穢れた生誕/■■
「ねぇ……パーフィディさん、これは、太陽くんですか?」
少女は……天草光という少女は、ホログラム一杯に映っている少年を見て、涙を流していた。
「あぁ、その通りだよ。間違いなく彼は天広太陽だ」
「かっこよく、なったんだ……あ、笑った。ふふ、前と同じ笑顔だ。とっても温かい、私だけの太陽みたいな笑顔」
しばらく、彼女はその画面を見ては懐かしむように、慈しむように、そして愛しさを抱きながら自らも微笑みを溢していたが。
「あれは正詠くん……あ、遥香ちゃんもいる。みんな大人になっ……」
しかしそれも長くは続かず、彼女は息を飲んだ。
「だ、れ?」
ホログラムに映ったのは、他ならぬ彼の相棒テラス。
「え……?」
そのテラスは太陽に頬擦りし、頭を撫でてもらっていた。それが嬉しいのか目を瞑りながら、もっと撫でろと言わんばかりに彼の指に頭を押し付けている。
「あ、あ、あぁ……」
彼女は胸を掴み、その場に膝を付いた。
「大丈夫かい?」
「あ、あれは? なん、で……私と同じ顔を?」
「あれがテラスだよ」
太陽はそのテラスへあの笑顔を向けている。彼女が大好きな、太陽のような笑顔を。
「はな、れて……離れてっ!!」
彼女は立ち上がりそのホログラムへおぼつかない足取りで向かったが、途中で転んでしまう。
「あ、やめ、て! やめてよ、太陽くん……それは、私じゃないの! そんなのに、私の笑顔を向けないで!!」
ホログラムに映る彼の笑顔の、僅かな変化を彼女は見逃さない。
「何で……やめて、愛して、るの? あんな、偽物を?」
「言ったろう? 今彼は幸せに過ごしていると」
「嘘です……太陽くん、良い人だから、騙されてるんだ」
「あぁ、なるほど。それは思い付かなかったね」
パーフィディはゆっくりと彼女を支える。
「なるほど、そうかもしれない」
「パーフィディ、さん。あそこは私の場所なんです。きっと太陽くん、騙されて……」
口元を押さえながら、彼女は何とか吐き気を堪えた。
「助け、て……あげないと……」
「何故? 彼は君を迎えに行かなかった。それなのに何故助けるんだい?」
瞳一杯に涙を溜めながら、彼女は。
「私は、太陽くんを愛しているから。例え裏切られても、私は太陽くんのためなら……何でも、するんです……」
はっきりと、そう答えた。
「ひひっ! ふっ、くく……そう、だね。ひひひひっ! 君の、くくくく、言う通りだ、ねぇ?」
彼女の一言に、パーフィディは笑いを堪えきれない。
「何を、笑っているんですか……?」
「いや、違うんだ、すまない。くくく、嬉しいんだよ、私は。君はこの世に甦り、裏切られても、それでも尚……ひひっ! 愛を貫くその姿が、眩しくて、嬉しくて、ついね……くくっ!」
「貴方は、私だけではなく、太陽くんのことも
自分を支えるパーフィディの手を払い、彼女は上着をぎゅっと握り不快さを前面に出す。
「いやいや、ははっ! すまない、大丈夫だ。少なくとも私は、私達は君の味方さ、ブラスフェミィ」
「やめて、私は天草光です。そんな名前ではありません」
「すぐに慣れるさ。あぁそうだ。詫びるわけではないが、彼に会わせてあげようか?」
「え……?」
「私達ならそれが可能だよ。どうする?」
「でも、私は貴方を信じてなんか……」
「構わないよ、信じてくれなくてもね。でもこれだけは誓える。君は私にとってはかけがえのない大切な人だ。だから君が望むのなら何でもするつもりだよ」
パーフィディは彼女の前で片膝を付き、深く頭を下げる。
「さぁ望みを口に、ブラスフェミィ。背信のパーフィディ、貴女にだけは背信しませんとも」
その姿はあまりにも真摯で、彼の言葉に天草は偽りを見出だせなかった。
「信じても、良いんですか?」
「勿論。私は天広太陽とは違う。どのような状況でも君を裏切らない」
「誓って、くださるのですね?」
「私の命は貴女のために使いましょう」
そっと、天草は怯えつつもパーフィディの肩に手をやる。
「私を、太陽くんに会わせてください。そして私の場所を取り戻すために、力を貸してください」
「仰せのままに。私のブラスフェミィ」
「私をブラスフェミィと呼ばないでください……」
「申し訳ないが、彼の前で貴女は名乗らない方が良い。いいや、名乗らずとも、彼ならすぐに君に気付く。だから、しばし耐えておくれ」
「……わかり、ました」
天草は再びホログラムに目をやる。
そこには偽物が映されている。
少なくとも、少なくとも彼女にとっては、偽物の相棒の姿が。
天草光の、偽物が。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます