第20回【コメディ】召喚勇者ここに見参!
目が覚めると、不気味な部屋の中だった。と言っても、煙に包まれているためによく見えないのだが。
しかし、そんなことよりも気になることがある。
――なんだ、この臭い……。
まるで姉ちゃんがアロマテラピーをしようとして失敗したときみたいな臭いだ。石畳の上らしくて、そこで寝転んでいるから身体が痛い。
「やったわ! ついに成功したのよ!」
「良かったな、ローズ。おめでとうは言わないがな」
「ひどいわ、イランイラン」
「悠長なことはしていられないぞ。すぐに召喚の儀の続きをせねば」
「そうだったわね」
どちらの声も女性のものだ。高い声の可愛らしい喋り方をするのがローズで、低めの声の断定的な口調のがイランイランという名前らしい。
俺が呆けていると、煙の中を縫って影が近付いてきた。
「ようこそ、テラピ王国へ。勇者さまが来るのをお待ちしておりました!」
姿を現したのは、きらびやかなドレスに身を包んだ背の低い少女だった。声から判断するに、彼女がローズだろう。可愛い顔立ちだ。発達途中の控えめな胸が大胆なドレスから覗いている。
――なんとなく、隣のクラスの
「あなた様には我が国に伝わる神話に則って魔剣を探す旅に出て欲しいのです」
「そういうことなので、まずはこの星に手をかざすんだ」
次に現れたのは――。
「……姉ちゃんっ!?」
「はぁ? ワタシにはお前のような弟はいないのだが?」
ローズの隣に立った女性は、眼鏡をかけた美人だった。腰の近くまで素肌が見える大胆なスリット付きのドレスを身にまとったグラマラスな体型。その姿は俺の姉にそっくりだ。
――まぁ、こんな挑発的な格好はしねぇだろうけど。
「勇者さまはまだこちらの世界に来て時間が浅いので混乱されているのですね」
心配そうな顔をして、ローズが俺に寄る。
「大丈夫です。私たちが全力でサポートいたしますから」
そして、ぴとっとくっついた。
――あ。
さらに気付く。彼女が一生懸命に己のない胸を押し付けていることに。
よく見ると、伏せた顔からちらりと覗く肌が赤く染まっている。
「魔剣を探すサポート以外も……その……あなた様が望むことで私たちにできるなら……叶えるように努力しますから……」
――これはひょっとして、ひょっとするのか!?
召喚された勇者が可愛い女の子を侍らせて、イチャイチャしながら魔王を倒しちゃったりする……アレなのかっ!?
終いにはヒロインと結婚して、国を築いてハーレム作ってウハウハとかっ!?
「で、お前は勇者になるのか? なるなら、この星に手をかざせ。時間がない」
姉に似た美女のイランイランが不機嫌な様子で急かして来る。彼女が示しているのは、自身の豊満な胸元を飾る星型の石だ。
「なります! 俺、勇者やりますっ!」
ローズの抱擁から抜け出し、イランイランの胸元に手を伸ばす。が、慌てたために足が絡まってバランスを崩した。かざすのではなく、胸に手が当たる。
むにゅ。
柔らかで温かな感触。
――俺、生きてて良かった! ありがとうございます神さまっ!
そう感謝した、次の瞬間。
「――なにすんじゃあっ、ヨシユキっ!」
――はいぃぃぃっ!?
鮮やかに蹴り飛ばされて、石壁に激突する。
どさどさっという音に、俺は上から降ってきた本を払いのけた。
「久しぶりに起こしに来たら寝ぼけたふりして胸触ってくるったぁ、良い根性しとるなっ!」
「え、ちょいまち、イランイランさんっ!!」
「誰がイランイランじゃっ!! 実の姉を忘れたか!! 遅刻すっぞ!」
悲鳴に近い声で怒鳴ると、ドアがバタンと閉まった。
「夢オチかよ……」
俺はうなだれる。だが、この手に残った柔らかな感触は本物のようなので、目覚めは悪くないと思おう。
《了》
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます