花鳥風月/6-2

 あぁ、やっぱり。ゴミはゴミのままだ。ここまで来たから何だって言うんだ。優勝しなきゃ、何も変わらないのに。


『花鳥風月。初参戦、初出場。彼女ら以外、流星高校からはバディタクティクスに参戦したチームはなかったというのに、よく調べ、よく学び、よくここまで戦いました。綺羅星はここで落ちますが、次回はきっとより強く、そして輝くでしょう』


 余計なお世話だバカ野郎。

 他所の高校の施設まで借りてこの有り様。何が綺羅星だふざけんな。

 ここで勝たなきゃ何にも変わらないのに。こんなの、いい笑い者だ。ゴミがここに立っただけだと、笑われるだけだ。

 早く帰ろう。早く帰って、忘れてしまおう。

 いつの間にか会場は人が一杯だ。静かにみんな、私達を馬鹿にしてやがる。

 機械を外して、すぐに立ち上がると。


「ごめんな……ごめんな、伊織。いろはがすぐに助けに行けなくて、ごめんなぁ……」

「何言うてんねん……アホか。あんたなんかが来たところで結果なんて変わらんわ」


 涙で顔をぐしゃぐしゃにしたフジは、私を前に何度も謝っていた。


「すまんな、伊織。うちの考えが足らんかった。お前は、風音に勝ったのになぁ……ごめんなぁ」


 同じように横宮も泣いていた。東城も、朽木も、みんな泣いていた。


「ごめん、私がもっと支援できてれば」

「うちが、弱いから、負けてんな……ごめんなぁ……」


 ふざけんなよ。

 ふざけんなよ……。


「行こうや。こんな姿見られたら、流星が舐められる……」


 歯を食い縛りすぎたせいか、奥歯が痛い。

 負けたんはうちのせいやんか。うちが風音に勝ってれば、お前たちも負けなかったろうに。ちくしょう……。


――もう一度周りを見てごらんなさい。貴女は思っているよりも、変わっているはずよ


 周りを見てみろ、か。酷なこと言うやんか、風音桜。どうせなんも……。


――京都代表がそんな面見せんなや!!


 罵声にも似た一言で、顔を上げてみると。


――お前らうちらに勝った京都代表やろうが!? 負けても胸張らんか流星!!

――せやせや! 辛気臭い顔すんなや!!

――お前らはようやった!

――文句なんか誰もあらへんわ!


 それを皮切りに、一斉に拍手と歓声が上がった。


――ようやったやん!

――かっこよかったで流星!

――京都代表が泣くなや!

――やればできるやんか!


「あぁちくしょう。風音の言うとおりなんて癪やなぁ……少しは変わった……変われたやんな、うちら」


 こんな喝采、初めてだ。

 ちくしょう。もっと上に行けば、もっと、もっと変われたのに。

 ぴこん。


「なんやねん、いなり」


――ごめんなさい……ごめんな、さい。


「お前もフジも、みんなアホやなぁ……ええんや、もう。流星はこれから変わるんや。ゴミなんて、二度と言われんぐらい、変わるんや」


 少しで良い。

 少し変われば、それで良かった。

 こんなにも泥臭く、青臭く負けたってのに。

 周りは、認めてくれるんだ。

 私達の努力は、無駄やなかったんや。

 それがわかれば、充分や。


――……


『勝利したのはぁぁぁ!! 我らがチーム太陽だぁぁぁぁ!! さぁ、勇者の帰還に最高の拍手喝采でお迎えを!!』


 わっ、と海藤の一言で場が盛り上がる中、風音先輩はバツが悪そうに微笑んでいた。


「ごめんなさいね、ちょっと……ううん、かなり楽しくなっちゃって……」


 彼女が謝罪したのは僕だけではなく、チーム全員にだ。


「いえ、俺の方こそ……すみません。意地になって空気を悪くして……」


 正詠も風音先輩に頭を下げて、互いに顔を見やる。

 全員、良い笑顔をしていた。それは勝ったからという単純な理由だけではきっとない。

 チームワークに亀裂が入りそうになったけど、それを自ら乗り越えた達成感からじゃないかなと思う。


「えーっと、なんだっけ。雨降って痔になるだっけ?」


 ぴしりとみんなの顔が固くなる。

 ぴこん。

 雨降って地固まる、ですか?


「そうそれ」


 ……みんなの視線が痛い。


「こういう時ぐらい間違えるなよ、太陽」


 正詠がぽんと僕の背中を叩くと、みんながまた笑った。


「けっ、しょーもねぇな」

「太陽らしいじゃん」

「もう、太陽くんは……本当にもう……」

「現代文……いや、古典の勉強を見てやろうか?」

「古典なら私に任せなさいな」


 ちょっと(だと少なくとも僕は思う)間違えただけでこの言われよう。


「とりあえず勝ったんですからいいじゃないですか! 勉強の話はまたにしましょう!」


 テラスの頭を撫でる。


「よくやったな、テラス。ナイス根性!」


 テラスはもっと撫でろとでも言うように僕の指に頭を押し当てる。


「よっしゃ、この調子で勝ってこうぜ、チーム太陽!!」

「あぁ!」

「うん!」

「おう!」

「はい!」

「うむ!」

「えぇ!」


 全員が頷くと同時に。


『今一度、我らがチーム太陽に拍手を!!』


 海藤の声に再び大きな拍手が上がった。

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