第四章 友達の条件
友達/1
友達/1
夜中の校舎侵入。僕と正詠、遥香、日代はそりゃもうこっぴどく叱られた。
前代未聞、非常識、校則違反、と生徒指導の
特に日代への当たりは強かった。
「日代! お前はいつも問題ばかり起こしおって! もう貴様は停学では生温い! 退学だ退学!」
はっきりと口にされたことで、日代はぎろりと生徒指導を睨み付けた。
「はっ。ぴーちくぱーちく鳴くことだけは大人ってのは一流だよな」
正詠が大きなため息をついた。
正詠が言いたいことはわかる。これじゃあ逆効果だ。
「なんだと!」
生徒指導は机を叩く。
それに対抗するように日代は立ち上がり、パイプ椅子を蹴っ飛ばした。
「やんのかこらぁ!」
あぁ、もうなんか滅茶苦茶だ。これじゃあ僕ら停学どころじゃないかもしれない。
「まぁまぁ。落ち着いて」
ずっと無言だった校長が、二人に優しく声をかけた。
遥香がおどおどとしながらも、日代のパイプ椅子を取ってきた。それを見た日代が「わりぃ」と小声で遥香に言った。
「君たちも今日は災難だったねぇ」
校長は柔和な顔を浮かべながら、話し始めた。
「夜に連絡があったんだよ。誰かが校舎に忍び込んだのを見たっていうね。それで私と、峰山先生、小玉先生が丁度手が空いてたんで見に来たんだよ」
校長は、はっはっはっと笑った。
「いやぁまさか小玉先生のクラスの子達が揃い踏みとはね」
「お恥ずかしい限りで……」
小玉は大きくため息をついた。
「で、君たちは何をしていたのかな?」
校長の目は、僕らを非難しているようには見えなかった。
僕ら四人は互いを見た。そして僕が頷くと、三人も頷いた。
「その……平和島の、平和島透子の相棒を探してたんです」
「平和島透子さんは、君たちの友達かね?」
「えっと、僕らのクラスメイトで、遥香……那須遥香の友達で、日代蓮の幼馴染みです」
遥香はうんうんと頷き、日代はそっぽを向く。
「確か、電子遭難していたね、平和島さんの相棒は」
校長は小玉を見ると、小玉は首を縦に振った。
「電子遭難した相棒が見つかった前例はないと知っているのかい?」
「知って……いや、あの。高遠正詠が調べて知ってました。でも完全絶対座標があれば、助けられるかもしれないからと」
「見つかったのかな?」
校長の声は変わらず穏やかだ。
「見つかりました」
それに僕ははっきりと答えた。
「ほぅ……嘘ではないね?」
「はい」
校長は体を背もたれに預けて細く息を吐いた。
「校長先生! 電子遭難なんてのは子供の力でなんとかなるものでは……!」
「しかし彼らは見つかったと言っていますよ、峰山先生」
「嘘に決まっています!」
その一言を聞いて正詠が咳払いをする。
「峰山先生。正確には電子遭難ではありません。相棒強盗でした」
正詠の言葉に、大人三人の視線が一気に彼に集まった。
「ロビン、撮ったスクリーンショットを出してくれ」
ロビンが現れて、スクリーンショットを三人に見せる。
そのスクリーンショットには、あの黒い化け物とそれに捕まっている平和島の相棒が写っていた。
「これは……」
小玉はそれを凝視する。
「合成には見えないねぇ」
校長の声は変わらず穏やかで、うんうんと二度頷いた。
「まぁ相棒を介した画像改竄とかは不可能だし、確かだろうねぇ。ね、峰山先生、小玉先生」
にっこりと微笑む校長を見て、僕は胸を撫で下ろした。
「友達を助けようとするのは良いことだ。ただやり方が少し悪かったね。ちゃんと申請を出せばここは使えたというのに」
校長の一言に、日代が答える。
「けっ。どうせ許可しねぇだろうが。相棒をもらったばかりの俺達がフルダイブしたいと言ってもよ」
ノクトが日代の肩に座りながら、校長を睨み付けていた。
「日代くん、確かに君の言う通りだね。おそらく許可しなかったろう」
校長の瞳はどこか悲しげで、切なそうだった。
「でもね、だからといって規則を破って良いと私は言わないよ。規則は君たちを守るためにもあるのだからね。慣れないフルダイブでは情報過多によって情報過敏性発作を引き起こす子達もいる。あれは最悪脳細胞の死滅も引き起こし、重度の障害を残す可能性もある」
校長は日代の目をしっかりと見つめて、言葉を続ける。
「そんなことを起こさないためにバースデーエッグの授業があり、我々教師がいる」
校長は立ち上がる。
「いいかい、幼馴染みを、友達を守りたいのなら規則の中で戦う術を身に付けなさい。規則外では確かに幅は広がるが、凶悪な敵だって多い。今回の相棒強盗もそうだろう? 規則内ならば、我々が全力で君たちを守り、武器にもなれる。というわけで、だ。明日、平和島さんの相棒が戻っていれば反省文のみ。戻っていなければ全員三日の自宅謹慎。先生方もこれでいいかね?」
教師二人の肩を叩くと、教師二人は「仕方ありませんな」、「校長先生がそう仰るのなら」と口にして立ち上がった。
「さぁ、四人とも。今日は帰りなさい」
校長の顔は変わらず穏やかだった。
校舎を出てすぐに、日代は口を開いた。
「付き合わせて悪かった。それと、あ、あ、あ……」
日代は顔を真っ赤にして急に吃り始める。
「あり、ありがと、な」
僕らは目をぱちくりさせて日代を見た。
「今度、埋め合わせ、する」
そこまで言うと日代は急に走り出して、すぐに見えなくなった。
「意外と可愛らしいところあるんだね、日代って」
遥香は微笑みを浮かべている。
「礼を言うのは俺たちの方なんだけどな」
ロビンのように正詠は肩を竦める。
「いやー男のツンデレはないと思ったけど、これは中々いいねぇ」
やっぱり、あいつは良い奴なんだろうなぁ。
「さて、ここで遥香と太陽に悲報がある」
「なーに?」
「なんだよ?」
「終バスの時間はとっくに過ぎている」
「マジっすかぁー」
僕らは肩を落として、決して短いとは言えない帰路を歩み始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます