町への侵入
町の門は閉まっている、町を囲う壁は俺の身長の六倍位の高さがある。身体に電気を流して身体能力を強化して跳ぶか? あれ以来試してないけど、多分やれば激痛だ。声を上げたりしたら、人を捜すどころじゃなくなるかもしれない。侵入は静かにするに越したことはない、強化は最終手段という事で。
「とりあえず、反対側の門に向かうか」
どうやって壁を越えるにしてもこの大荷物じゃ大変だ。反対側の門の付近で荷物を隠せる場所を探さないと、侵入はその後だ。
壁伝いに反対側の門を目指しながらスマホのライトで壁を照らして確認する。どこか低くなってるところでもあればと思ったけど、外敵を拒む為に壁と門があるんだしそんな手抜きな場所があるはずないか…………。
反対側に着いたけど結局登れそうな場所はなかったな。門からのびる道をしばらく進んだ道外れの茂みに荷物を隠す事にした。茂みに荷物を置いて近くにある木の枝を切って荷物に被せる。
「これだと反って違和感があるか?」
ん~、一応道からは外れてるから道を歩いてるだけじゃ見つかったりはしないと思うけど、大丈夫かな? 夜の内に戻ってくればいいか。ミスリル玉の入ったウエストポーチと剣だけを持って門へ引き返す。
「これ門をぶっ壊したら駄目だよなぁ?」
レールガンなら一発で壊せそう、壊したら人が集まるだろうから駄目に決まってるけど、手っ取り早く町には入れる。壁はレンガをきっちり積んであるからよじ登る事も出来そうにない。
「…………」
なんも思いつかん…………いっそ壊すか、そう思って短剣を抜いた。
「…………この剣壁に刺さったりしないか?」
刺さればそれを掴んで登る事も出来るかもしれない。思いっ切り壁に短剣を突き立てた。金属音が響き壁の表面が少し崩れたけど刺さった。抜くのは大丈夫か? ここに刺しっぱなしにはしたくない、短剣を引っ張るが中々抜けない。
「こぉんのぉぉぉ!」
ガコッという音と共に短剣が抜けた。これ力加減考えないとダメだな、でもこれでどうにか登れそうだ。壁に短剣を突き立てては抜き、を繰り返して壁を登った。壁の上から町を見るが、電気がないから街灯がなくかなり暗い感じがする。ちらほらと僅かに明るい場所があるけど、外にランタンでもぶら下げてあるんだろうか? 町を眺めてても仕方ない、早く下りてあの男を捜さないと…………。
「下りるのはどうしよう? この位なら跳べばいいか?」
だとしても帰りはどうしよう? 極力人に見つからない様に行動するつもりではあるけど、やる事は報復だ。相手が騒いで人が集まる場合もある、人に追われる中悠長に壁を登る暇はないはず、夜だし撒くのは難しくないかもだけど…………。
「追われる様な事態になったら門を破壊して町を出るか」
それじゃあ、まぁそんな感じで行きますか! 壁を飛び下りる。
「ぬぅぉぉあああぁぁぁ」
着地の鈍い衝撃が足から身体へ突き抜けて行く。うぅわぁぁぁ、脚がビリビリする…………とりあえず侵入出来たからいいけど、次はどうやって男を捜すか、分かってるのはダンって名前だけだしなぁ。
「ん~」
暗いからか、人通りのない道を歩く。いつ人に出くわすか分からないのでフードを深めに被る。
やっぱりランタンが建物の壁の高いところに吊るしてある、それでも暗いけど、これならかなり近付かないと瞳の色や髪の色なんて判別出来ないだろうから好都合か。分かるのが名前だけだと、どうしたものか…………絶対に捜し出すと意気込んでいたのに不甲斐無い。
門番とは知り合いの様だったから、門へ行って門番から聞き出す? いやいや、夜だから門に行っても居ないだろ。もし門の上に人がいたらさっき門に近付いた時点で見つかってる、どちらの門の上にも人影はなかった。何か他にないか? 門番とあの男の会話で何か…………あの時男は門番との会話で奴隷を売りに行ったと言っていた。奴隷は一般家庭が持てるものなんだろうか? 俺のイメージでは奴隷を持ってるのは金持ちが奴隷を買ってるって感じだけど、もしくは売り手側か。この町の建物はみんな似た様な大きさだが、奴隷を買う様な裕福な家だとしたら他と違って大きい家に住んでたりするんじゃないだろうか? 蔑んでる奴隷と同じ建物に住んだりもしないだろうから奴隷用の建物が大きな家に併設されてたりもするかもしれない。
「他に当てもないしこの方向で探してみるか」
夜の町を歩き回る。街灯代わりのランタンと家々から多少の明かりが漏れてはいるけどやっぱり薄暗い、まぁそのおかげで人通りがないんだろうけど、月が雲で姿を隠してしまっているから月明かりも無くて探し辛い。
「っ!」
前方の建物から人の笑い声が響いている、随分と賑やかな感じだ。こんな時間に騒いでいるって事は酒場とか? 別の道を行こう、酔っぱらいに出くわして絡まれたら面倒だ。騒がしい建物を避けて路地に入った。あぁ知らない場所なのにフラフラ移動して本当に大丈夫か? 俺。
しばらく歩き回ったけど大きな建物は見当たらない。いっそさっきの酒場らしき所で酔っぱらいから聴き出すか? そう思っていた時、やっと雲が晴れて月が顔を出す。これで少しは明るくなる、建物の屋根に上がって周りを見渡してみるか。外に木箱が積んであって登れそうな建物を見つけて屋根に上がった。
「向こうに他より大きい建物があるな」
一先ずあれを目指そう、それで駄目なら金貨を取りに荷物の場所に戻って、酒場で酔っぱらいから聴き出す事にしよう。あれが当たりならいいが…………。
「デカい家だな」
でも他の建物が併設されている風ではない、近くにそれっぽい建物も見えないし外れか? だとしてもわざわざ来たんだし確認はするか。家に近付き明かりの漏れる窓から中を窺う。
「っ! 居た」
あの男だ! やっと見つけた! 直ぐに乗り込もうと逸る心を抑え込む。まだ駄目だ、大きな家だ、他に家族や使用人が居るはず。人が集まると関係ない人間まで傷付ける事になりかねない、わざわざ騒ぎを大きくするつもりはない、慎重に行動しないと。
警戒しながら家の周囲を見て回る。さっきの部屋の他に明かりの漏れる所は見当たらない、独り身なのか? だとするなら多少騒いだところで問題ないか? 使用人も居ないんだろうか? 男の居る部屋の窓からもう一度中を窺ったがやはり一人だ。
「行くか」
玄関に回って扉を確認した。不用心だな、鍵が掛かってない。そのまま家へ入り込んで様子を見て回る、一階には人は居ない様だ。
「っ!」
二階も確認しようと階段を上がろうとした時男がニタニタと嫌な笑みを浮かべて別の扉へ入って行くのが見えた。
確認はもういい…………少女が受けた痛みと苦しみを返しに行こう。男が入って行った扉を開けると下に下りる階段があった。
「地下があるのか」
もしかしてここに奴隷を閉じ込めているのか? 階段を下りてその先にある扉を開けた。
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