初戦/3-2

 前と同じく体が急にふわりと浮いたような錯覚と共に、体が落ちていく感覚が同時に襲い掛かった。


「んー慣れない」


 しかしそれは一瞬で、ふいに〝世界〟が広がる。

 けれど平和島の相棒を探していた時とは違って、五感全てで感じる情報は整然とされていて不快感はない。


「お、おう……これがちゃんとしたフルダイブ?」

「というよりも情報が制限されているから前みたくならないだけだ」


 正詠の声に振り向くと、でかくなっているロビンがいた。腕を組んでニヒルな笑みを浮かべている。何か腹立つ。


「前のって……セレナの時の?」


 平和島の声が聞こえてまたそちらに振り返る。


「ん。まぁな」


 髪を靡かせる自信満々な姿のセレナがいた。正直でかくなっているセレナを間近で初めて見たが、こいつ平和島に似てないな。なんか淑女っぽくないし。おっぱいは似てないくせに。

 そんなことを口には出していないのだが、何故かセレナの目線が冷たくなった。僕は何も言っていないのに。


「馬鹿なことやってんじゃねぇ」


 日代のノクトは呆れるように肩を竦めた。


「きゃー! リリィ凛々しいよー! かっちょいい!」


 リリィがポーズを決めている。

 チームとは言え、ホントこいつら自由だなって思う。もちろん僕を筆頭としてだが。


『両チーム準備は良いかぁ! ここで校内大会のみの限定ルールを紹介するぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』


 海藤の声がきぃんという耳鳴りと共に聞こえる。

 いくら実況とは言え、もう少し静かにしてほしい。こっちはヘルメットを通して直に耳から聞こえるから、ぶっちゃけうるさい。


『今回の校内大会では特別ルールである、〝誇りプライド〟制度を導入するぞぉぉぉぉぉぉぉ!』


 だからうるさいっての。


『今、バディタクティクス非公式大会で超! 有名な! ルールだぁぁぁぁぁぁ! 大将が倒されなくても、この〝誇りプライド〟を持っているプレイヤーが倒されると負けになってしまう特別ルールだ! 守るのは大将だけじゃない! 自分たちの〝誇りプライド〟も、お前たちは守れるかぁ!?』


 ……つまり僕が負ける以外にも、その〝誇り《プライド》〟を持っている仲間が倒れると負けになるのか。


「正詠、初耳なんだけど」

「奇遇だな、俺もだ」

「あのバカ校長の野郎、絶対面白そうだからって理由で導入しただろう。俺はそんなの持つのはお断りだ」

「とりあえず、その〝誇りプライド〟ってやつを持った人が倒されると負けちゃうんだよね?」

「そうなると正詠くんが持つのが良と思う」


 特に相談もすることなく、その〝誇りプライド〟というものを正詠に任せることに決めた。


――チーム・太陽。〝プライド・プレイヤー〟を設定してください。


 急なアナウンスに少しだけ驚いたが、〝プライド・プレイヤー〟とは、先程海藤が言っていた〝誇りプライド〟を持つプレイヤーのことだろう。


「僕たちはプライド・プレイヤーをロビン……高遠正詠に設定する」


――承知いたしました。チーム・太陽、プライド・プレイヤーをロビンに設定。ロビンの全スキル効果が一時的に上昇します。


 なるほど。プライド・プレイヤーに設定されるとスキル効果が上昇するのか。初耳なことばかりでかなりビビる。


――フィールドは市街地。これより転送いたします。


「いいか太陽。作戦通りに頼むぞ」

「おう」


 ふわりと体が浮いて、僕とテラスはどこかともわからないビルの中に飛ばされた。


――制限時間は三十分、三十分で勝負が決さない場合は十五分の延長、延長でも勝負が決さない場合は、プライド・プレイヤー同士の戦いを行うことになります。


 いやねホントにね。こういうのはもっと事前に情報展開しましょうよ。急にテスト範囲変えるようなものだよ。


「僕らはプライド・プレイヤー同士の戦いになることだけは回避しないとな」


 隣にいるテラスが頷いた。


――試合……開始!


 けたたましいブザー音がフィールド全体に響く。


「僕たちは大将だからとりあえず待機しような、テラス」


 テラスは頷いた。しかし彼女の表情には緊張が見られ、刀を握る手は僅かに震えている。


「なんだよ、お前も緊張するんだな」


 テラスは僕の言葉に頬を膨らませた。そんなことを言う僕もかなり緊張しているのが確かだが。

 テラスは話すこともできないので、必然的に場は静まり返ってしまう。その静寂がまた、この緊張感を掻き立てていく。

 試合が始まるまでは動画などを見てイメージトレーニングをしていたが、やはり本番は違う。闘うのはこのテラスたちではあるのだが……臨場感といううか、責任感というか。そういったものがずしりと重く、自分の胸にある。

「こういうときだけは、お前と話せたらいいのにって思うよ」

 少しでも話せれば、この緊張感は柔らぐのではと思ってしまう。

 

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