想い出/7

 口を大きく開け、愛華は泣き叫んだ。


「いっつも、いっつもにぃをあなた達は助けてくれないじゃない! 約束したのに! 約束……してたのに!」


 息を切らしながら、正詠と遥香は愛華と太陽に歩み寄った。


「正詠、太陽大丈夫だよね?」

「わからん……前と同じなら大丈夫だと思うが」

「来ないでよ!」


 愛華の拒絶を二人は無視した。そして正詠は、太陽の頭を抱える愛華を乱暴に押しのけ、太陽の様子を見た。


「にぃに触らな……」


 ぱしんと、乾いた音がした。


「うるさい、あんた」


 愛華は叩かれた自分の頬を抑えながら遥香を睨み付けた。しかしそんな遥香の表情は固く、愛華よりも強い怒りに満ちている。


「太陽、太陽。無事か、太陽」


 軽く頬を叩きながら、正詠は太陽の名を呼んだ。太陽は顔を歪ませながら、ゆっくりと瞼を開けた。


「正詠、か」

「よか……」


 ぴこん。

 マスター!?

 テラスが太陽の眼前に現れた。


「……テラ、ス」


 太陽はテラスの名を呼んだ。

 前は忘れていたはずの、自分の相棒の名を。


「ここ、どこ、だ?」


 頭を押さえながら、太陽はゆっくりと自分の力で体を起こす。


「にぃ! にぃ! 遥香ちゃんが、遥香ちゃんが私をぶったの!」


 起き上がった太陽に愛華は助けを求めるようにすがるが、そんな愛華の頬を太陽は遥香がしたように引っ叩いた。


「なん、でぇ……?」


 顔をぐしゃぐしゃに歪ませながら、愛華は太陽を見つめた。


「何かしたんだろ、お前。遥香は絶対にお前を傷付けない」

「違うもん! 私、悪くない……」

「話はあとで、聞くから……あぁくそ、頭痛するわ……」

「立てるか、太陽?」

「おう」


 正詠に支えられながら、太陽は立ち上がった。


「すまないな、こんなところに連れてきて」


 正詠の謝罪に、太陽は苦笑を浮かべて何事もないと伝えた。

 すると奥から蓮と透子が駆けてきた。その二人は太陽たちを見ると安心したように胸を撫で下ろし、走るのを止めて歩き始めた。


「よう、天広」


 息は乱れているが、なるだけ平然を装って蓮は太陽に話しかけた。


「よっ、日代。悪いな、なんか迷惑かけて」

「けっ、テメェはいつも……」

「へへ」


 無理矢理に笑顔を作った太陽だが、それを察せない蓮ではない。

 太陽の頭をぐしゃぐしゃと撫で、蓮は大きくため息をついて愛華を見た。


「おい妹、テメェには聞きたいことが山程あるんだ」


 へたりと座っている愛華は、唇を小刻みに震わせながら、壊れたSHTITを手にした。


「リジェクト! こいつらをやっちゃってよ! リジェクト!」


 既に壊れていると言うのに、何度もリジェクトを呼び、そして叩きつける。


「リジェクト……?」

「リジェクトはもういねぇよ。俺達がぶっ倒したからな」


 その言葉を聞くと、愛華はSHTITを蓮に投げつけ逃げるように這おうとするが、蓮がそれを足で小突いて防いだ。


「逃げんな、妹」

「にぃ! にぃ助けて! 殺される!」

「殺さねぇよ……どんだけ取り乱してんだ、こいつ」


 蓮はしゃがんで、愛華を抱きながら立ち上がった。


「離せ、離せ離せ離せ離せ!」

「暴れんなクソガキ! 血が出てんだろ、テメェも病院に連れていくだけだ馬鹿!」

「離せ!」


 蓮は助けを求めるように太陽と正詠に視線を向ける。


「愛華、大丈夫だ。日代は悪いやつじゃないからさ、たぶん」

「いや、いやぁぁぁ!」

「愛華、頼むから兄ちゃんの言うこと聞いてくれよ」

「あ……」


 兄らしい包容力のある声を聞き、愛華は叫ぶのをやめた。


「良い子だ、愛華」


 叫ぶのをやめた、というよりは愛華は意識を失っていた。


「何なんだ、こいつ……」


 ため息をついた蓮。そんな蓮を横目に、透子は愛華の頭を撫でた。


「太陽くんのこと、ホントに好きなんだね」

「けっ。おい遥香。壊れたオモチャはお前が持ってけよ」

「はいはい。太陽のはどうする?」



 それには正詠が答えた。


「外しておこう。何されるかわかったもんじゃない。ちゃんと……こいつの相棒がいるんだからな」


 正詠に支えられている太陽の左腕から、遥香はSHTITを外した。そして正詠はズボンのポケットからテラスのSHTITを遥香に渡し、着けさせた。

 ぴこん。

 マスター?


「だから僕はお前のマスターじゃ……」

「……お前の相棒だ、太陽」

「……わかんねぇ、わり」

「あとでちゃんと、教えてやる。今は病院に戻るぞ」


 そして全員はゆっくり歩き始めた。

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