情報熟練者/6-2/情報初心者

 挑発するように日代は風音先輩に言うものの、彼女はそれに乗らず笑った。


「ふふ、そういうの嫌いじゃなくてよ、日代くん」


 イリーナは天高く舞い上がる。


「だから耐えてごらんなさい?」


――スペシャルアビリティ、天馬咆哮てんばほうこう。ランクEX+が発動しました。全属性で超広範囲へ超威力の魔力依存攻撃を行い、フィールドを小時間炎上させます。


 天馬は再び嘶いた。

 天馬の白翼に輝きが収束していく。


「ロビン、速攻でセレナを!」

「テラス、他力本願セット! 速攻! ノクトとリリィを!」


――スキル、速攻。ランクAが発動します。機動と攻撃が上昇します。

――スキル、他力本願。ランクEXが発動しました。スキル速攻Aがランクアップし、速攻EXになります。

――スキル、速攻EX。機動と攻撃が上昇します。ランクA以上の場合、更にステータスが上昇します。


 ロビンがセレナを抱え、テラスがノクトとリリィを抱えて直撃を避けるべく、焼け野はらとなった裏山へと向かう。


「テラス、大丈夫か!?」


 いくらランクが高いスキルとはいえ女の子が二人も抱えられるか心配だった。しかしテラスは余裕の笑みを浮かべていた。


「意外とタフじゃん」

「お前は相棒のこと舐めすぎだっての」


 セレナを抱えるロビンは、やれやれとでも言うように頭を振った。


「お前の相棒はホント生意気だな」


 背後では爆発と共に炎が舞い上がっていた。


「よし、ここまで来れば大丈夫だろう」


 ロビンはセレナを下ろし、テラスも二人を下ろした。


「スペシャルアビリティは少し溜め時間が必要だから、すぐには使われない。その前

にこっちから攻撃を……」


 正詠がまだ話している途中で、ロビンの胸に矢が刺さる。


――スキル、正射必中。ランクAが発動しました。スキル発動後のみ、自身の攻撃に必中&威力上昇効果を付与します。

――踊遊鬼の攻撃がクリティカルヒットしました。

――ロビン、バッドステータス。動揺。一時的に全行動が不可能となります。


「一体何が起きた、正詠!」

「…………! …………………………!」

「正詠!」


 ロビンの近くにいる正詠は口を動かしているはずなのに、こちらに声は全く聞こえない。


「落ち着いて太陽くん! バッドステータス中は連絡が取り合えないだけだから! それよりも……!」


 セレナが剣を構えた。


「そうですよ。彼よりも自らの身を案じた方が良いのでは?」


 既に天馬に跨がるイリーナはこちらに追い付いていた。


「この……テラ……!」


――スキル、正射必中。ランクAが発動しました。スキル発動後のみ、自身の攻撃に必中&威力上昇効果を付与します。

――踊遊鬼の攻撃がクリティカルヒットしました。

――ロビン、バッドステータス。動揺。継続します。一時的に全行動が不可能となります。


 ロビンに再び矢が刺さる。


「くそっ、かなり距離が空いてるはずだぞ!?」


 蓮は文句を言いながらもノクトにロビンを守るように指示を出す。


「本当にあなた達は運が良かった。ここまで脅威になるスナイパーがいなかったんですもの」


――スキル、正射必中。ランクAが発動しました。スキル発動後のみ、自身の攻撃に必中&威力上昇効果を付与します。

――踊遊鬼の攻撃がクリティカルヒットしました。

――ロビン、バッドステータス。動揺。継続します。一時的に全行動が不可能となります。


「なん!?」


 矢がノクトを避けてロビンに刺さった!?


「さぁ、そろそろその子もキツいのでは?」


 ロビンと正詠を見る。既にロビンの瞳に生気は見られず、いつ倒されてもおかしくない。


「どうすりゃいいんだよ、こんな奴ら……」

「セレナ、ロビンにヒールを!」


 セレナが回復アビリティを使用したことで、ロビンの顔に僅かに活力が戻る。


「戦況分析!」


――スキル、戦況分析。ランクBが発動しました。戦況分析が行われ、情報が味方全てに共有されます。


「射程暫定が5キロ……? そんなの、有り得ない! いくら正射必中に必中効果があるからって、投擲武器の最大射程はどんなに強化しても3キロのはずなのに!」

「どうしてかしらね、平和島さん?」


 天馬が急降下して透子に突進してくる。それをリリィが前に出て防御する。


「あなた達のブレインはしばらく動けませんし、平和島さんをいい加減翼の元に送りたいのだけれど」

「させないっての! 人さらいか、あんたは!」

「まぁ……そんなこと初めて言われたわ」


 風音先輩の全く変わらない態度に苛立つものの、それはやはり強者の余裕だからかと納得してしまう。


「正詠くんならどうするの……正詠くんなら……」


 対して僕らはいつも指示を出してくれていた正詠が一時的に行動不能になり、ただでさえ混乱しているのに相手の謎の攻撃で余計混乱している。


「駄目だよ、やっぱり私には……」


 透子の弱音が僕らに聞こえる。聞こえてしまった。

 ぎりという歯軋りは誰が発したものか。

 そしてその後すぐに、天馬は光に霧散して消えた。


――天馬。攻撃ヒット。天馬消滅します。


「……まぁ、誰かしら?」


 イリーナはふわりと大地に降りた。


――スキル、柯会之盟。ランクBが発動しています。盟約設定により、ロビンが一時的に行動可能。一時的に攻撃が上昇しました。一度のみ攻撃に必中が付与されました。


 胸に三本も矢が刺さっているロビンが、弓を引いたのだ。


「正詠……」

「…………! …………………!」


 正詠は透子に向けて何かを叫んでいた。


「わかんない……わかんない!」


――スキル、正射必中。ランクAが発動しました。スキル発動後のみ、自身の攻撃に必中&威力上昇効果を付与します。

――踊遊鬼の攻撃がクリティカルヒットしました。

――ロビン、バッドステータス。動揺が悪化し、瀕死となります。回復するまで全行動が不可能となります。


 これは、やばい!


「透子!」


 蓮が透子の名を叫ぶと、彼女は蓮を見た。


「俺とノクトはやれるぞ!」


 僕には何のことかはわからない。しかし、透子は蓮が何を言いたいのかを察したかのように、ゆっくりと頷いた。


「ノクトを置いて逃げます!」


 透子の一言。


「ふざっ……!」


 ふざけるな、と叫びそうになったが、僕はそれを飲み込んだ。この状況は今までとは全く違うのだ。感情論で何とか出来ていた今までとは全く違う。


「テラスは、ロビンを抱えて速攻を使ってください! リリィとセレナはテラスに続いて!」


 透子の体は僅かに震えている。このようなこと、彼女だって言いたくないはずだ。それでも、このままでは負けると察したのだ。


「テラス、他力本願セット! 速攻!」


――スキル、他力本願。ランクEXが発動しました。スキル速攻Aがランクアップし、速攻EXになります。

――スキル、速攻EX。機動と攻撃が上昇します。ランクA以上の場合、更にステータスが上昇します。


 テラスはロビンを抱えた。


「蓮! 必ず助けに来るからな!」

「当たり前だ馬鹿野郎! こんな化け物長い時間一人で相手したくねぇぞ、俺もノクトも!」


 そして僕らはノクトを置いてその場から離れた。



   情報熟練者/■/情報初心者



 テラス、ロビン、リリィ、セレナが場を離れると、辺りはしんと静まり返る。


「随分素直に逃がしてくれたな?」

「えぇ。別に平和島さんでなくともいいもの」


 風音の言葉を聞いてか、イリーナは薄い笑みを浮かべた。


「さすがに余裕かこのアマ」

「まぁ……足癖の悪い相棒のマスターは口が悪いのね」

「けっ」


 未だにイリーナ本人の戦い方を知らない蓮は、ノクトに攻撃指示は出さない。いや、彼にとってはこの状況の方が都合が良いのだろう。


 待ち続ければ全員が戻ってくるだろう。


 だが、それは甘い考えだと次の瞬間に彼は気付いた。


――スキル、召集。ランクAが発動しました。フリードリヒ、踊遊鬼をイリーナの近くに呼び出します。


「まずはあなたからですよ、日代くん」

「けっ。なんだよ三年。二年一人に総力戦か?」


 蓮は精一杯の悪態を付く。


「お。日代か。こりゃあ楽しくなりそうだな、翼」


 晴野は少しうれしそうだった。


「ふん。無駄だが仕方あるまい。行くぞ、日代。恨むのなら貴様を見捨てた者を恨め」


――スキル、決闘。ランクSが発動しました。使用者と対象者とで一対一の戦闘が強制されます。使用者と対象者に付与されているプラスマイナス効果問わず解除します。今後、使用者と対象者への全援護スキルとアビリティを使用不可能となります。


「上等だこの野郎!」


 先に仕掛けたのはノクトだ。剣を横に薙ぐ。


「遅い」


 それをフリードリヒは拳で弾き、ノクトの脇腹へと重い一撃を放つ。


――ノクトに攻撃がクリティカルヒットしました。


「ノクト!?」


 ぐらりとノクトが倒れる。たった一撃で。


「くくっ……」


 蓮はフリードリヒと王城を見る。


「脆いな、日代」


 卑しい笑みを浮かべたフリードリヒは、倒れたノクトに拳を振り下ろした。

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