約束/男子会2

 晴野先輩の話を、王城先輩は僅かに口角を上げて聞いていた。


「雑に話すとこんな感じだな」

「っていうか、晴野先輩ってコミュ障な人好きなんすか」

「好きっつーか、気になるんだよ。根はおもしれぇのに話すのが苦手なだけで損してる奴が」

「……」


 何だこの対コミュ障用最終兵器は。


「まぁお前も大概だろ。不良の日代とも仲良くなったし」

「蓮とはちょっとした事件から仲良くなったんで。っていうよりも、蓮から話しかけて来たんですよ」

「なんだよ日代、お前からかよ」


 にやにやとしたからかうような笑みを、晴野先輩は蓮に向けた。それに蓮は「けっ」といつものように悪態をつく。


「そんじゃ、次はお前ら全員がどうやって知り合ったか話す番だな」


 晴野先輩は唐揚げを頬張る。


「あー……そういや先輩達は知らなかったですもんね」

「男子会なんだ。包み隠さず話せよ?」

「うむ、その通りだ」


 二人の先輩の言葉に苦笑して、僕は出会いを話し始めた。

 最初は僕と正詠、遥香だけの三人だったこと。

 透子のセレナが電子遭難サイバーディストレスして、それを取り戻そうと頭を悩ませているときに蓮と仲良くなったこと。

 その時に初めて化け物と戦ったこと。

 五人でバディタクティクスに出ることを決めて、いつもいつも大変だったこと。

 最初は王城先輩達が恐ろしかったこと。

 おして最後に……光のことも。


「天草光、か」


 王城先輩は紅茶を一口飲んで、ため息混じりに呟いた。


「高遠達からざっくり聞いてたが、まぁなんだ……重い話だな」


 そう言って、晴野先輩は「悪いな、拙い言い方で」と付け加えた。


「テラスは確かに似ているんすよ、光に。でも細かいところで違うというか、子供っぽいというか……」


 別段テラスに不満はないのだが、だからこそ少し混乱するときがある。

 あの大人びた、儚い面影を残す少女が。天真爛漫で子供らしい、活発なテラスと重なるから。


「でも、テラスはきっと光と何か関係があるんです」


 ぴくりと、全員の体が僅かに動いた気がした。


「正詠達は、知ってるんだろ?」


 これは確認だ。きっと僕を除く全員は、光とテラスのことについて何か知っている。そのようなこと、もう気付いている。


「それは……」


 正詠は口籠る。

 それが明確な返事だ。


「いつか、話してくれるんだろ?」


 わかっているから、僕は待つことにした。

 僕みたい奴のために力を尽くしてくれ親友達だ。無理矢理聞き出すことではないし、テラスも言っていた通り、話す時期というのもきっと重要なのだろう。


「もしも……もしもテラスのおかげでまた天草光に会ったら、お前は何て言うか決めてんのか?」


 蓮は目を逸らしながら僕に質問を投げ掛けた。


「全部、話すよ。子供の頃遊んでたこと、好きだった遊び、忘れていたけど……ちゃんと思い出したこと。今までのことも全部、全部だ。そんで今の友達を紹介して、今度こそ一緒に学校に行こうって言いたいな」


 思い出してと、彼女は言った。

 それまではみんなを笑顔にしてねと、彼女は言った。

 その約束をちゃんと守ったと、僕は光に伝えたい。


「そうかよ」

「だから僕の当面の目的は、バディタクティクスと光に会うこと。何となく、バディタクティクス続けてれば光に会える気がするんだ」


 そこまで話して急に恥ずかしくなり、ははは、と笑ってみる。


「そうだな、太陽。俺も久々に光に会いたい。だからパーフィディ達の問題はさっさと解決しようぜ」


 正詠は嬉しそうに微笑み、僕に言う。そんな表情を向けてくれたことが嬉しくて僕は頷いた。


「にしてもよ、お前らそんなに女と絡んでるのに彼女とかいないのか?」


 ぴしりと、晴野先輩の言葉で、先程とは違う意味で空気が凍り付いた。


「……なるほど。いや聞かなかったことにしておく。すまんな、余計なこと聞いて」


 嫌味な笑みを浮かべつつ、紅茶を口に運ぶ晴野先輩にすかさず反撃を繰り出す。


「晴野先輩だって彼女いな……!」

「晴野は中学時代から付き合っている相手がいたな。今はどうしてるんだ?」


 勢いよく立ち上がって指摘しようとしたのだが、王城先輩がそれをあっさり防ぐ。


「俺、初耳です」

「そらお前、後輩に彼女自慢してどうすんだよ」


 少しだけ悔しそうにしている正詠を見て、これはチャンスと言った表情を蓮が浮かべた。


「なんだ優等生。男にやきもち妬いてんのか? そういう趣味か、なぁおい?」

「素行不良は敬う先輩がいないから俺に嫉妬か? 俺の顔が良すぎるのも問題だな」

「あ? ナルシー入ってんじゃねぇぞ薔薇男」

「おーおーやおい知識はあるんだな、素行不良」

「や、やお、い?」


 ふふ、正詠のそういった知識は僕のおかげなんだよ、蓮くん。やおいの意味も知らないんじゃあ、薔薇だ百合だ菊だと騒いではいけないよ。


「そんなわけで晴野先輩、彼女の写真見せてください」

「嫌に決まってんだろ」

「見せてください」

「じゃあバディタクティクスの全国大会で優勝したら見せてやるよ」


 無理難題すぎる……。


「じゃあ王城先輩は彼女いるんですか?」


 いるのなら見せてほしい。こんな硬そうな先輩と付き合う人を。


「……いる」

「え」

「もうフリードリヒが見せたろ」

「え」

「……」


 王城先輩は顔を真っ赤に染める。


「翼の彼女は北海道桜楊の火神だぜ? バディタクティクスで俺たちが勝ち抜くと予想した高校の。覚えてるか?」


 正詠、蓮と顔を見る。二人ともなんとも言えない顔をしていた。


「王城先輩の片想いとかじゃなかったの!?」


 驚きのあまり声をあげる。


「火神は来年こっちの大学受けるし、それまで翼は遠距離恋愛で我慢してんだよな?」

「晴野、話しすぎだ」

「いいじゃんかよぅ、翼ちゃん先輩ー」


 小バカにした口調に、王城先輩は眉間に皺を寄せた。


「はは、怒んなよ」

「全く貴様は……」


 しかしこれは朗報だ。

 ということはあの爆裂おっぱいの風音先輩はフリー。僕にもまだワンチャンある!


「ちなみに風音は婚約者がいるらしい」


 あまりの衝撃に、テーブルへと頭をぶつける。


「リア充爆発しろ……」

「お前にはテラスがいるだろ?」


 顔を上げてみると、晴野先輩はみんなの相棒を指差していた。


「悪い方向にテラスの影響受けやがって……」


 みんなの相棒は、『祝・天広、テラスご結婚』という段幕を僕に見せつけていた。


「まぁそんだけお前とテラスの相性が良く見えるってことだろ」


 正詠のフォローになってそうで絶妙になっていないフォローに、僕は再びテーブルに額をぶつける。


「彼女、欲しい」

「おっぱいおっぱい言ってるうちは無理だ、諦めろ天広」


 晴野先輩の一言が、トドメとなった。


「いつかグラマーな女の子と付き合うんだ、僕は……」


 どうしてかわからないが、何故かみんなは困ったように笑うだけだった。

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