初戦/太陽は沈まず
昔、少女には好きな男の子がいた。
みんなの中心にいて、いつも元気で、真っ直ぐで、純真で。
いつも遊ぶ花畑で、少年はいつも笑っていた。
笑顔は太陽のように温かくて、自然とこちらも笑みを浮かべてしまうような。
そんな少年を、好きになるなという方が無理だったのかもしれない。
「ねぇ■■■■やっぱり■■■■■■■■なの?」
少女は手鞠を弾ませながら少年に話しかけた。
それを少年は手鞠歌を口ずさみながら眺めている。
「■■■■■■■■■ないよ。僕が好きなのは■■■■だよ」
手鞠歌を途中でやめて、少年は少女へと優しく声をかける。少女はまだはっきりとしない感情に戸惑ったが、少年へと向けたことのない笑みを向けた。
少年は少女の笑みに少しだけ驚いたような表情を浮かべたが、すぐにいつもの太陽のような笑顔に戻った。
少年少女の近くには、もう一組の少年少女がいた。
花冠を少女は作り、少年は無感情な瞳でそれを眺めていた。やがて花冠を二つ作り上げた少女は、それを自分と少年の頭に乗せた。少年の表情は変わらないが、頬が少しだけ赤く染まっており、多少は嬉しいように見えた。
それを眺めていた太陽の笑みの少年は、駆け寄りながらからかうような言葉を投げる。その後ろを手鞠の少女は追いかけた。
からかわれたであろう当の本人は年相応の恥ずかしがりも見せずに、ただただ無言だった。
花冠の少女は手鞠の少女の裾を掴んだ。
「ねぇねぇ。やっぱり■■ちゃんは■■と結婚したいの?」
「えー? うーん……■■くんが良いなら私は……」
きゃっきゃっと少女二人の話のせいで空気は桃色に色付き始める。それを居心地悪そうに少年二人は聞いていたが、やがて少女二人の会話に飽きたのか花をどこまで遠くに飛ばせるかの遊びを始めた。
「もう、全く男ってのはろまんす、っていうのがないんだから」
花冠の少女は手鞠の少女へと同意を求めた。しかし手鞠の少女は一心に太陽の笑みの少年へと視線を向けている。少女の熱の籠った視線に、花冠の少女も当てられた。
「■■ちゃん」
こそりと、花冠の少女は声をかけた。
「なぁに?」
「■■はね、きっと■■ちゃんが好きだよ」
手鞠の少女は耳まで真っ赤にして、花冠の少女と太陽の笑みの少年を交互に見やった。花冠の少女は得意気な笑みを浮かべて、手鞠の少女の肩へと小さな手を乗せた。
「私が連れてきてあげるよ、■■のこと!」
「いいの! やめ……て」
手鞠の少女は花冠の少女に強く言った。あまりにも似合わないその語気に、花冠の少女は体をびくつかせる。
「ごめん……でも、本当にいいの。ありがとう■■ちゃん」
この中の誰もが知る由はなかったろう。
ましてや、〝今〟でもこの少年少女達は知ることはない。この少女の命というものが長くなかったということを。そしてこの手鞠の少女が、紛うことなき〝天才〟で、後の世を大きく変えた存在であるということを。
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