第三章 再び、相見える
再見/1
全国バディタクティクスのバトルロワイヤル突破、そして第一回戦の勝利。
それは校内どころか、一気に僕らが住んでいる街中に広まった。大会が終わった翌日の地方新聞にも大きく掲載されていたらしく、朝に父さんがその記事を嬉しそうに見せてくれたのは良かったのだが。
「……マジかぁ」
その記事には、『陽光高校、不良殺法には不良殺法で対抗!』と風音先輩が堂々と載っていた(何故か大将の僕は小さい)。
僕はそれに苦笑を浮かべつつ朝食を済ませて学校に向かう。
校内でもこの記事は出回っているらしく、軽く僕らは不良扱いだ。
全国大会の間は午前が調整時間、午後からは試合時間となっているため、僕は控え室に向かった。そこには風音先輩以外揃っていて、僕を見ると各々がらしい挨拶をしてくれた。
「見たか、これ?」
蓮はにやにやと笑いながら、あの新聞を机に広げつつそう言った。
「おま、性格悪いなぁ……」
「あの地獄耳が真っ赤になるところ見てやろうぜ?」
「やめなよ蓮ちゃん……」
「レンレンさいてー」
僕らがやんややんやと騒いでいても、クラスメイトの王城先輩は何も言わず、ほくそ笑みながら腕を組んでいた。
これにはさすがの風音先輩も恥ずかしがるのではと思っていたのだが、それは単なる杞憂に終わった。
「ご機嫌よう、皆さん」
にこにこと満足そうに笑顔を浮かべながら、風音先輩は控え室に入ってきた。
「今朝の新聞見たかしら?」
風音先輩は小脇に噂の新聞を抱えている。
「見ましたけど……なんつーか……」
僕が感想に困っている中、風音先輩はその記事を広げみんなに見せびらかす。
「私がトップに載ったのよ! 不良殺法って! 早速神崎さんにもメッセージを送ったわ!」
顔色的に恥ずかしがるとかではなく、めっちゃ気に入っているようだ。
「良かったんですか、それ?」
正詠が苦笑しつつ先輩に聞いたところ。
「当然じゃない! デジタル時代の今、紙の新聞なんて滅多に読まれないのよ!? そんな時代に私が、この風音桜が一面に載ったの! 紙しか読まない層に私を大々的にアピールできたのよ!!」
むふーと鼻息荒く風音先輩は喜びを語っている。
「お父様もとっても喜んでくれて、この新聞を額縁に入れてくれたのよ!」
風音先輩はたわわな胸を張って言う。そのとき胸が揺れた。
おっぱい、凄い。
「けっ、つまらねぇ」
蓮はため息をついて机の新聞を畳む。
「あぁそれと日代くん。私の耳を赤くさせたいのなら、貴方が裸踊りでもすればいいじゃない。その時は恥じらいではなく、無様な姿を晒した後輩への怒りで真っ赤になるけどね」
「あんたホントに地獄のことまで聞こえてるんじゃねぇだろうな……?」
「ふふふ」
嫌そうに顔を歪めた蓮に対し、風音先輩はおっかない笑顔を返した。
おっぱい、怖い。
「さ、全員揃ったしじゃれ合いは終わりな。次の作戦会議するぞ」
そんな僕らのことを軽くあしらいながら、正詠はロビンに何かを指示した。すると、机の上に地図のホログラムが表示される。
「二回戦は中国の上海だ。広い道路はあるが、屋台などもあって隠れられると探すのが厄介になる」
正詠はホログラムを拡大して屋台の場所などを簡単に説明すると、「さて」と言いながら目線を上げる。
「誰が出るか、ですけど」
その言葉にすぐに王城先輩と風音先輩が手を上げる。
「相手が桜花絢爛ならば俺は絶対に出してくれ。去年の決着をつけたい」
「私も翼と同じ。絶対出るわ」
まぁ、予想通りだ。
「んで、大将さんよ。どうすんだよ?」
蓮は返ってくる答えなどわかっているのだろうけど、敢えてそんなことを僕に聞いた。
「スタメンには異議なし」
「ははっ、だよな?」
「となると……」
正詠は腕を組んで顎を手にやる。
「高遠、俺はお前にも出てほしいのだが」
「え……? バランスを考えたら太陽と透子、蓮が良いと思いますが……」
細く息を吐いて、王城先輩は微笑んだ。
「お前は晴野の後輩だ、理由などそれで十分だ。俺達は全員でリベンジをしたい」
「あーっと……」
頬を掻きながら正詠は僕を見る。
「異議なーし。王城先輩に賛成でーす」
「軽いな、お前は……」
一つため息をついた正詠だが、すぐに頷いた。
「わかった。透子の代わりに俺が出よう」
「ホントは出たかったんでしょ、正詠? 京都のときは良いとこなしだもんねぇ」
「別にそういうわけじぇねぇって……」
しかし正詠は眉間に皺を寄せたままだ。
「なぁ正詠、何が心配なんだ?」
さすがにこれ以上作戦会議に時間を割いてしまいたくはない。作戦をないがしろにするつもりはないけど、もうそろそろフルダイブしてしまいたい。
「相手を考えると……ちょっと、な」
正詠は再びロビンに何かを言うと、さっきとは違うホログラムを表示させた。
そのホログラムで表示されたのは北海道の桜陽、
「この人を筆頭に、まさに全国レベルだ」
正詠は「一年前のデータだけどな」と付け加えて、彼女の相棒、
・狂気A
・
・決闘B
見覚えのあるスキル(嬉しいわけではない)もあるが、どれも攻撃寄りだ。
「……って、深念? 信念じゃなくて?」
僕の疑問には王城先輩が答えてくれた。
「奴のは、な。信じるというよりは盲目的で、利己的だ。歪んだ信念という皮肉だろうな」
やれやれなどと首を振りながら王城先輩は言っているが、その顔には笑みがある。去年の試合のことを思い出しているのかもしれない。
「なぁ透子、狂気はわかるけど……深念ってどんなスキルだ?」
セレナが同じ読みをするスキルを持っているので聞いてみるが、透子もわからないらしく首を傾げた。
「んーと……セレナ、調べてくれる?」
透子はセレナにそう言うと、当のセレナは情報をいくつか表示した。
「えーっと……防御以外のステータス全アップ、防御はダウン……かな」
「ってか防御下がるならいいじゃねぇか、潰しやすくなるしよ」
透子の説明を聞いてそう言ったのは蓮だが。
「気炎万丈状態の風音が一対一を強制してきた上に攻撃が貫通し暴走状態で笑いながら迫ってくると考えたらどうだ?」
王城先輩が返した言葉に目元をぴくつかせた。
「面倒な奴ってことがよくわかったよ」
「とにかくまずは王城先輩、風音先輩、太陽、蓮、俺の連携を確かめよう。不安要素は多すぎるが、太陽のスキルさえあれば俺達は柔軟に対応できるしな」
言って正詠は立ち上がって控室を出て行った。それに僕らも続いて地下演習場に向かった。
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