24.告げん
「──んじゃ、丁度いいから局員にとって偏在率ってものはどういうものなのかって事について…………新局員のみなさんに
「えっ………えぇーー!?」
「いやいやさっきまで頑張って演習の指導してたでしょ。それの延長だって」
「いや、そんないきなり振られても…………カンペないじゃんカンペ…………」
「カンペ見ながらやってたんかーい」
「う、うっさいなぁ! そんなん言うなら
「はぁ。まあ、いいけどさ」
「ぅうえっ!?」
存外素直に解説を引き受けた
「えぇーっと、それじゃあ偏在率について説明させてもらいますね。ワタシは
朗らかな笑顔と共に、
「おぉー。なんだかやけに堂に入ってますね
と、感嘆の声をあげて
「あのコミュ力はたしかに見習いたいもんだな…………あれだぞ
「うっさい……アガリ症の気持ちがあんたらみたいなコミュ力お化けにわかるもんか……ああぁ、
「け、結構な問題発言な気がしますよソレ…………」
そんな同級生兼同僚の会話など知ってか知らずか、
「そもそも偏在率ってのがどういうものなのか、っていうのはもう
そんな
「え、そうなんだ」
と
『なんで知らないのさ!
「具体的な数字を挙げさせてもらうと──『30%』。それが
「は、はいはーい。アタシはどこ所属なんでしょうかぁ?」
「
「うわっ、超早口」
最小限の労力で
「えー、
「…………えっと、質問いいですか」
「はいはーい、遠慮なくどうぞー」
新局員の中から手が上がった事を喜び、
「さっき偏在率によって配属先が決まるって言ってましたけど…………
「うーん、あると言えばありますし、ないと言えばないんですよね。一応規則上は
「不文律、というヤツですか」
「そうですね。目安としては…………偏在率50%を超過すれば、
その言葉を聞いて、
「あ、あのー、ここでさっきの質問答えて下さいよ。
「…………」
その質問に、
「それは──」
●◇●◇●◇●◇●◇●◇●◇●◇●◇
◇●◇●◇●◇●◇●◇●◇●◇●◇●
「──こんなもんかー。…………えっと、なんだっけか…………あーそうそう、
ビルの屋上。沈みゆく夕陽を背後に、金網に凭れ掛かりながら、【
どこか気の抜けた目線の先には──
「ぐっ…………」
「がっ…………」
「くぅ……」
「く、そ…………」
──以上四名の
「まぁ【
パッパッ、と両手を払う仕草をしながら、嘆息気味に
「んで? もう手札は見せ尽くした感じ? そんならそこで寝てなよ。あたしは増援来ないウチに帰らせてもらうか──」
ら、との言葉が出るより早くに
「──諦め悪いね。いやいや、そういうの嫌いじゃあないんだけども」
ピシッ、と。
それを指先で摘まみとりつつ、
それをみた
隔絶された彼我の差を──現実を、思い知らざるを得なかった。
格が数段違う──と。
「…………
「──いや、でも、これ以上上げると今の僕だと操作しきれるかどうか」
「やるしかないんだよ。アイツの機動力に対抗できる性能を持った
「となると、俺と
「サラッと無茶言いますね、もう……!」
「無茶だろうがなんだろうが他に活路はない。せめてヤツの機動力を少しでも削がないと……
「──だな」
「言えてますね…………
「殺されるのは、勘弁ですね…………!」
決意を改め、再び闘志を燃やす
そんな四人を見て──
燃えるのは結構だし、頑張るのは良いことだけど。
その気迫に実力が伴って無さすぎでは? なんて、嫌みな台詞が浮かんできてしまう。
──せめて。
死鎌程度は使わせてみせてよね、なんて思いながら。
◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□
◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■
「だいたい60%から70%位…………ですか?」
おおよその
「…………さっきも
「は、はぁ。いやけど…………幹部候補生みたいなもの、なん、ですよね?
「あのね。【
「え、ええっ!? ほ、ホントなんです? それって」
「いや、驚くとこかそこ…………なんでそんなに──」
「──まあ、
と、背後から声が投げ掛けられる。
「ん? それってどういう…………こ、と…………」
「何とか教官役はこなせているようでなによりです、
そこには【
「たったたたったたたたたった隊長何故ここに!?」
「きょ、きょくちょーさん!」
驚愕を隠そうともしない二人。その感情はすぐに部屋全体へと伝播していく。
「生憎と長居する気はありませんよ──
「へぁっ!?」
「え"っ…………あー、はい。
「え、あ、う、りょ、了解!」
そうして演習室から退室する
「…………あ、あのー。きょくちょーさん。さっきのって、ど、どういう意味なんでしょう」
目的も行き先も知らされぬまま、廊下を歩く三人。そんな中で沈黙に耐えきれなくなったか、
「そのままの意味です。
「う、うぐっ、あ、あの、えとその、ぽの」
「…………えっと会長さん、じゃなくて局長。それってつまり──」
「ええ、つまり──」
「うげっ…………マジですかそれ」
その数値を聞いた
「事実ですよ。入局即座に
「え、えっと…………高い方、なんです? これ」
「いや、入局時点でそれは…………ほぼ居ないでしょ。多分記録ものだよ。そもそもトップである局長の偏在率が──」
「………………ま、マジです?」
「事実ですよ…………ああ、いえ、一部語弊ありますね。──トップというのは間違いです。局内偏在率ランキングでは、最高瞬間偏在率、平均偏在率ともに二位の数値ですよ、私は」
「…………ふぇ?」
「ん"ー………………」
きょとんとした顔をする
「謙遜も行きすぎると嫌みになりますよ──
□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆
■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇
「遅い鈍いトローいっ!」
「あたしの強みである
「ふふん、しかしそれはあたし一人の実力ではないことも認めよう! そう! あたしにはこの頼れる相棒──」
一端大きく距離を置いてから、あたしは足に装着したそれを大いに見せびらかした。
「──
じゃじゃじゃじゃーん!
どやぁ。
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「なにさそのうっすいリアクションはぁ!」
もっと崇め讃えよ奉れぇ!
この精練された流麗なデザインが目に入らぬかっ!
「いや、インラインスケートって…………小学生かよ」
プチっ。
「…………
「はい?」
もうゆるさん。
貴様はこの世全てのインラインスケーターを敵に回したのだ…………その不敬は万死に値する!
「──二速」
その言葉と同時にあたしの脳内でガチャリ、と歯車が切り替わる──ようなイメージが走る。
そしてあたしは──駆け出した。
「──なっ」
さっきから巫山戯たことばかり抜かす男の目前まで一瞬で移動する。
「速すぎ──」
「速いだけじゃないよ?」
ガッシリと、
「お、らあああああぁぁ!」
「ぐ、おおおぉおぉぉ!?」
渾身の握力で相手の両手を締め上げる。
「あはっ──余裕ない顔してるね? 女の子とガッツリ手ぇ繋いでるんだからもうちょい嬉しそうにしたら?」
「あいにく、とっ──もっと大人っぽい子が好みなんだよっ……!」
「……………あん?」
こんな貞淑なレディを捕まえといて何をほざくか。もうマジに許せん。
──ミシ、ミシミシ。
「つ、 ぶ、 れ、 ろ !」
「がっ、ぐっ、おお、あ、ああ"あ"あ"ぁぁっ!」
このままだと両手を握り潰されると確信したのだろう。
相手は苦痛を堪えながら、不恰好ながらも片足で蹴りを放ってきた。
しかし。
「──悪手でしょ」
あ、いや、手じゃないか。足か。悪足か。
などと内心でノリツッコミをしつつ、あたしは両手を即座に放し、両腕でその蹴りを受け止める。
ギ ャ リ ギ ャ リ ギ ャ リ ギ ャ リ 。
と、厭な音を立て、あたしの足についた車輪──サムライブレードが唸りを上げた。
そこから瞬時に両腕で掴んだ相手の脚を、内側に巻き込むように自らの身体ごと回転させ、その勢いのままに投げ飛ばす──!
──
瞬間、両腕に伝わってきたのは嫌な感触。
無抵抗のまま投げ飛ばされ、相手は屋上の金網に叩きつけられる。
あー、ありゃ膝の靭帯
まず立つのも難しいだろう。戦闘不能だ。
「………ま、脚がまるまる捥げなかっただけツイてるよ」
車輪の力は回転の力だ。
あたしの回転に本気で巻き込まれたら、四肢の一つや二つ、簡単にフッ飛ぶ。
なるたけ穏便な、フツーの投げ技を使ってあげたお陰だろう──ガチに車輪で巻き込んでたら、もう
「さて、これで一人再起不能っ──」
そこで。
あたしの顔面に、再び刃が飛来する。
「
気迫の雄叫びと共に、あたしの顔面にナイフ型の
しかし。
「
バ リ ボ リ 。
刃を歯で受け止める──だけではなく、完全に噛み砕く。
「う、そ、でしょ…………」
戦慄し、表情を凍てつかせる少女。
の、顔面をガッシリとあたしは両手で掴んだ。
「寝れ」
ゴツ、ゴツ、ゴツ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ。
と、九回目を叩き込んだところで──目前の少女は白目を剥き、額から流血しながら気絶していた。
「おっし、二人目っと」
と、息を吐く間もなく──ジャラジャラという金属音と共にあたしの足に鎖が巻き付けられる。
「止めましたっ……!
「ダァホ」
二速のあたしをこんなチャチな鎖で止められるものか。
「巻き込まれ注意──って知らないのかな?」
ギ ャ リ ギ ャ リ ギ ャ リ ギ ャ リ ギ ャ リ ギ ャ リ 。
「えっ──」
間抜けな声を一つ溢し、そのまま
そしてそのまま目にも止まらぬ速度で──屋上の給水タンクへと衝突した。
大きくひしゃげたタンクから水が漏れだす…………それにめり込んだ本人は、もうピクリとも動かなかった。
「……武器から手ぇ離せば良かったのに」
ま、
「さて、あと一人…………」
「おおおおおおおぉぉッ!!」
烈迫の気勢とともに
「もう当たらないってば──ギミックのネタは割れたよ。二枚刃でしょ?」
そう。見かけだけの間合いに惑わされれば痛い目を見る。てか、見た。
その実態は、回転と共に隠された二枚目の螺旋状を描く薄い刃が攻撃の瞬間だけ槍から飛び出してくる、というワケだ。
「初見殺しだね、所詮。いや、初見殺しとも言えないか。こんな小細工で殺られる
ガシッ、と。
槍使いの喉を締め上げつつ、あたしはそう言った。
「ち、くしょ…………」
「ま、それなりに健闘した、って言っておいたげるよ」
ギ ャ リ ギ ャ リ ギ ャ リ ギ ャ リ 。
唸る車輪と共に──あたしは最後の一撃を放つ。
…………それは
武器の
「死神走法──
──【
特異遍在型
──【最高瞬間偏在率 186.6%】
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