エルフの土地

「重い…………」

 なんでこうなった? 今は先ほど話していた男のエルフ、ライル・アーウェルに言われて気絶させたナハトさんを背負って森の中を移動中、なんで俺が運ぶのかと聞いても答えてくれなかった。左腕が痛いのに…………。

 村へ入る条件として俺一人で行く事を条件とされた。

 剣を取り上げるという事はされなかったが、俺一人で行くという事にフィオが猛反対したので言い聞かせるのにかなり苦労した。さっきまで殺し合いをしていた相手の拠点に行くのだ、警戒するのが当然だし、身体能力の劣る俺一人というのはかなり危険と判断したんだろう。俺も危険だと思ったけどフィオ達の居る海岸からもう大分離れた、殺す気なら殺すだろうし、そもそも俺にナハトさんを背負わせる意味が分からん。

「おいライルいいのか? 人間なんかにナハトを任せて」

「ならお前が代わってくればいいだろ?」

 ライルさんの隣を歩いてるエルフがこちらを訝しんで睨んでくる。

「いや、それは……でも本当にあいつがナハトを気絶させたのか? 覚醒者だと言っても戦場では小娘に振り回されていた奴だぞ?」

 訝しむならそっちで運んでくれたらいいのに、なんでわざわざ俺に運ばせてるんだ? それに、アーマー越しにふにふにしたものが背中に当たって落ち着かねぇ。

「あの! まだ着かないんですか?」

「ああ、まだしばらく掛かる。人攫いが定期的に来るんだ、そんな海岸の近くに好んで住む者など居ないだろう? 戦える者は問題ないかもしれないが村には子供や老人も居るのでね」


 まだしばらく掛かるって……あれから結構歩いてる気がするのに、こっちは人ひとり背負ってるせいでかなり疲れる、フィオみたいに小さかったら多少楽だろうがこの人俺より少し背が高い、自分より大きい人を運ぶってのは非力な人間には辛いんですが?

 子供はともかく、老人? すんごい長寿のエルフとか? …………あぁ、そういえば獣人も居るんだった。老人ってのは獣人の事かな? あ~、早く着いてくれ、腕が辛い。

「なぁ、ええっと……」

 ? あぁ、そういえば俺は名乗ってない。

「航です」

「ワタル、君がナハトを気絶させたというのを疑う者が多くてね、村に着けば村に居る者の能力で確認する事が出来るんだが、待てない者、村に人間を連れて行くのを不安がる者も居る」

 まぁ当然そういう人も居るだろうなぁ、でもじゃあ無かった事に、とか言われたら困る、俺たちでは船は動かせないから海へ出た所で漂流して餓死がオチだ。それにどう考えたって一人で彼らの住処に行く俺の方が危険だろ、どんな能力を持った奴が居るのかも分からないし、身体能力だって劣っている。

「村には行けないって事ですか?」

「いや、さしあたっては君の能力の確認と、君がナハトを気絶させた事を証明してくれればいい」

「証明って言われても…………あ、あの怒られてた人は? 確かエレッフェラさんでしたっけ? あの人も俺が気絶させたんですけど」

「なんだ、あいつもワタルがやったのか」

 ライルさんの指差した方に獣人に背負われたエルフが一人、ちゃんと加減したはずだけど大丈夫だろうか?

「ならあれも気絶させられるか?」

 あれ? って指差してる方向には木しかないんですけど……馬鹿にされてる?


「木なんて気絶させられるわけないじゃないですか、それともこの森の木は動物みたいに意識があるんですか?」

「ん? ああ、悪いわるい、つい癖で能力を使ってた。少し待ってくれ、あの木の陰から獣が出てくる」

 能力…………出てくるって断言してるんだから未来予知みたいな事が出来るって事なのか? それとも千里眼、物体を透過して見る事が出来るとか? 予知だとしたらナハトさんが負けるって未来に対して対策をしてなかったのはおかしいか、なら千里眼って事になるのかな、戦場で見たのは戦闘向きの力だったけど、やっぱり能力ってそういうのばかりじゃないんだな、異世界に行く力を持ってるエルフってのも期待出来るかも……。

「獣ってあれですか…………」

「ああ、エリカバーって言うんだが――」

「知ってます…………」

 他の大陸に来てまであれを気絶させる事になろうとは…………この世界に広く分布してるのか。遠目だけどアドラで見てたものより大型な気がする、全く同じってわけじゃないか。

「あれを気絶させればいいんですか?」

「ああ、近寄らないとダメなら捕えてくるが」

 木が邪魔な気もするけど、操作の練習だってしてたんだし木の間を縫うくらい出来る、気付かれて逃げられそうになっても猪鹿程度ならどうにでもなるだろ。

「平気です。俺の能力はこれなんですけど、これを上手く調整して気絶させてるんです」

 親指と人差し指の間で電気を発生させて見せる。いきなりやって攻撃したとか思われたら面倒だからな、ちゃんと確認してもらっておかないと。

「雷か、村にも扱える者は居るが気絶で止める調整が出来る者は居ないぞ、本当に出来るのか?」

 居ない? 確かに気絶で止められる様になるまで結構練習したけど、長寿ならいくらでも訓練する時間はあるだろうに、なんで居ない? 俺よりも力が強くて加減が効かないとか? …………行くのが怖くなってきた。

「出来ますよ、えっと、撃っていいですか?」

「ああ、やってみせてくれ」

 了承を得たのでさっそく左手で電撃を撃つ、音に驚いた猪鹿が逃げ出したが木の間を縫って上手く命中させた。操作より片手で背負ってる人を支える方が大変だった…………。

「あれで気絶したのか? 断末魔の様にも聞こえたが、おい! 誰か確認に行ってきてくれ」

 指示を受けたエルフと獣人が一人ずつ確認に向かった。

 ちゃんと調整したし大丈夫なはず。


「本当に死んでないぞ! 雷でこんな事が出来るんだな、人間の能力の使い方には驚かされるな」

「村のやつらじゃ黒焦げにして終わりだもんなぁ」

 確認に行った二人が戻ってきて、獣人は猪鹿を担いでいる。

 デカいとは思ってたけど、俺が見たことのあるやつより倍以上デカさなんですけど……そしてそれを担いでる獣人の腕力って一体…………。

「本当に気絶させているだけか……毛皮も焦げて駄目にもなってない。村への良い手土産が出来たな」

 そう言って肩を叩かれる。人を背負ってる状態でバンバンやられるとしんどいんですが……力の確認とか言って本当はそっちが目的だったんじゃ?

「これを知ってるなら美味さも知ってるだろう?」

「ええ、まぁ」

 確かに美味しいけども、大事な話をしに行く途中で狩りをさせられるとは思わなかった。

「美味い物を食べながらなら面倒な話も不思議と上手くいく、手土産も出来たしさっさと村へ向かおう」

 …………もしかして気を遣ってくれたんだろうか? 確かにテレビの特集か何かで話し合いや交渉は食事しながらの方が上手くいくってのを聞いた事はあるけど、本当だろうか?


「着いたぞ、ここが俺たちの村ミンクシィだ」

 やっと、着いた…………結局海岸から三時間位歩いた気がする、早くこの人を下ろしたい、腕が限界だと言っても誰も代わってくれなかったのでずっと俺が背負いっぱなしだった。引きこもってた時よりはマシになってるだろうが所詮は非力な元引きこもり、体力が限界だ。

「は、早くこの人を下ろしたいんですけど」

「ああ、族長の家はこっちだ」

 一緒に居た人たちは村に着いたと同時に散って行った。怪我人も少し居たし家に帰るのが普通だけど、人間を村に入れるのが不安だったんじゃないのか?

 村は森の中に在って、ログハウス? の様な家が多い、それが樹上にもあったりする。なんか森の中の別荘地みたいだ。それにしてもファンタジーだな…………当然だが人間が居ない、居るのはエルフと獣人だけ…………じゃない、翼が生えた人も居る!? この世界有翼人も居るのか!? それともあれも獣人にカテゴリされてるのか?

「どうした? こっちだぞ!」

「あ、あぁ、はい、ちょっとファンタジー感が凄くて放心してました」

「ファンタジー感? なんだそりゃ?」

「あ~、空想とか幻想をファンタジーって言うんですよ。俺の居た世界じゃエルフも獣人も翼の有る人も空想上の存在なんです」

「それでファンタジー感か? ワタルたちの世界には存在していないのに空想の中には存在していると言うのは不思議な話だな」

 俺にとっては異世界が存在していてそこに飛ばされてる事の方が不思議だよ。

「気になるなら許しをもらった後で見て回ると良い、先に族長の所へ行くぞ」

「はい」


 大きな樹木の上に作られた家へ連れて来られた。デカい木だ、こっちの世界に来て初めて入った森の木と同じ位かそれ以上か…………。

「ここだ、ここが族長とナハトの家だ」

「は?」

 今なんと?

「ここが族長とナハトの家だと言ったんだ。ナハトは族長の娘だからな」

 …………それってヤバくない? 怪我はさせてないし殺したわけでもないけど、娘に乱暴した奴の話なんて聞いてもらえるのか!? 最悪血祭なんて事になるんじゃ…………帰りたい、無性に帰りたい!

「族長ー! ライルです。人攫いを処理して戻りました。今回の戦闘で少し問題が起こったので伺いました、ナハトを気絶させた者も一緒です」

 何言っちゃってんの!? いきなり言わなくてもいいじゃん!? 絶対心証悪くなるよねぇ!?

 家の中から大きな物音がしてすぐに玄関の扉が開いた。

 現れたのは怖い顔をしたイケメンのダークエルフ、親って言っても全然老けてない、ライルさんと同じくらいに見える、流石長寿の種族…………なんてのは今はどうでもよくて、この状況どうすんだ!? 凄い睨まれてるんですけど、これ滅茶苦茶怒ってるよな、今度こそ終わったかもしれない…………。

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