情報熟練者/8-2/情報初心者
「次は俺達が相手だ」
ノクトは大剣の切っ先をフリードリヒに向けた。
「良いだろう」
フリードリヒは首の骨を鳴らしながら、こちらに目を向けた。
――スキル、勝利への執念。ランクSが発動しました。相手チームよりこちらの数が少ないとき、全ステータスが上昇します。
フリードリヒの目つきが変わる。あれは、獣の目つきだ。獲物を見つけ、それを仕留めることだけに集中している。
ぞわりと感覚が波立つ。
「蓮ちゃん、太陽くん……」
剣を杖代わりに立つセレナの近くで、透子は涙を浮かべていた。
「ありがとう、透子。一人で辛かったろ? もう大丈夫だ。正詠と遥香もきっとすぐに来るから」
「……うんっ!」
そんな状況の中、セレナはゆっくりとノクトに歩み寄る。
テラスがその様子に気付くと、ずいとノクトの前に出た。気を遣っているつもりなのだろう。それを察してか、ノクトは大剣を地面に刺しセレナを支えた。
二人の相棒はしばらく見つめ合う。そしてセレナはぼろぼろと涙を溢し始めた。
その涙をノクトは拭い、セレナをぎゅっと抱き締め、すぐにフリードリヒへと視線を向けた。
「行くぞ、ノクト」
蓮の言葉に、ノクトは頷いた。
「リターンマッチだ!」
短い一言にノクトが吠える。
声は出ていないというのに、空気が震えた。
――スキル、怒涛。ランクAが発動します。攻撃が上昇し、防御が低下します。
「まずは貴様からか!」
ノクトの一撃を真正面からフリードリヒは受け止める。
「透子もセレナも俺達のために戦った。次は俺たちがあいつらのために戦う!」
大剣を扱っているとは思えないほどの連撃が繰り返される。フリードリヒはそれを器用にガントレットで弾き防いでいくが、いつの間にか体の至るところから血を流し始めた。
「これは……」
剣圧は真空を僅かに巻き起こし、フリードリヒを傷付けていた。
「ノクト、下がれ!」
ノクトが後退すると、テラスが前に出て刀を振るう。
――スキル、顕現。ランクAが発動しています。こちらからの攻撃時、全ステータスランクが上昇します。このスキルはあらゆるスキル、アビリティの効果を受けず、どのような条件でも無効化されません。
テラスの攻撃を防ぎきれずフリードリヒは吹き飛ばされた。
「なるほど、そのスキルで風音と晴野を突破したか」
「ちげぇよ」
テラスは刀を構え直す。
「スキルでここまで来れたわけじゃない」
「ほう?」
「テラスが逃げたくないって言ったからだ!」
再度テラスは突進。
「ははっ! それだけか! 面白い! フリードリヒ、構わん! 抜剣しろ!」
そしてフリードリヒは今まで使うことのなかった大剣を抜いた。
重い金属音が余韻を残しながら響く。
「全国まで使わない予定だったが、貴様らになら使ってもいいだろう」
抜き放たれた大剣は無骨だが、美しかった。刀身に僅かに浮かぶ金色の幾何学紋
様。鍔はなく、柄には真新しい白い布が巻き付けられていた。
「……それは」
「安心しろ、何か特別なものではない」
確かに、風音先輩の天馬のようなものではないらしい。けれどそれを持つフリードリヒには、徐々に力が注がれているように錯覚する。
「相棒には感情があり、性格がある」
一歩フリードリヒは踏み出し、その分テラスが押される。
「そして勿論、こいつらにも好き嫌いはある」
また一歩、フリードリヒが踏み出し、テラスが押された。
「〝俺の得意分野が〝こいつの得意分野〟とは限らない」
テラスの刀を弾き、フリードリヒは頭突きをする。大剣に気を取られていたテラスはそれを避けることはできなかった。
「得意分野が分かれるの非常に稀だが、な」
その後すぐに大剣を振り下げた。ノクトがテラスの襟首を引くことでその一撃が当たることはなかった。
「助かったよ、蓮」
「油断するなよ、太陽」
大剣の切っ先を地面へ半円を描くように擦ると、フリードリヒは一歩踏み込む。
「フリードリヒ、お前に任せる」
王城先輩の命令に嬉しそうに頷いた。
横に振るわれた大剣から突風が巻き起こり、僕たちに襲いかかる。その風は鋭く刃物のように吹き荒れた。
「あんたの相棒もあんた自身も、ホントチートだよな!」
その風はテラスのファイアウォールで防げたが、すぐさまにフリードリヒは間合いを詰めた。
「全国はこんなものではないぞ?」
フリードリヒの攻撃はあまりにも素早い。ノクトとは違い武器の重さで威力だけで上げるものではない。スピードと重量、そして経験。そこから繰り出される一撃は、先程までとの拳とはまた違う破壊力を伴っている。
なんとか躱したテラスだが、フリードリヒの一撃は大地を割き、地鳴りを起こす。
「化け物のような奴など腐るほどいる」
「あなたもその一人でしょうが!」
「そうかもしれんな!」
テラスもノクトも反撃の機会を伺えず、防ぐか避けるかに精一杯だった。
「失策だったぞ、貴様らは。晴野や風音ならば、一対一で負けぬ」
「ははっ! 正詠と遥香ならそういう状況程根性見せますよ!」
「それでも勝てないさ、俺の仲間は……」
王城先輩が言葉を繋げている途中、土煙を巻き起こしながらイリーナがこの場へと現れた。
「強いからな」
にやりと王城先輩は笑みを浮かべた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます