想い出/守り抜け、親友のために

 ファブリケイトは宣言通りノクトとロビンに向かう。


「ノクト、受け止めろ! ロビンは援護!」


 大剣の腹でファブリケイトの一太刀を受け、その瞬間にロビンが矢を放つ。矢は甲冑に弾かれ、回転しながらノクトの右頬に当たる。

 ノクトは苛立ちをロビンに向けた。


「ノクト! こんなときにそんな面すんな!」


 思わぬ言葉に、ノクトはまた僅かに苛立ちを募らせた。


「ロビン、地雷矢!」


 複数の矢をファブリケイトに射つが、全てが甲冑に弾かれた。


「爆ぜろ!」


 ノクトはその場から急いで距離を取るが、爆風に煽られ転んでしまった。


「しまった……無事か、ノクト!?」


 ノクトはロビンを睨む。睨まれたロビンは、バツが悪いのか目を逸らした。


「おやおや、仲間割れですか。粗末ですなぁ」


 ノクトとロビンを一瞥すると、ファブリケイトはノクトへと斬りかかった。


「ち、ノクト! 受け止めろ!」


 ノクトは再び大剣の腹を見せるが、前方で太刀を振りかぶったファブリケイトは陽炎のように消え、ノクトの背後から斬りつけた。


「なんっ!?」


 ぐらりと体が傾く前にノクトは大剣を振るうが、そんな攻撃が当たるはずもなく躱される。


「いやはや、無様ですねぇ」

「この……!」

「蓮ちゃん、避けて!」


 薄緑の箱がいくつか現れ、それは瞬時に爆発した。


「キャハハハハハハ!」


 バディタクティクスとは違う狭い空間での戦いに、蓮も透子も慣れないでいた。


「あぁくそっ! ロビン、ノクトを支援! リジェクトに攻撃しろ!」


 その指示にロビンは蓮を見た。


「何してやがる! 早くしろ!」


 ノクトを支援しろという命令であるのに、リジェクトへの攻撃という矛盾にロビンは戸惑う。


「落ち着きなさい、少年。それでは隙を作るだけですよ?」


 戸惑うロビンに紫炎の剣撃が走る。


「飛んで避けろ、ロビン!」


 ロビンは前に飛び避けようとするが、その紫炎を直撃してしまう。


「何やって……!」

「蓮ちゃん!」


 透子の呼び掛けに、蓮は彼女を見た。

 きっ、と強く睨み付ける透子に、蓮は「なんだよ!?」と乱暴に返した。


「下手っ!」


 きっぱりと一言で斬り伏せられる。


「は?」

「ロビン!」


 透子は息を吸う。


「後退してリリィとノクトの支援を! 判断はあなたに任せます!」


 ロビンは後退し、弓を引く。


「セレナ! あなたはノクトの支援を!」


 セレナは頷く。


「リリィ! 思いっきりをお願い!」


 リリィは拳を鳴らし、リジェクトへと攻撃を仕掛けた。それはひらりと躱されるが、ロビンの矢がその隙を補う。


「蓮ちゃん。私達は正詠くんや遥香ちゃんじゃないの。彼らは彼らのやり方がある、それを殺しちゃダメ!」

「けっ、偉そうに!」


 言いながらも、蓮は楽しそうだった。


「ノクト!」


 ノクトと蓮の視線がかち合う。


「バスター!」


 大剣を振りかぶり、ファブリケイトへと降り下ろした。ホログラムの土煙が起き、蓮は顔を僅かに逸らす。


「セレナ、アクアランス!」


 土煙を払うように水の槍がファブリケイトへと走った。


「おやおや、良い指示を出しますね」


 その槍を太刀で払うと、ファブリケイトは一歩踏み込む。


「いいでしょう。ようやく楽しくなりましたし、サービスです」


 太刀を頭上で一度回す。


「スキル発動、剣山刀樹けんざんとうじゅ


 ファブリケイトの影が揺らいだ。


「我が影から生まれ出るは地獄の刀樹、刮目せよ」


 走り抜けるファブリケイトの影を追うように幾つもの刀が伸びる。


「避けろ、ノクト!」


 ファブリケイトの突進を真横に躱し、ノクトは反撃しようとするが。


「もう一つスキル、行きますよ。百花繚乱ひゃっかりょうらん


 影から伸びた刀が花を咲かすように無数に生え、ノクトを傷付ける。


「ノクト!?」


 ファブリケイトは追撃しようとノクトへと足を踏み込む。それをロビンの矢が防ぐように放たれるが、リジェクトの障壁が防ぐ。


「セレナ、ファイアウォール!」


 炎の壁が現れ、ようやくファブリケイトは攻撃を中断し後退した。


「リジェクト、平和島透子の情報を頂けますか? いやはやどうして、彼女は楽しいですねぇ」

「えー。そういうのはアルターに聞いてよー。私そういうの苦手ー」

「やれやれ。あなたもリベリオンも、情報を疎かにしすぎです。だから負けたのですよ」

「むっきー! あれはゴッドタイプのせいだもん!」


 ファブリケイトが頭を振ると、武器が紫炎に包まれ消滅した。


「今日はここまでにしますか」

「ちぇ、仕方ないね。あーあつまんないのぉー。結構気に入ってんだけどなぁ……ま、いっか」

「仕方ありません。所詮は子供、感情に素直ですから」


 ノクトがじりと足を僅かに進める。


「ご安心を。今日はここまでにします。中々楽しかったですよ、平和島嬢」


 恭しくファブリケイトは頭を下げた。


「次は女神がいるときに。あぁそうだ、最後に自己紹介を」


 ファブリケイトの足元がゆらゆらと燃え始めた。


「私は偽造のファブリケイト。背信のパーフィディ、反逆のリベリオン、拒絶のリジェクト、そしてここにはいない改竄のアルターと共に、黄泉の一団を名乗っております」


 炎は徐々にファブリケイトを包んでいく。


「情報が大事って言ってるのに何で教えるのさー」


 リジェクトはファブリケイトとは違い、足元からノイズが上がってきていた。


「サービスです。知ったところで彼らは何もできませんがね」

「それもそっか!」


 そして二人は蓮と透子を見た。


「それではごきげんよう、愚かなマスター諸君」


 ノイズを残し、二人は消えた。

 そのノイズが完全に消えたのを確認すると、透子はその場に腰を下ろした。


「怖かった……」


 そんな透子の頭を、日代は優しく撫でる。


「……かっこよかったぜ」

「無我夢中だっただけだよ……」

「ほら、休ませたいのは山々だが、追いかけるぞ」

「うん」


 透子は蓮の手を握り、立ち上がった。

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