84.生くる者に
「ゲ、ほぁ…………」
黒ずんだ血反吐をぶちまけながらに、あたしはそれでも
動くのを止めたらそこが最期だ。瞬く間に身体中を孔まみれにされて御陀仏だろう。
「だっっっりゃああああぁぁぁ!!」
気力を振り絞るように怒鳴りながら、あたしは速度を維持し続ける。【
【
そして厄介極まりないのがその矢の射線にあった。アニメや映画の機関銃よろしく糸引くように
「【
きがるにいってくれるなぁ。
【
そんなあたしの動きの軌道が読みやすいなどと言えるということは、それはつまり、『自分に読めない動きはない』と言ってるのと大差無い。少なくともあたしにはそう言ってるとしか思えない。…………まあ、三速のあたしと素で同速の
気付けば飛び交う矢によって湘南の町並みはチーズのように穴ボコに──どころじゃなく、チーズはチーズでも粉チーズの如くに粉砕されて消し飛んでしまっていた。マジ洒落になんない。
「さて、もう建造物は粗方処理し終えましたし…………これで
「ふーん。冗談言うタイプだとは思わなかった。人も死神も見かけに依らないねえ」
「…………交渉決裂、と。まあ確かに野暮な提案でしたね。謝罪しましょう。では、続きを」
再び弓をつがえ、連射態勢に移行する【
そんな感じで再びガトリング風の射撃がやってくる。
「こん、チクショーーーー!!!!」
自棄糞気味にあたしは最大
「…………本当に馬鹿正直ですね。どうしようもないなら素直に敗けを認めればいいものを」
「やーなこーったーーーー!」
回転による防御でひたすらに矢を弾き続ける、が、さっきいった通りジリ貧もいいとこだ。無限にさえ感じる矢によって、比喩抜きでガリガリと車輪が削り倒されていく。
「グッッッッ、がああああぁぁぁぁ!!」
「下手の穴熊、死するに似たり。と」
その声は真上から聞こえてきた。
「先程は逃げ回られていたので足を止めてじっくりと狙わせて貰いましたが──そちらが動かないのであればこっちは気兼ねなく動けます」
「くうぅぅ!」
上空から降ってくる一斉掃射。一瞬反応が遅れただけでも数発食らった。泡を食ってあたしは前方に逃れる。
「また逃げますか? 鼬ごっこが好きですね」
「──いーや、もう懲りたし腹も括った。…………限界越えないと、もう敗けしかないって思い知った」
なら、もう、越えるしかないじゃん?
「────四!!!! 速!!!!」
「!」
調子に乗って宙に跳んだのを後悔しろ。
超速であたしは大車輪を空中の【
「死神投法、
放たれた蒼輪は矢を砕きながらに【
「チッ!」
咄嗟に構えた弓を無理矢理盾にしたようだが…………無駄だ。
「ぶち抜けええぇぇ!!!!」
弓を真っ二つにへし折り、大車輪が炸裂する。
だが、やはりというべきかその程度では倒れてはくれない。
弓と片腕はもっていけたが残る片腕で車輪を弾き飛ばしてみせた。クソが。マジどんな偏在強度してんだよ。
「更に速い…………! そう、私よりも明確に」
あっという間に欠損を回帰させながら(ふざけんな)、そう言う【
笑ってた。
「では、戦いましょうか」
その瞳を爛々と煌めかせ、
「──【
純白の
が、生憎とこっちにはそれに驚く余裕もない。
「が、はあああああぁぁぁああぁぅあぁぁ…………」
身体中がバラんバラんになりそうだった。視界は真っ青になってぐにゃぐにゃと歪んでいく。レッドアウトならぬブルーアウトか。
ダメだコレ。なんとなく悟ってはいたけど、もう一分も保たない。それ以上この四速を維持したら過負荷で潰れるな。
「どうやら時間は短そうですね。さあ、早くしましょうか」
お見通しってか。大した観察眼──いや、戦闘眼とでもいうべきか。
コロコロと武装を変化させてるところを見るに、おそらく【
ありとあらゆる戦闘戦争戦法戦術戦略戦局戦場に対応し適応し、その全てを征圧せしめる。無欠にして磐石たる
…………そういう意味ではやはり、個人的には【
それ故に、
…………【
「さて、行こっか」
一瞬で決める。この期に及んでグダグダやる余暇はない。グチャクチャになった脳ミソに喝を入れながらあたしは突撃の為に姿勢を低くした。
「結局、一から十まで真っ向勝負ですか…………ここまで来たらもはや感心せざるを得ませんね。受けて立ちましょう」
童子のような笑顔を絶やさぬままに、【
一拍の沈黙を挟んでから。
「ヨーイ…………どんっ!」
あたしは疾走した。
対する【
…………こいつのヤバさはこれでもかと言わんばかりに思いしらされた。四速のスピードでもただ突撃しただけじゃ絶対に返り討ちにされる。
が、ただでさえ尋常じゃない反動で尻からゲロ吐きそうな今の状態で、軌道を変えてフェイントかけたりはまず出来ない。一直線に突っ走るしかない。
「────二速」
「!」
故に、あたしはギアを落とした。減速したのだ。
野球の球種で言うところのチェンジアップで、タイミングをずらす──だけ、じゃだめだってのは…………もちろ、んわかて、る。負荷、は、デカくなるけど、やらなきゃ、勝て、ないから。
「三速」
一かいじゃ、だ、めなら、なん重にもする、し、kない
「二そく、よん、3、いち、三にⅣイチ──
からダ、感じナクなる、見えるない、青、青、蒼青碧あおあお青おおとおアオ──
「【
ガシャン。ジャラジャラジャラ。
無機質音。
「機転一つで勝てる相手と思われていたなら、心外ですよ」
鎖。枷。動けない。
「何より──一つの武装しか使えないと思っていたのは甘過ぎます。
これ見よがしな大げさな武装は、ただのブラフか。
いや、そもそも、逐一で武装を一つ一つ使い分けてたことさえ、一度に一つずつしか使えないと思わせる為の──
「では、さようなら」
槍が振るわれる。
肩口から熱。
あたしの意識は、そこで途絶えた。
◑●◐●◑●◐●◑●◐●◑●◐●
◐●◑●◐●◑●◐●◑●◐●◑●
「…………私の速度を上回った時は、正直期待したんですがね」
嘆息しながら【
司る【
が、満足いく戦闘など
戦闘そのものを司る彼女が苦戦することなど一度もありはしなかった──むべなるかな、それは魚に溺れろというようなものである。
しかし、彼女の裡にこびりつく人間としての残滓がそれを嘆いて仕方なかった。
「いくら速かろうが反撃するだけの牙を持たねばただ速いだけ──ゴキブリと変わりませんか。まったく、落胆させてくれるものです」
【
どれだけ速かろうとどれだけフェイントを織り混ぜようと──一直線に向かう事を選んだその時点で【
故に囚われ、袈裟斬り一閃。
右肩口から左脇腹へかけてバッサリと斬り捨てられ、それで終わった──
「さて、それでは【
──筈だった。
「う
ふ
バあああァああ"ア"ア"ぁぁッッ!!!!」
「っ、な──!?」
枷を解錠したその瞬間、半分になったその身体で、
「嘘、がぁっ!?」
お返しとばかりに【
「ダあアアああああァぁァ!!」
「ふ、カ、ゲぇっ!」
万力のような握力で頸を締め上げる
と。
呼んでいいのかは、もうわからないが。
「ぐ、ク、か、ぁ…………」
苦痛に喘ぐ【
それが出来なかったのは。
それこそ秒もかからず、ソレが上から降ってきたからだ。
「な、はギャっ!!??」
蒼の大車輪が、【
否。
轢き潰す。
ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り。
「ヒ、ぎゃあアアアアアアああああ!!??」
響き渡る悲鳴は、【
ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り。
「は、ぅギャアぁアばああああ!!!! あ、あ、あっ、ア"っ!?」
血飛沫が舞う。
肉吹雪が躍る。
「~~~~~~~~!!!! で、デッででデっでデデデでっで、【
「ゲぼぉ」
今度の吐血は、【
バシュ、と音を立てて大車輪は消え。
彼女の半身はピクリともしなくなった。
「……………………はっ。は──はぁ、ハァ、は、はッ」
必死に呼吸を整えながら、轢き潰された自身の身体を両手で抱えるように抱きすくめ──目に薄い涙さえ浮かべながら、最強を名乗った
「なんなのよ、もぉ…………」
【
十の六、【
対。
無所属。
【
──勝者、【
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