反逆者/1-2/絶望の中で

 フィールドにノイズが入る。


――フィールドチェンジ、絶望。コレヨリ、バディブラッドモードニ移行シマス。感覚共有完了。モード移行ニ伴イ、全相棒ノステータスガ、快復シマス。


「さぁ殺し合おう! 最高の舞台で! 最愛の友の、目の前で!」


 不吉な言葉と共に、僕らを激しい違和感が包み込んだ。


「フィールドチェンジたぁ好都合だ。ノクトも快復したし、全力で叩き潰してやる!」


 その違和感を感じているはずだが、蓮はそんなことを口走る。


「あはぁ?」


 リベリオンは出刃包丁を地面に刺し、小石を拾ってノクトに向かって弾いた。避けるまでもない攻撃は、ノクトの額に当たる。


「ちっ、くだらねぇ真似を……」


 しかし、すぐに蓮は口を噤む。


「どうした、蓮?」


 正詠が蓮に声をかける。


「いてぇ……」

「は?」

「いてぇんだよ、!」

「何言って……?」

「あははぁ?」


 リベリオンは先程と同じく小石を全員に投げる。様々な音を立て、全員の相棒にそれは当たった。


「痛い……なんで!?」


 遥香が声を上げる。


「感覚共有って、まさか……」


 続いて透子。


「嘘だろ、おい」


 確信めいた正詠の表情。


「テラスの痛みが、僕らに……」


 そう。感覚共有とは。


「相棒と痛覚がシンクロするのか……?」


 自分の相棒の痛みが、僕らに伝わると言うことだった。


「大正解ー!! 大好きな相棒と一緒の痛みを得られまぁぁぁぁす! ギャーハハハハハハハハハ!」


 リベリオンは楽しそうに笑った。


「あーそれとぉ。ここでの戦闘不能は相棒の死を意味しまぁす! 死を共有するなんて、まさに一心同体一蓮托生! 良かったねぇ! ごっこ遊びを卒業でぇす!」


 リベリオンは再び出刃包丁を手にする。


「こんなの狂ってる! みんな、今すぐ強制ログアウトを……!」

「ギャーハハハハハ! だからそれは戦闘不能だってぇ! 自殺も面白いかもしれないねぇぇ!」


 透子の言葉に、更にリベリオンは笑う。


「嘘……?」

「それだよそれ。クソガキ共。その顔、それが見たかった。だからさっさと始めようぜ? 死ぬほどの痛みと、死の恐怖なんて中々味わえないぜ?」


 リベリオンは地を蹴る。最初に狙うはフリードリヒだ。


「おらクソガキ。まずはテメーだ」


 今までとは全く違う口調で、リベリオンは戦闘を開始した。


「フリードリヒ、避けろ! 攻撃は防ぐな!」

「オレも本気なんだ、逃がしゃしねぇよ」


 背中の触手がフリードリヒを強く叩きつけた。


「ぐっ……!」

「おらぁ!」


 リベリオンはそのままフリードリヒを踏みつけた。


「かはっ!」

「ハハッ! 生意気なクソガキ様はこの程度でダウンかい? 今までどんだけ大好きな相棒に無理させてたかわかったかぁ?」


 出刃包丁を振り上げた腕に、矢が四本刺さる。


「ちっ。狙撃手スナイパーがいたんだったか」


 リベリオンの狙いが正詠と晴野先輩に変わる。


「高遠、俺たちの腕の見せどころだ、やるぞ!」


 晴野先輩はこのような状態でも強く、はっきりと言ってみせる。


「……はい」


 対する正詠は、緊張からか声が小さい。


「行くぞ、陽光、ファイ!」


 晴野先輩の掛け声に正詠は体をびくつかせた。


「陽光、ファイ!」


 再度晴野先輩は声を上げる。


「陽光、ファイ!」


 正詠が恐れを吹き飛ばすように叫び弓を引く。


「耳障りだ、クソガキ共!」


 出刃包丁で晴野先輩を、爪で正詠を、そして触手でリベリオンは二人に攻めかかるが、それを二人は回避し同時に矢を放つ。


「いいか、高遠! 俺たち二人とも大前おおまえだ! 大前の役目はなんだ!?」

「まずは一本、確実に!」

「それでこそ陽光の弓道部だ!」


 引き絞られた二人の矢は、リベリオンの両腕にそれぞれ命中する。


「日代は翼を救援! 風音はそのフォロー! 平和島は俺たちの援護、天広はそれをパクって同時に援護! 那須は二人の盾になれ! ボケッとするな、俺はさっさと決勝戦を再開してぇんだよ!」


 一人ひとりに晴野先輩の指示が的確に飛ぶ。それは恐怖と不安で支配されていた意識を一つに纏めた。


「ノクト、行け!」

「イリーナ、続いて!」


 救援の二人は戦闘の合間を縫って王城先輩を抱え。


「セレナ、踊遊鬼にガードアップ!」

「テラス、他力本願セット、ガードアップ! ターゲット、ロビン!」


 僕と透子が戦う二人の援護。そして遥香は僕らの前に立ち、いつでも戦える姿勢を取る。


「ちぃ! 鬱陶しい!」


 正詠と晴野先輩に翻弄されながら戦うリベリオンを見て、僕らは僅かに希望を見出だした。


「セレナ、スピードアップを踊遊鬼に!」

「テラス、他力本願セット、スピードアップ! ターゲット、ロビン!」


 二人の機動力が上昇することで、攻撃はより苛烈になりリベリオンを攻め立てる。


「あー鬱陶しい。欲張らず一人ずつやるか」


 新たな触手がリベリオンの背中から生え、ロビンの左足を掴んだ。


「しまっ……」


 正詠が言い終わるよりも早くリベリオンはロビンとの間合いを詰め、爪を振りかぶっていた。


「セレナ、アクアランス! 急いで!」

「テラス、他力本願セット、アクアランス! ターゲット、リベリオン!」


 僕らの攻撃はリベリオンに確かに当たったと言うのに、あいつは怯まない。


「まずは一人だ」


 爪は降り下ろされた。


「高遠!」


 二人の間に踊遊鬼が割り込む。


「お、ラッキー!」


 五つの軌道を爪は描き、踊遊鬼の左腕をずたぼろに切り裂いた。その一瞬の間の後に。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!」


 晴野先輩の絶叫がフィールド中に響いてしまった。




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