反逆者/了/太陽は陰る

――治療を急げ! 外傷がないとしても報告通りならば致命傷だ!

――レントゲン、エコー、準備を!

――彼の相棒に生命反応バイタルを共有するように外部指令を!

――共有済みです! 仮想出血多量、左腕神経損傷、単純骨折二ヶ所! 左鎖骨骨折一ヶ所、左胸部裂傷!

――心肺低下!

――相棒、踊遊鬼より伝達です! 外傷によるショックから気絶、間もなく二時間です! 相棒の傷は回復しております!

――馬鹿な! 生命反応バイタルは低下しているぞ! 相棒は当てにするな! あぁそれと一方通行の感覚共有を強制! 体の違和感全てをデータで提出させろ!

――既に行っています!

――聞こえるか、晴野輝くん! 起きるんだ、晴野くん!


 市内病院緊急外来。そこは今ばたついていた。


――患者、もう一人来ます! 天広太陽! 相棒と情報共有完了済みです! 生命反応バイタル正常! ですが起きません! 相棒が詳細モニタリングを拒否! 外部指令にも応えません! 感覚共有も拒否されています!

――くそっ! 晴野くんと同じくレントゲンとエコーで内部損傷がないか調べろ! 相棒の交友履歴を参照し、最も親しい相棒を説得に当てさせろ! 説得相手に強制外部指令使用を許可する! 何がなんでも感覚共有させモニタリングさせろ!

――交友出ました! ロビン、リリィ、ノクト、セレナ! マスター名は順に高遠正詠、那須遥香、日代蓮、平和島透子! 四人とも間もなく到着します!

――急げ! 二度と起きられなくなるぞ!


 彼ら二人より遅れ、正詠、遥香、蓮、王城、風音、そして太陽の両親と晴野の両親が病院に到着する。


「天広太陽さんのご親族の方、高遠正詠さん、那須遥香さん、日代蓮さん、平和島透子さん! すぐに第三治療室に!」


 看護師が四人を治療室へと連れていく。


「太陽!」


 両親よりも先に、正詠は彼に駆け寄る。


「君達の相棒で彼の相棒を説得させてくれ! モニタリングも感覚共有も拒否して話にならん!」


 医師は苛立つように四人に言った。


「ロビン、頼む!」


 ロビンが現れ、続いてリリィ、ノクト、セレナが現れ、太陽を心配そうに覗きこんだ。


「テラス! 頼むから医者の指示に従ってくれ!」


 ふわりとテラスが現れる。

 その姿にはいつものような明るさはなく、どっと疲れているようだった。


「テラス、すぐに感覚共有とモニタリングを……!」


 正詠の言葉にテラスは力なく首を振る。


「お前のマスターが二度と起きられないかもしれないんだぞ!」


 それでもテラスは首を振った。


「テラス! テメーが大丈夫って言ったんだろうが!」


 蓮の大声にテラスは体をびくりと震わせ、怯えるように体を丸め座り込んだ。そんなテラスの背中をリリィとセレナが優しく擦る。


「ノクト! ぶん殴ってでも言うことをきかせろ!」


 蓮が吠える。

 ノクトは戸惑いながらも蓮の言葉に頷いた。しかし、ロビンが前に立つ。二人は激しい口論をするよう素振りを見せ、最終的に殴り合いを始めた。


「正詠、何で邪魔するんだ!」

「俺の指示じゃないが、お前のやり方は乱暴すぎる!」

「この馬鹿を助けるためにはそれぐらいやんなきゃいけねぇんだろうが!」

「他の方法があるだろう!」

「テメーこの野郎!」

「こんなときに喧嘩すんな!」

「ふざけんな! 正詠の野郎が……」

「俺じゃなくて蓮が……!」


 ぴこん。

 気の抜ける音に全員がテラスを見た。

 ぴこん。

 ぴこん。

 テラスは太陽にメッセージを送っていた。メッセージは共有をされておらず、他の相棒達には伝わらない。

 メッセージを送っても反応を見せない太陽に、遂にテラスは泣き出した。


「泣いちゃった……」

「あんた達が喧嘩なんかするから!」

「正詠が!」

「蓮が!」


 ぴこん。

 ぴこん。


「テラ……」


 透子が彼女の名を呼ぼうとしたとき。


「うるさいわボケェ!」


 がばりと太陽が起き上がった。


「あぁもうなんで起きてすぐに不愉快にならんといかんのじゃ! 今日は何ですか何曜日ですか!」


 皆が太陽に視線を向けた。


「あれ、保健室?」


 素っ頓狂なことを言いながら、太陽は頬を掻いた。


「馬鹿野郎が!」

「この馬鹿っ!」

「くそ馬鹿野郎!」

「馬鹿……!」


 四人はそれぞれ太陽に罵声を浴びせ抱きつく。


「いや、え? 何で?」


 状況を掴みきれずに、太陽は医師と両親に顔を向ける。


「あれ、いつもの保健室の先生じゃないしなんで父さん母さんも?」


 太陽の母は安堵からかその場にへなへなと座り込む。


「天広太陽くんだね?」

「はぁ、そうですけど」

「ちょっと失礼」


 医師はペンライトで太陽の目を調べ、聴診器で心音を聴き最後に脈拍を測る。


「ふむ。とりあえずレントゲンとエコーを」


 カルテに何かを書き込むと、近くの看護師にそれを渡した。


「私は晴野くんの支援に向かう」

「はい、先生。では天広さんこちらに」


 看護師は一礼し、太陽に付いてくるように言った。


「えっと……あれ、何で? ん?」


 ぴこん。

 無事で良かった、マスター!

 テラスが満面の笑みを太陽に向けた。そんなテラスに、太陽は首を傾げる。


「なんだ、?」


 誰もが言葉を失った。


「えーっと、誰かの相棒か?」

「なに……言ってん……の?」


 苦笑いを浮かべながら、遥香は言う。


「あんたの相棒じゃん! テラスだよ、テラス! 一緒に名前付けたじゃん!」

「え? 僕の相棒は確か国の不手際で電子遭難サイバーディストレスして行方不明じゃなかったっけ?」


 ぴこん。

 マスター?


「えっと……悪いけど、僕は君のマスターじゃないんだ。ごめんな?」


 太陽の言葉に、テラスは絶望の表情を浮かべた。


「いくらなんでも冗談が過ぎるぞ!」


 蓮が太陽の胸ぐらを掴む。


「やめなさい、ここは病院ですよ!」


 看護師がそんな蓮を止めた。


「うわ、なんだよ。やめてくれよ、僕は喧嘩弱いんだから」


 確かな違和感。


「あれ、まで。なに、何が起きてんの?」


 きょろきょろと周りを見て、太陽は答えを待った。だが、それに誰も答えることはできなかった。

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