第五章 サイレントブルー&ヴァイオレンスレッド PART6
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「水樹さん、たくさん花束を貰ってよかったね。せっかくだから、家に帰った後、メッセージカードをよく見てみたらいいよ」
「ん? 帰ったら、カードの中身も見ることにするよ」
「うん、それがいいよ」
楽屋へ戻ると、風花は嬉しそうに微笑んでいた。その微笑みには薔薇のように棘が入っているんだよと伝えたかったが、そんなことをいえる状況にはない。
横にいる風花を見ると、早く花束を奪いとれと促している。
「花束はオレが持って帰るから、二人は飯でも食いに行けばいい」
「うん。それがいいよ。そうして貰いなよ、水樹」
風花が催促すると、火蓮は疑いの目で見てきた。
「……兄さん、今日は遅くなるの?」
彼の瞳を見ることはできない。2人の関係を想像すると胸が嫉妬に駆られていくからだ。
「……そうだな。すぐには帰らない。だからお前達もゆっくりしてくればいい」
口元を引き攣らせながらホールを後にする。二人が後ろから手を振っている様子が見えたが、振り返ることはできない。
……これでいいんだ。オレが火蓮になりきれば、それでいいんだ。
先ほどあった風花との会話を反芻する。
「演奏が終わったら、二人で食事に行かせてくれない?」
「いいよ。ついでに花束を持って帰ろうか?」
「うん、その案いいね。それでいこう」
……今度からはこれがオレの幸せになるんだな。
風花にばれないように彼女をサポートする。これが自分の使命になるのだ――。
◆◆◆
ホールを出た後、後ろから女性の大きな声がした。驚いて後ろを振り返ってみると、真っ赤なドレスを着た女性が息を切らしていた。美月だった。
「火蓮、なんで何もいわずに帰ってるのよ? 私との約束は忘れたの?」
「約束? 何のことだ?」
「とぼけないで。文化祭が終わった後、私とご飯を食べに行く約束をしたでしょ」
ホールに行くとはいったが、食事に行くとはいっていない。それに今は一人になりたい気分だ。
「そうだったかな。すまない、今日はちょっと飲みに行きたい気分なんだ」
腕を上げて花束を見せると、彼女はたじろぎながらも尋ねてきた。
「そんなたくさんの花束を持ってどこに行くのよ」
「いいじゃないか。大人の店だ」
美月の顔が徐々に高潮していく。しかし彼女の気持ちを考えている余裕はない。
「じゃあ私もそこでいいから、ともかく話をさせて」
「明日じゃ駄目なのか?」
「……駄目。今日じゃなきゃ」
美月の足元を見ると、ドレスの下には不釣合いな白のスニーカーがはみ出ていた。急いで出てきたことがわかると、これ以上押し通すことはできない。
「……わかったよ。場所はお前が決めていい」
「じゃあ火蓮の家で飲まない? どうせあの二人は今日遅くなるだろうし」
あの二人、という言葉を聞いて気が狂いそうになる。風花の顔を思い浮かべると胸が苦しくて焼けそうだ。
「それで構わないが……先生にはちゃんと連絡しておくんだぞ」
「ええ、もちろん」
美月は両頬を上げながら頷いた。その瞳には強い意志が宿っていた。
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