91.燐矢
「…………無事ですか、【
「まあ、あんたが庇ってくれたお陰でな…………」
服についた埃を払いながら立ち上がったのは【
「まったく、想像以上でしたね…………【
「いや、言ってもいいと思うな俺は…………何なんだよさっきのバケモンは」
「
「敵でもないって…………さっき思いっきり襲われただろ」
「台風が通り過ぎたようなものです。気にしても仕方ありません。とはいえ、流石に愚痴りたくはなりますけどね…………まったく。危うく怪我をするところでした」
「あ、怪我してねーんだ。回帰したとかじゃなくてハナからノーダメなんだ」
驚いているのか呆れているのかわからない口調で【
「さて、思わぬハプニングに見舞われましたが、貴方のやることは変わっていませんよ。梟達を追撃しましょう。さあ、立って。走りましょう」
「ウヒェ、容赦ね~のなホント…………はいはい了解です。馬車馬のように働きますよっと」
【
未曾有のお祭り騒ぎの裏で、それでも各々の思惑は確かに進行していた。
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲
▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
「うふふふふ。うふ、うふふ、うふふふふふふふ」
「まったく、楽しそうで何よりね【
「まあ、コイツが楽しそうなのはいつものことだ」
宴の渦中。
【
「やれやれしかし…………明確に自分より格上の敵、か」
クスクスと笑みを溢しつつ【
「お初にお目にかかる、ってやつね」
「右に同じ…………お前もお前で楽しそうだな。こっちは随分と珍しい」
「そうかしら? …………そうかもね。無駄に長生き…………いや、生きてはいないから長在りかしら? ともかく長い時間を過ごしてきて、ここのところはさっぱり味わってなかった体験だもの。多少の高揚は当然じゃないかしら?」
「ああ──そうかもしれんな」
原初の死神である二人は、初めて相対することとなった格上の存在に静かに闘志を燃やしていた。
「うふ」
ピタリ、と【
「…………何か来るぞ」
「百も承知よ」
身構える二人をよそに、【
【
──と、その後ろに新たな車輪が佇んでいた。
「は?」
「え“」
その新たな車輪を更に真横に転がすと、更にその後ろから。
切り分けたロールケーキのように。
蒼葬の大車輪は、その数を三輪へと増やした。
「うふ」
そのままそれらの大車輪は勢いを増していき──【
「──
目にも止まらぬ三連
神速の三輪撃が二人を襲う。
「ぐ」
「カッ…………!」
三輪の内分けは、【
回避など到底間に合わない神速。両者ともに辛うじて防御態勢を取るのが精一杯だった。
そして、その防御も。
「ぐっ…………! がああ!」
【
「き、ゃぁ──」
【
「うふふふふ」
圧倒的。それに尽きる。
問答無用と言わんばかりの暴力の嵐は、悠然と歩を進めていく──
「──【
白きその死の影は、背後から音もなく現れた。
「…………」
ピタリ、と白刃が静止する。
背後から振るわれた死神の刃を、青褪めた騎士は振り向きもしないまま片手間に摘んでみせた。
「おいおいッ………!?」
そのままの姿勢で放たれる無造作な後ろ蹴りは、【
「ご、ぁあ!」
ついぞ振り向きもしないままに、【
「何しに来たんだクソガキ」
悪態をつきながら、大車輪二輪を弾き飛ばして【
「うるっせえ…………一瞬でも時間は稼いでやったろ」
「ホントに一瞬だったけどねー。なかなか復帰してこないから逃げ出しちゃったのかと思ったわ。ゲホッ。はー痛った」
損傷してはいるものの五体満足の【
「車輪をカウンターの【
「全然よ。崩壊させるのが間に合わなくてこの有様なんだから。速過ぎるわまったく」
「うふ、うふふふふ」
自らの攻撃を凌いでみせた両者を見て、一層喜色を強めて笑う【
「…………無策でどつきあっても勝負にならんのはわかった。小僧、お前は俺達二人の支援に回れ。お前の
「…………出来るのはあんたぐらいしかいないっつーの。俺がショボいみたいな言い方は止めてくれ」
「【
「うふふふ、うふふ、うふ」
新たに喚び出した車輪を手にし、それを地面から水平にして振りかぶる【
「投げてくるか。潜り抜けて懐に──」
「うふ」
するとその車輪が、みるみるうちに。
なっていった。
「──数だけでなくサイズまで自在か……!」
「避け──」
「きれねえなコレ」
「──
巨躯が駆ける。
超のつく大車輪は、湘南の町並みをまるで模型か何かの如くに踏み潰し、噛砕していく。
三人からはもう悲鳴も呻きも聞こえない。
「うふふふふ──」
轟音と共に瓦礫の海と化した一面。
だが、【
それは敵が未だ消えていない事を、知ってか知らずか。
瓦礫を跳ね除けて現れたのは──
「ゲッホっ。荒っぽいわねまったく。もう少しまともな助かり方無かったの?」
「贅沢言うなアホが。盾になってやったのは俺だぞ」
「真下の地面を壊して穴開けたのは私なのだけれど」
「どっちも俺が省略してなきゃ間に合わなかったろうが」
瓦礫の下の地面の中から這い出てくる死神達。
それらを目視した途端に、【
「チッ、休む間も与えてくれねえか」
「どうするの? このまま投擲に徹せられたらまるで近づけないわよ」
「俺の【
「動きを止める事に関しては【
「懐に入ったからってあっさり壊させてくれる相手じゃなさそうなのだけど。さっき【
「どうにかできなきゃ、どうにもならん」
「…………仰る通りで。はぁ、やるわよやるわよ。確かに、このままじゃ埒があかないし」
「…………うふふふ」
段取りを立てる三人を見て、蒼葬の騎士が今度は両の手に車輪を取った。
「おいおい、今度はあのバカでけぇの2つぶち込んでくるつもりか?」
「完全に更地になるわよ
そんな会話が溢れるものの、しかしその言葉は的外れだった。
双つの車輪は先程とはうってかわって、薄く──そして鋭く──
「え」
「ヤベえぞアレっ…………!」
「うふ──
「アレは受けられんぞ。触れた瞬間真っ二つだ」
「言われなくても見りゃわかる!」
「二人共下がって! ──【
【
だが、それによって崩壊するよりも疾く双輪は標的達を捉えた。
「グッ!」
「くそっ……!」
【
だが、拮抗は刹那。
両者の刃は葬送の車輪によって絶ち切られる。
「がはっ!」
「ゴッ、あ」
鮮血が舞い飛ぶ。
【
すんでのところで致命傷には届かなかったものの──事ここに至れば、否応なしに三人ともに悟っていた。
守勢に回れば、そのまま跡形もなく轢き潰されるだけだと。
「【
「仕方ないわね。なるべくソフトリーにお願いするわ」
「待、て…………一人だけじゃ迎撃されて終わりだ。俺も一緒にいく」
既に深手を負っていながらも、【
「はんぶんこになりそうな身体でよく言うわね…………無茶するキャラでもないでしょうに」
「ここまで戦っただけで、わかるだろ…………! これだけの力、絶対に後でただじゃ済まない。一秒でも早く叩き起こさないとあいつにどんな反動があるか………!」
「…………そーいうことはね。本人に伝わるように言ってあげなさいよホント」
呆れ声を上げる【
「投げるぞ、お前ら」
「はーい。よろしくね」
「タイミングですべて決まるぞ。躊躇うなよ……」
「誰に言ってる、ガキが」
【
「お、らぁ!」
「うふ」
それを視認した【
「
空を切って突き進みながら、響き渡るは聖なる呪言。
迎え撃つは終末の騎手の、絶命の轍。
「死神走法──
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