再見/5-2/勇気ある仲間達

 氷の柱が空に伸びたのを見て、一番に動いたのは蓮とノクトだ。


「ノクト、!」


 間合いの取れない武器と堅牢な盾を操る、レインとの戦い。

 それをもういいと言い切った蓮に、樹は眉間に皺を寄せた。


「何がもういいのかな?」


 レインは風の刃を振るったが、ノクトは大袈裟に距離を取って回避する。


「テメェとのじゃれあいは終わりってことだよ」

「はあん?」


 自らを血の気が多いと言ってのけた樹は、明らかな不快を表す。


「逃がすつもりはないって、わからないのかい?」


 風の刃と盾を構えつつ、じりとレインは間合いを詰める。


「逃げるつもりはねぇ。でもまぁ、追いかけて来るなら止めはしねぇ」


 ノクトは大剣を背負うと、指を一本立て、くいっと動かした。


「俺達は似た者同士なんだろ? 守るべき仲間もいねぇんじゃ、比べられないもんもあるんじゃねぇか?」

「はっ。口車には乗らないよ」

「けっ、そうかよ」


 蓮とノクトは互いに頷き合うと、挑発的な笑みを二人に向けた。


「ま、俺らは行くけどな」


 遠回りになるが、ノクトは後ろに飛んで相手から距離を取って走り出した。


「ノクト、地獄耳の相棒が招集使える範囲まで移動するぞ」


 ノクトは蓮の言葉に頷いたものの、その足を止めてまた武器を抜いた。


「やっぱ、簡単じゃねぇよな」


 ノクトの速度よりも早く、樹のレインは進んでいた。ノクトが足を止めたのは、いずれ追い付かれるからこそだ。


「ノクト。まだ感情は溜めとけ」


 蓮はノクトに言って、樹とレインを見た。

 レインは盾を持っていなかったが、右の手にはやはり風の刃を握っている仕草をしていた。


「逃がさないって!」

「逃げてねぇって言ってんだろ!」


 互いに武器を振り抜く。力だけで言えば、ノクトが有利だった。


「おい」


 レインの攻撃を弾いたノクト。そしてそのタイミングで、蓮は樹に話しかける。


「なんだい?」

「俺達のチーム名を知ってるか?」

「チーム太陽、だろ?」


 そんな問いかけに、当たり前に答える樹。その回答に満足したとでも言うように、蓮とノクトは何度か頷いた。


「そうだ、俺達はチーム太陽だ。じゃあ俺達の絶対的なルールを知ってるか?」

「さぁ……興味ないね。レイン、行け!」


 風の刃を再びノクトに向けるレイン。


「よーく覚えとけ……」


 それを、まるで刀身でも見えているかのように弾くノクト。ノクトは両手で持ってした大剣から、右手を離して固く拳を握る。


「俺達チーム太陽は仲間を見捨てねぇ!」


 その拳で、ノクトは間合いを詰めてレインを殴り付けた。


「あの氷はダチの正詠だ。そいつがもっと安心して戦えるように、俺達は行く!」


 唾を吐いたレインは、ノクトを憎らしそうに睨み付ける。


「ノクト、まずやることはわかるな?」


――千葉県チーム太陽。スキル、怒涛。ランクAが発動しました。攻撃が上昇し、防御が低下します。


「よくわかってんじゃねぇか」


 ノクトは嬉しそうに笑みを浮かべながら、レインを睨み返す。

 互いに同時に地を蹴る。そしてまた刀身をかち合わせるのだが。


「どけ、優男」


 ノクトは体を翻し、また氷の柱が上がった場所へと向かう。


「さっきからちょくちょく逃げるじゃないか!? チーム太陽の特攻隊長の名前が泣くよ!」


 またレインはすぐに追い付いて、けれどまたすぐにノクトは相手をやめて目的の場所へと歩を進めていく。


「いい加減戦いなよ、弱虫特攻隊長!!」


 挑発する樹に、しかし蓮は冷静だ。


「もう、充分だ」


 ノクトは大剣を地面に突き刺した。


「おい……イツキって言ったな?」

「……?」

 今までと違う雰囲気の蓮とノクトに警戒してか、樹はレインへ攻める指示を出さない。


「俺は負けず嫌いなんだよ」

「はぁ?」


 唐突なカミングアウトに素っ頓狂な声を樹は上げる。


「そんで我慢強い。テメェと違ってな」

「なんだいそりゃ。僕のこと馬鹿にしてるつもりかい?」

「そうだよ、ばーか」


 ノクトの足元に、火花が散る。


「まだまだ俺にはこれが限界だ。俺のノクトを攻撃のランクダウンだがな、来年はぜってぇモノにする」


 その火花は連続して空へと上っていく。


「レイン、盾を構えろ!」


 レインは盾を取り出す。


「落とせノクト、紅雷こうらい!!」


 紅い雷がノクトに向けて落ちる。


「ちっ!」


 激しい雷鳴と地鳴りを伴うそれは、バディタクティクス初戦で使われたアビリティの劣化版。とはいえ、一気に威力は充分。

 アビリティコード198。二年と三年の合同ネット模試で、物理と古典両方で百五十位以内に入らなければ取得できないアビリティだ。


――北海道チーム桜花絢爛。スキル、金剛の守り。ランクBが発動しました。ランクに応じた回数分、自相棒、もしくは自相棒の近距離の味方を対象とされた場合のみ発動可能。攻撃対象を自相棒に変更し、ダメージをランクに応じた割合で軽減します。


「やっぱ守りのスキルを持ってやがったな」

「無駄遣いした分、君の誓いの盾も消費させないとね」


 盾で受け止めたレインには目立ったダメージは見られない。


「もういいっつーの」

「は?」

「次は仲間の近くで会おうぜ、優男」


――スキル、召集。ランクAが発動しました。ノクトをイリーナの近くに呼び出します。


「じゃあな」

「しまっ……!」


 不適な笑みを残し、ノクトはレインの前から姿を消した。

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