約束/男子会
「今日は華がねぇなぁ……」
さて、この一言。
我々チーム太陽がよく通っている喫茶店『ホトホトラビット』の店主が発した一言である。その息子はつい二十分ぐらい前には「客商売やってる店が~」とか言っていたが、さすがは個人経営。っょぃ。
「なんだ、今日は太陽坊やの相棒もいないのか?」
「あっちはあっちで女子会らしいですよ」
「へぇ……それで行かせてやったのか。仲良くやってるじゃねぇか」
ぐっしゃぐっしゃと親父さんは僕の頭を乱暴に撫でた。
「お、いじめっ子の先輩共も一緒じゃねぇか。今日も後輩共をいじめてたのか?」
親父さんが次に声をかけたのは王城先輩だった。
「いじめではありません。期待しているからこそのしごきです」
「がっはっはっは! 言うねぇ!」
親父さんは僕と同じように王城先輩の頭をぐっしゃっぐしゃと撫でる。あの! 王城先輩の頭を! ぐっしゃぐっしゃと! まるで子供にするように!
「……」
さすがの王城先輩も微妙そうな表情だった。
「まぁいつもの角席使えよ。五人だと少し狭いが。茶も一杯は出してやる」
「あざーっす」
僕が頭を下げると、正詠と先輩達もぺこりと頭を下げた。勿論、息子の蓮だけはそっぽを向いていた。
「さて……」
腰を落ち着けて、僕は兼ねてから知りたかったことを聞こうと思う。
「王城先輩、晴野先輩。聞きたいことがあります」
「んだよ?」
「なんだ?」
椅子に座ってから早速の質問に、二人は少しだけ怪訝そうな表情を浮かべた。
「大事な……質問です」
少なくとも、まぁ僕にとってはだけどね。
しかし、これをさくっと話してしまってはこの二人が僕を勘違いしてしまうかもしれない……が。
「ずーっと思ってたんですが、風音先輩のおっぱい、凄くないですか」
エターナルブリザード。場は凍り付く。
「……なぁ高遠」
「なんですか、部長」
「お前らの大将ってホントこんな感じなのか?」
「今は先輩たちの大将でもありますよ」
「……こいつ女の価値は胸だけとか思ってんじゃないのか?」
「まぁ、少なくとも胸に重点を置いているのは事実ですね」
僕の問いかけを無視して、晴野先輩と正詠は話し続ける。助けを求めるように蓮を見てみるが、スマホをぽちぽち弄りながら、机の上で素振りをしているノクトの様子を伺っていた。王城先輩はというと、腕を組みながら眉間に皺を寄せて目を閉じている。
「気にならないのか、みんなは!」
とりあえず全員に問いかけてみたものの、全員がはぁ、とため息をつくだけだった。
「だってあのおっぱいですよ! テラスに一回こっそりとおっぱいのサイズを遠目で測ってもらったら暫定100ですよ! 凄くないですか!? 凄いですよね!?」
驚異の胸囲(決してダジャレではない)に僕はあの時驚きを隠せなかった。あの時とは具体的には夏休みの時で、その最中にこっそりとテラスに測ってもらった。テラスは最っ高に不愉快そうにしていたけども、土下座してお願いしたけども!
それでも僕は! 風音先輩の(暫定)バストサイズを聞いたことは後悔していない!
「100? あいつどんどん大きくなるな」
「前の時は90と言ってなかったか?」
「っていうか前って一年のときだろ? しかもよくわからんがあいつ自分から『あなた達も知りたいだろうから教えてあげる! 私のバストは90よ!』とか照れながら言ってたし」
うんうんと頷きながら、「あれは誰かに言わされていたんだったな」と王城先輩は呟いた。
「そんでそんなことを言わせた男子を二人でシバいたまでが、良い思い出だったな」
「うむ。柔道部相手だった。いや、中々骨のある話し合いだった」
「おう。骨のある話し合いだった」
そして先輩二人は僕らを見た。
「お前も俺達と骨のある話し合いがしたいのか、天広?」
……ダメ、ぜったい。
「僕は王城先輩達との馴れ初めを聞きたいですね」
無理矢理話を変えたのを見て、先輩方二人は大きく頷いた。ついでに正詠と蓮はため息をついた。
「馴れ初めと言われてもな……」
王城先輩が顎に手をやって考える素振りを見せた。
「俺と翼は中学から。桜とはこの高校からだな」
ぽん、と晴野先輩が王城先輩の背中を叩いたタイミングで親父さんが紅茶と一緒に唐揚げと山盛りポテトを持ってきた。
「唐揚げとポテトはサービスだ。今回は男ばっかりだしな。これぐらいちょろいだろ?」
「あざーっす!」
グッドタイミングでつまみも出てきて、それを食べながら晴野先輩は三人の馴れ初めを話し出した。
――……
こう見えて俺と翼は幼馴染でよ。とは言っても家が近いだけで、そこまで親しくはなかったんだよな。
んで、家も近かったし同じ中学に通っててな。中一のときから翼は空手やってて、なんかの大会で優勝したから「おめでとう」って言ったら、「あぁ。お構いなく」って言ったことに笑ってな。そんなしょーもないことがきっかけで、遊ぶようになったんだったな。
あぁ、半ば強引に引きずられてだけどな。
お前が遊びと言えばトランプしか知らなかったのが悪い。で、高校も一緒になってこりゃあもう俺ら親友だよな、ってなったタイミングで、桜が翼に体当たりしてきた。
なんすか、それ。
いや、文字通りなんだよ、高遠。すげー体当たり。どごんって。勿論翼は微動だにせず桜が尻餅着いた。その時のあいつのパンツは薄青色でフリフリのレースが付いてた。
そこもっと詳しく。
黙れ天広。翼が桜に謝りながら手を出したら「ホンット……低俗なとこ」って言ってその手を払ってな。俺がかちんときたから「おいこらしばくぞクソアマ」ってな。そしたらあいつ泣きそうになってよ。冗談だ、悪い、ごめんなって謝ったんだよ、結局あいつは自分で立ち上がって、居なくなった。
一年のときは桜とはクラスが別だったんだけど、何故かあれからよく見かけてな。時たま声をかけてたんだよ。そしたらあいつが超お嬢様高校の出身だって知ってな。
あぁなるほどな、と。だからやたらと高飛車だったのかぁって納得してからは付き合い方を少し変えたんだよ。
そっから仲良くなってな。あいつのクラスに行ったら結構孤立してたから、適当な奴を捕まえて話しに混ぜたんだ。まぁそっからあいつもクラスに馴染めてな、万々歳ってやつだ。
でも……な、初めてのバースデーエッグの授業でちょいと問題があってよ。詳しいことは俺からは言わないが、それを気にした翼が俺たちをバディタクティクスに誘って、今の仲に至る。
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