54.海音
──【
「──失礼します」
「時間通りですね。ようこそ、
席に座すのはこの部屋の──そしてこの【
名を、
それと向かい合うのは、
である。
「もう体調は問題ないようですね」
「はい。まぁ、入院したのは念のためらしいですし、特に大事ありませんよ」
「大変結構。来てもらった用件は、貴女のこれからの配属についてです」
「…………辞令くれれば済むんじゃないです?」
「口頭で説明した方がよいと判断しました」
と、言われれば
大人しく
「──先日の作戦、想定を遥かに越える敵戦力を前に、よくぞ奮戦してくれました。改めて、敬意と感謝を。そして敵勢力を計れずにいた失策を詫びさせてください」
「あー、いえ、別に本局に落ち度はないかと…………あんなの予想できるわけがないですし」
そういって、
想定されていたソレとは比べ物にならない大戦力──数多の
あそこまでいくと、どこまでも理不尽すぎて、それ故に何に対しても怒りなど持てなかった。
「そういっていただけると助かります…………ですが、これからの【死対局】を担う筈の新星達、
「…………もう、元がつきますか。まぁ仕方ないでしょうけど…………で、配属はどうなるんですか?」
「まず、
「そうですか…………順当といえば順当な感じですかね」
かつての隊長を失い、副隊長が後を継ぎ、その隊長の娘が配属。
運命を感じる、などと不埒なことは微塵も
ただ、少し悲しくなっただけである。
「ええ。そして残る貴女方二人──
「……はい。けど、
「無論それは大前提でしょうが、それを踏まえた上でもなお、貴女方二人は現時点で全ての
「…………光栄、です」
そう言った
間違っても、明るいものだとは言えなかったが。
それを意に介さず、
「苛烈さを増し続けている戦局の中、貴女方には是非とも最前線にてその実力を発揮し、人類の未来を切り開いて貰いたいと思っています。【
「? はい?」
「結論を言いましょう。
「…………!」
「お二人には大きな負担をかけることになりますが…………情けないことに、貴女方程の戦力を遊ばせておく余裕は、現在の人類には欠片もありません。どうか
「…………ええ。はい。わかりました。上等です」
そう答える
苦悩はあれど、迷いはないように見えた。
「隊の名称は未定ですが、要望があれば提出しておいて下さい」
「はい。で、配属後の予定は決まってるんですか?」
「もちろんです。お二人にはひとまず、ある隊の指揮下に入って貰います。詳しい指令の内容はそちらから受け取ってください。しばらくは彼女の下にいることになるでしょう」
「ある隊…………彼女?」
「ええ。…………来ましたか。五年経っても時間にルーズなのは変わりませんね
──
だからこそ。
喪服にしか見えない彼女の纏うその漆黒のスーツは──酷く違和感で、不吉に見えて仕方がなかった。
茫洋とした視線で
血のように。
死のように。
「…………ふぅん。君が、ね。へぇ。なん、か。割りと、普通」
女性にしては長身。180㎝はあるだろうか。
供花を思わせる純白の長髪。
途切れ途切れに紡がれるその言の葉は、霞のように空気で融けていくようだった。
言葉だけではない。
鉛のように重く、朧のように虚ろな──既視感。
「どこかで…………会いません、でした?」
「いやぁ。初対面、だね、うん。君とは色々と…………話したい事とか、あるん、だけども…………そうだね。まずは」
彼女は言う。
禁じられた、その名を。
「
▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△
「いやー、なんやかんやで有意義な会議だったわね。リーダーとして鼻が高いわ」
東京某所のとある屋敷。
厳かな雰囲気のベッドルームにて、バスローブに身を包みながらスマフォを耳に当て通話しているのは──死神女王【
『ただの飲み会にしか思えなかったが』
「なーに言ってるのよ。私達のこの先の展望を私の口から直々に拝謁出来たじゃない。きっとみんな感動に胸を打たれていたわよねー」
『肉食うばっかでお前の言うことなんざ誰も…………いや、言うまい』
「次の作戦はイルマにも出撃して貰うつもりなんだからねー。ちゃんと監獄長としての仕事っぷりを見せてもらわなきゃ」
──どうやら通話相手は彼女の配下、その三番手に位置する
【
『はぁ。まぁ期待するのはご自由に。俺は興味がなければ動かんがな』
「まぁーたそんな事言っちゃって。割と根は真面目でマメなところあるって知ってるよー?」
『そんな上等なものでもないと思うがね。流されやすいと言った方が正鵠を得ている…………今もそうだが』
「んんん? 今も?」
そこで
「ねぇイルマ」
『なんだ』
「なんか後ろが騒がしい気がするんだけど、何してるのかしら?」
『あぁ、別に大したことじゃない──
──二次会でカラオケに来てるだけだ』
「私も誘ってよおおおおおおおおお!!!!」
『電話でいきなり怒鳴るな。耳に悪い』
「はぁー!? 何故? なんでッ!? なんで二次会あるならみんな誘ってくれないの!?」
『上司を気にせず騒ぎたい時もあるだろうさ』
「私だって騒ぎたいのにぃーー!」
『だろうな。だから皆誘わなかったんだろう』
「むっ、惨いっ! 深刻に残酷! なんでみんなそんな心ないことが出来るのよー! うわあああああああああぁぁぁ!!」
ベッドの上で喚きながらにのたうち回る
驚くなかれ、彼女こそは全ての
悲劇だ。
『まぁ、最低限の情報通達は出来た…………というかこれから俺と【
「うぅー…………それは、うん。ありがと」
『しかし、それなりに覚悟はしていたが…………想像以上に支離滅裂な
「──だーいじょーぅぶなんだってば♪ この先の
話が変わると態度も一変。
ケロリと表情を変え、
『そうか。…………あの新入りの小娘、【
「くぁーっ! すーるーどーいーなーイルマは! うふふふふ、けど詳細は秘密よ。
『──【
その言葉が響いた瞬間。
「…………他に喋った?」
『俺は阿呆か? 自殺願望は持ってないつもりだ。単にカマをかけただけだが──こうアッサリと答えをくれるとはな。もう少し情報管理を意識してくれ。リーダーならな』
「ちぇー。不愉快だわ。黙っといてビックリさせようと思ってたのにー」
『そいつは失敬…………他言はしない。それでいいだろう』
「ん。じゃあそれで。まぁイルマは口堅いから信用してあげる」
『光栄至極……………では出揃ったのか?』
「うん。そうだね」
一切の色を失った、
【
「人類種の窮極的破滅要素たる五つの死神──【
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲
▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
「じゃ、そろそろお開きにしましょう。またね、りっくん」
「二度と会わねぇことを祈ってるよ」
仙台駅前。
二人の死神が互いに別れを告げていた。
ちなみにもう一人の少女は既に寝ている。
「まーたそういうこと言う。出会った頃はあんなにも繊細で儚げな美少年だったのにどうしてこうなったのかしら…………お姉さん悲しい」
「うるせぇよ。知らねぇよ」
心底嫌そうな顔をしながら背を向けて歩きだす
そして、伝える。
「…………元々これを伝えようと思って顔出したんだけどね」
「言うの遅いだろ。早く言えよ」
「はいはい──
──
「………………そうか」
白き死神はそこで足を止め、空を見上げる。
朝焼けに染まる中天にを目にし──そして静かに呟いた。
「………………
──その【
人は、無に生まれ、虚に沈み、無を拒み、虚に還る。
□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□■
■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇
『きぃーいとぉ~~なーんねんたぁ~っても~こーおーしてぇーかわーらーぬーきもぉ~ちでー』
広間形のカラオケ店内にて歌声を響かせているのは赤い髪を靡かせる死神、【
「あいつマイク離さないタイプだったか…………」
「そこそこ上手いのがムカつくね」
そんな呆れ声を洩らすのは男衆二人──【
【
死神達は
そんな中。
「ガツガツムシャムシャモリモリクチャクチャ」
相も変わらず一心不乱に暴食の限りを尽くす人影が一つ。
名は、【
十代前半、小学生でもおかしくない容姿をしていながら、その食いっぷりはまったくもって異常の一言に尽きる。
「こりゃまだ注文入れとかなきゃだな」
「品は何でもいいからテキトーに頼んどけ。量だ量」
ピザ数枚をたいらげ、コーラ一杯を息継ぎせずに一気呑む。
「…………ごぇーーーーっぷ」
「最悪だ」
「最低だな」
そんな言葉など気にする筈もなく、【
眼を瞑ったままに。
「もしやと思いましたが…………寝てますね。彼女」
「うげ、マジか」
時間は深夜。
確かに眠るのが健全ともいえる時間帯だが。
ともあれ、微睡みの中にありながら、それでも彼女はひたすらに食べ続ける。
その欲に、底はない。
【
「………………おな、か。すい、た」
その眠りの中で見るのはどのような夢か。
或いは──
──その【
●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●
【
『──で。どういう事情かそろそろ聞かせてくれないかい?
「……………はぁ。まぁアタシは只の使いっぱしりですので」
死神監獄の最奥にて。
特殊強化ガラス越しに向かい合うのは、
「言われた通りにやるしか、出来ないと言いますか」
ピ、ピ。
途端に。
朽ち果てた頭部のみの【
やがてそれは文字通りに底をつき、【
次の瞬間。
その頭部は青黒い火焔に包まれた。
禍々しいとしか形容出来ないその炎はやがて燃え尽き──やがてそこには少量の死灰が残される。
いくらかの沈黙の帳が下りた。
──そして。
ズゾ、
ズズ、
ズゾゾゾゾゾ。
その死灰の中から這い出てきたもの。
傷一つない、少女の右腕。
明らかに体積以下の量である灰の中から──それは、続々と。
肩、頭、首、左腕──と来たところで、床面に両手をつけ、一気に胴体を引き抜き、そして。
「…………両の脚で立つなんて、いつぶりだったかな」
他人事のようなその声色。
灰を纏い、灰から還ったその死神は、ガラスの向こうの
「──詳しい事情は後で聞くとして、だ
取り敢えず服、持ってきてくれないかい?」
──その【
人の飽く無き夢想が、いずれ全てを死滅へと
◁▶◁▶◁▶◁▶◁▶◁▶◁▶◁▶
◀▷◀▷◀▷◀▷◀▷◀▷◀▷◀▷
「うぅー…………まだ、みんなとあそんでたかったのに」
「聞き分けて下さい、【
「わたしぐりむだもん…………よいこじゃなくていいもん」
夜の街、帰路につくのは二人の死神。
幼き
「きっと女王様も心配なさってると思います」
「そーかなー? うん、わかった。 けど、ぱにっしゃー。ふたりきりのときはあでらいーどってよばなくていいよ」
眠たげに目を擦りながら、何気ない口調で少女は言った。
「わたしには、
──その【
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●●●●●●●●●●●●●●●●
「………………
深夜。
ある街の、雑踏の中。
ショーウィンドウに映る、自らを眺めながら──
こんな自分を、こんなところまで追いかけてきてくれた──無二の、親友の姿。
「………………」
硝子に映った、変わってなんかない、あの頃のままの自分を見ては、再開した脳裏の親友の姿を思い返す。
やがて、
誰にも届かない声で、呟いた。
「背ぇ、伸びてたな………………」
──その【
──死滅へと至る因子は芽吹いた。
ウロウツのシルベを辿り、最期に煌めく希望を見出だせ。
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