいい、長居されても面倒だ、俺も捜すのを手伝ってやろう』

 良い人だ、やっぱり長凄く良い人だ。群れへ俺たちの立ち入りを知らせる遠吠えの後、カーバンクルの捜索が開始された。

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