如月に謳え──①
「そろそろ
「ですね。東北支局の面々とももうじきさよならですか」
二月初頭。
あの「渋谷大量変死事件」から、半年と少しした頃の事。
ワタシこと
現在は任務も終わってそれぞれの帰路につく途中の電車の中。
隣にいるのはワタシが東北支局における指導役としてずっとお世話になっている
隊長兼ワタシの
「
「あ、あははははは…………」
本局にて最低限の教育を受けた後、この東北支局へとやってきて――いきなり
今もまだ、たまに連行される。
ワタシは偏在率という
その結果友達ができたりもしたので悪いことというワケではなかったのだが、その評判を聞いていた東北支局の
高い偏在率を持つワタシならば今までは机上の空論――ボツ案とも言う――で終わっていた
そんなこんなでワタシは今もなお、東北支局研究室の面々には引っ張りだこにされているのだった。
「モテる女はつらいねぇ~
モテるって言わないでしょああいうのは。
てか。
「だから
「同感」
「いやいや、俺からチャラさ取っちゃったら何も残んないでしょ」
うーん?
性格のいいイケメンが残ると思うんだけどなぁ。
「いやいやいやいやまぁ聞いてよ二人共。何で世のチャラ男がチャラチャラすると思う?」
「いや、知りませんけど…………」
「本能じゃないですか?」
ワタシと
「そりゃチャラついてる方が女の子に好かれるからに決まってんじゃん!」
「え~?」
「はぁ?」
「わー冷ややかな反応!」
いや、そりゃ冷たくならざるをえない。
「いや、別にそんなチャラ男って魅力的ですかあ?」
「んじゃあ内気で根暗な奴とチャラ男、一緒に食事に行くならどっち?」
「いや、それは後者になりますけども…………」
「ほら、チャラ男はモテるんだよ」
いやいやいやいや。
その論法は男らしくないと思います。
「紳士的で立派な男性とチャラ男なら間違いなく前者を選びますよ、大抵の女性は」
そうだそうだー。
「それはそうだろうね――けど、大抵の女性が諸手を挙げて歓迎するような真のいい男になれる奴なんて何人いるかって話だよ。ほとんどの野郎どもはそんな領域には近づけさえしないのさ…………」
うーむ。
そりゃそうかもしれないけど。
「もちろん最高峰のいい男と比較しちゃダメかもだけどね? それでも相対的に見るとまだチャラ男は女性受けがいい方に入るんだよ。だからみんなチャラつくんだよ。チャラ男はモテに関しては真面目に考えるんだから」
成程。
まあ、一定の価値を認めるに値する意見かもしれない。
が。
「だから男女問わず、チャラついてるからって偏見の目で見るのはよくないよ? その人なりに真面目に努力してるだけだったりするんだか。みんながみんな
「…………」
「…………」
だから。
そういうとこだぞ。
んな歯の浮くようなセリフを照れもおちょけもせず真顔で言える男がそこらのチャラ男であってたまるかっての。
…………この人がチャラ男じゃなかったら何人の女性が陥落していたことだか。
夕暮れを眺めながら、そんなことを思う。
山吹色の光に照らされて、電車内が黄昏に染まっていた。
やがて電車が、夕日をゆらゆらと写す河へとかかる鉄橋に差し掛かる。カタンコトン、というお馴染みの走行音。
そんな中でワタシ達はたわいもない話を続けるのだった。
「二人共夕食は何食べたいー? 好きなものでいいよ、俺奢るから」
「別に食事代ぐらい払いますよ」
「そうですよ
「いやいや別に気を遣ってるワケじゃないって。俺はただ可愛い後輩の女の子達にカッコつけていい気分になりたいだけだから」
「
「そーですよいっつもんなこと言って自分から貧乏籤引きに行くんですから」
「まあまあそういわずに、男ってのは女の子にいいカッコしなきゃいられない習性があるんだって。それより何食べたいかって話でしょ? 会計の話は食べ終わった後にも出来るんだしさ」
「…………そうですね。いざとなればこっちは二対一ですし」
「ええ、いざとなったら実力行使で割り勘にしてやりましょう」
「せっかくの食事なのに殺伐とした雰囲気にしちゃうの止めようね⁉ それはそれとして、俺は最近ハマってるパスタ屋あるからそこ紹介したいんだけどー」
「堅苦しいお店は遠慮したいです」
「右に同じでーす。つけ麵とか行きたい気分ですよワタシは」
「風情ないなあ⁉ せっかく両手に花なんだからロマンティックにいかせてよ!」
「今更そういう雰囲気になるような間柄じゃない事ぐらい、隊の皆が百も承知でしょう」
「えー、そうかなぁ? ホントに
「………………」
「へ? どういう意味です?」
「いやいや何でもないよー。で、
「はい、ワタシも最近見つけた濃厚豚骨醬油系のつけ麵屋さんなんですけど、魚介系の香りもバッチリ利いてるので味わいが全然クドくないんですよねー」
「うっわめっ ゃ旨そ!」
「ええ、味は保証し すよー。あの香りは多分煮干しかなぁ? チャーシューもごっつい がデーンと乗っかっ ですねえ」
「ちょっと
「いいじゃんいいじ ん固い事言わ いで
「も ん絶品で と ー。あ こ ープ割はトマ ゴロっ 入 た女 も優 いヘ シーな ので 、いやワ もび した す ど豚骨 マト て意 に 合う で こ が」
「だ、ダ … 止
「ふ ふ。 で ら取 繕 体 直 え
「は い ん
「 、も は て 夫 よ」
「 っ 。 な 味 店 列 じ ? 丈 」
「 較 ぽ そ 心 も ま 。 分 い 並 な 知
「 ぐら 然 。 ー ゃ 」
「… っ⁉ 、 す。
「え 、 輩 ッ し ? ――
シャリィン。
シャリィン。
シャリィン。
シャリィン。
シャリィン。
シャリィン。
シャリィン。
シャリィン。
シャリィン。
シャリィン。
シャリィン。
シャリィン。
シャリィン。
シャリィン。
シャリリィーーーー…………ン。
ふしぎな
すずのねが
きこ、える
「………………………………う」
異様なまでの眠気と虚脱感に襲われながら、ゆっくりとワタシは目を開けた。
「………………? …………ワタ、シ」
何してたっけ…………どこにいたんだっけ…………
そもそもワタシは誰だっけ――とまではなっていない。大丈夫。ワタシは
落ち着け。記憶を手繰れ。最後にどこで、何をしていたか――
「任務終わり、に。
先輩達は!
「くぅーーーー…………」
「スーー…………」
あ、隣で寝てた。
隣?
そうだ、落ち着け。落ち着いて――現況確認。
「今いる、場所は――」
見渡すと、場所に変化はない。
さっきまで――さっきまでのはず――乗っていた電車の中だ。
が、光景は一変してしまっている。
「み、みんな眠ってる…………の?」
電車は停車しており、車内の乗客が一人残らず座席――或いは床面で眠りこけている。
「息は…………あるよね。先輩達も、他の乗客も」
手早く確認するも、見たところ皆眠っているだけだった。
「どういう状況なのこれ――って考えるまでもないか」
こんな異常な状況。
「…………
とにかく【
が、しかし――
「今のところ――異変は無し、みたいだけど…………いや異変は起きてるか」
何から何まで異変の真っただ中ではある。
が、少なくとも今すぐに身の危険があるわけでもないようだ。
現状は、周囲に
「どうしよう…………と、取り敢えず、外へ…………」
ここで立ち尽くしていても何がどうなるワケでもない。
とにかく、何か行動を起こさなくちゃ。
電車の扉は開いている。
慎重に、気を張りながら――ワタシは電車から降り立った。
「何もない…………無人駅か」
殺風景極まりない寂れた駅がそこにあった。
どれだけ寝こけていたのかは分からないが――恐らく時間は未だ宵の口といったところだろうか。そこまで暗がりに包まれているワケではない。
「――っと。そうだよ
これで時間も現在位置も一発判明。
…………とはならなかった。
「なにこれ…………⁉ 圏外はわからないでもないけど、時間も滅茶苦茶に狂ってる…………?」
スマフォだけでなく
「ほ、ホントにどういう状況なの…………一体、何が――」
「なんやなんや、まさか忘れたワケやないやろなあ?」
「ッ!!」
背後。
闇の淵から、声が投げかけられる。
「煌めく光が、濁ったら。
漂う空気が、淀んだら。
聞こえる音色が、歪んだら。
見える世界が、変わったら
――死神の鎌に、気をつけて。ってなぁ」
――
印象よりもはるかに、闇に溶ける色合いらしい。
その距離は、せいぜい2、3mか。
ニヤついた笑みを浮かべて。
暗闇から、見たことのある真っ赤な死神が歩いてきていた。
「――あんたッッッッ!」
「はぁいどーどー。闘り合う気ぃやったら声かけずに襲ってるわ。そう気焔吐くことないで」
「ないわけないでしょうがっ――【
そう。
頭から血を被ったように、真っ赤っ赤の女死神。
かつてワタシと親友を引き裂いた――因縁の
「あぁー、うんんー。めんどいなぁ、今あんたらとドンパチする気はほんまにないんやけど…………せやな、ここは
相も変わらずニヤついたままに。
【
「もしかせんでもあんた今、五里霧中って感じやろ? 質問とかあるんやったら答えたげるで?」
「はあ――?」
ふざけんな。
と言いたい気持ちを何とか――本当に何とか――飲み込む。
ワタシ個人の恨みつらみで動いていい状況じゃない。
電車の中には先輩達や、人数は多くなかったけど乗客だっている。
その為にも――
「――ここ、どこなのよ」
と、現状の核心に踏み込んだ。
つもりだったのだが。
「キヒヒヒヒヒ!」
と、それを聞いた【
「何が――」
「いやいやその質問はおかしいやろ。ここ駅やで? 他人に訊く前に看板見ぃや! キヒヒヒヒヒヒ…………」
「…………ッ」
ギリ、と歯を食いしばる。
が、もっともではあるので何も言えない。
改めて目を凝らし、周囲を見渡すと――ほぼ頭上の位置に錆び付いた駅看板がある。
そこには――
「キヒヒ」
と、また血腥い死神が嗤った。
「ようこそ、
『 き さ ら ぎ 駅 』
それが、この駅の名前らしかった。
――【
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