24.告げん




「──んじゃ、丁度いいから局員にとって偏在率ってものはどういうものなのかって事について…………新局員のみなさんに神前こうざきさんから説明願いまーす」


「えっ………えぇーー!?」


 むすびからの突然のフリに神前こうざき えんは素直な困惑の声をあげた。


「いやいやさっきまで頑張って演習の指導してたでしょ。それの延長だって」


「いや、そんないきなり振られても…………カンペないじゃんカンペ…………」


「カンペ見ながらやってたんかーい」


「う、うっさいなぁ! そんなん言うならむすびがやってみなよ! いいよね見学してるだけの傍観者は! 気楽だよねぇはーうらやまし! 口だけならなんとだって言えるからねまったく!」


「はぁ。まあ、いいけどさ」


「ぅうえっ!?」


 存外素直に解説を引き受けたむすびえんは更なる困惑の悲鳴をあげたが、むすびは気にせずスルーした。


「えぇーっと、それじゃあ偏在率について説明させてもらいますね。ワタシは第五隊サイプレス選抜生セレクション弖岸てぎし むすびといいます! といっても前期入局したばかりでまだまだみなさんと変わらない新人なので、畏まったりしないで気楽にいきましょうね!」


 朗らかな笑顔と共に、むすびは溌剌とした自己紹介をした。


「おぉー。なんだかやけに堂に入ってますねむすびさん」


 と、感嘆の声をあげて傴品うしなが感心する。


「あのコミュ力はたしかに見習いたいもんだな…………あれだぞえん。あれを見習うんだ。さっさとそのアガリ症直せ。そのために煦々雨くくさめ隊長もわざわざお前に指導官任せたんだろうし」


「うっさい……アガリ症の気持ちがあんたらみたいなコミュ力お化けにわかるもんか……ああぁ、死神グリム相手に生装リヴァース振り回す方がよっぽど気楽だなぁ……」


「け、結構な問題発言な気がしますよソレ…………」


 そんな同級生兼同僚の会話など知ってか知らずか、むすびは解説を続けていく。


「そもそも偏在率ってのがどういうものなのか、っていうのはもう神前こうざきさんから説明受けてると思いますし、ワタシからはその偏在率がワタシ達局員にとって・・・・・・どういう意味を持つものなのか! それを解説したいものと思いまーす! 入局にあたって、偏在率の測定はみんな受けてる筈ですね。その数値によってズバリ配属先のおおよそな部署が確定しちゃうワケです」


 そんなむすびの言葉を聞いて。


「え、そうなんだ」


 と傴品うしなが声を溢したが、むすびはスルーした。

 『なんで知らないのさ! 選抜生セレクションでしょ! だいたいぜんさんのせいだろうけど!』との言葉は呑み込んだ。


「具体的な数字を挙げさせてもらうと──『30%』。それが境界値ボーダーライン。平均偏在率が30%以上在るか無いかで配属先──戦闘員と非戦闘員かどうかが決まっちゃうワケです。平均偏在率が30%に満たない人達は、技術屋エンジニア情報屋オペレーターの方に配属されるワケですね。そして平均偏在率が30%以上人達は戦闘部隊──進明隊ディステルへと一先ずは配属されるというワケなのです。ここにいる人達はみんな戦闘員なので大方はその進明隊ディステル所属ということになるでしょう」


「は、はいはーい。アタシはどこ所属なんでしょうかぁ?」


傴品うしな第十隊ダチュラ選抜生セレクションですので書類上は第十隊ダチュラ所属ということになるでしょう実際には仮入隊という形になっていますがね以上」


「うわっ、超早口」


 最小限の労力で傴品うしなの質問に答え、むすびは解説を続ける。


「えー、進明隊ディステル所属となるみなさん新局員ですが、進明隊ディステルは憚らず言ってしまえば新人ニュービー部隊です。進明隊ディステルにて経験を積み実力を磨き、各々の長所を見つけ、それぞれに見合う部隊へと改めて編成されていくというのが基本的な流れとなっています。大きく分けると実戦部隊といえる破幻隊カレンデュラと後方支援部隊である廉想隊カンナのどちらかに配属されるのが殆どですね」


「…………えっと、質問いいですか」


「はいはーい、遠慮なくどうぞー」


 新局員の中から手が上がった事を喜び、むすびは笑顔を浮かべた。


「さっき偏在率によって配属先が決まるって言ってましたけど…………進明隊ディステルから他の部隊に転属する際も偏在率の必要ラインとかがあるんですか?」


「うーん、あると言えばありますし、ないと言えばないんですよね。一応規則上は破幻隊カレンデュラにも廉想隊カンナにも偏在率による入隊制限のようなものはありません…………が、少なくとも偏在率30%台のままで他部隊へ転属した人をワタシは知りません」


「不文律、というヤツですか」


「そうですね。目安としては…………偏在率50%を超過すれば、灰祓アルバとしては誰恥じる事のない、一人前といえると思います」


 その言葉を聞いて、傴品うしなが再び手を挙げる。


「あ、あのー、ここでさっきの質問答えて下さいよ。 選抜生セレクションの人達の偏在率ってどんぐらいなんです?」


「…………」


 その質問に、むすびは一瞬だけ言い淀んだ素振りを見せたが、すぐに口を開く。


「それは──」






●◇●◇●◇●◇●◇●◇●◇●◇●◇

◇●◇●◇●◇●◇●◇●◇●◇●◇●






「──こんなもんかー。…………えっと、なんだっけか…………あーそうそう、選抜生セレクションね」


 ビルの屋上。沈みゆく夕陽を背後に、金網に凭れ掛かりながら、【駆り手ライダー】──都雅とが みやこは独り言ちた。

 どこか気の抜けた目線の先には──

 

「ぐっ…………」


「がっ…………」


「くぅ……」


「く、そ…………」


 第二隊アネモネ選抜生セレクション安羅梳あらぐし とおる──【最高瞬間偏在率 64.7%】

 第六隊モンクスフード選抜生セレクション蘆名あしな 羯磨かつま──【最高瞬間偏在率 59.1%】

 第七隊ハイドレンジア選抜生セレクション湯屋谷ゆやだに 淑乃よしの──【最高瞬間偏在率 62.9%】

 第八隊バレンワート選抜生セレクション布引ぬのひき 暢昭のぶあき──【最高瞬間偏在率 70.2%】


 ──以上四名の選抜生セレクション達が苦痛を隠せないままに必死に佇んでいた。


「まぁ【聖生讃歌隊マクロビオテス】のって程度なら、妥当なトコなのかな…………んー。参ったなぁ。これじゃ弱いものイジメしてる小悪党みたいじゃん。そういう趣味ないんだけど。先輩じゃあるまいしさ」


 パッパッ、と両手を払う仕草をしながら、嘆息気味にみやこはそう溢した。


「んで? もう手札は見せ尽くした感じ? そんならそこで寝てなよ。あたしは増援来ないウチに帰らせてもらうか──」


 ら、との言葉が出るより早くにみやこの顔面にナイフが放たれる。


「──諦め悪いね。いやいや、そういうの嫌いじゃあないんだけども」


 ピシッ、と。

 それを指先でつつ、みやこは薄く嗤った。

 それをみた灰祓アルバ──選抜生セレクション四名、一様に苦虫を噛み潰したような表情となる。

 隔絶された彼我の差を──現実を、思い知らざるを得なかった。

 ──と。


「…………布引ぬのひき生装リヴァースの偏在駆動性能、引き上げろ」


「──いや、でも、これ以上上げると今の僕だと操作しきれるかどうか」


「やるしかないんだよ。アイツの機動力に対抗できる性能を持った生装リヴァースはお前の【流々転々】だけだ……」


「となると、俺と安羅梳あらぐしさんがどうにか隙を作るしかねえか…………淑乃よしの、お前は中衛で布引ぬのひきのガードと俺らのフォロー頼む」


「サラッと無茶言いますね、もう……!」


「無茶だろうがなんだろうが他に活路はない。せめてヤツの機動力を少しでも削がないと……第四隊クローバーの人達が間に合うように…………いや、違うな。任務とか使命とかそんなの抜きにして──このまま終われないだろう、選抜生おれたちは! こんな無様を晒していたら──こんな俺たちに期待してくれてる先輩達や、一目置いてくれてる同期達に、ぶっ殺されるぞ!」


「──だな」


「言えてますね…………理尽りづきに煽られまくること間違いなし、です」


「殺されるのは、勘弁ですね…………!」


 決意を改め、再び闘志を燃やす選抜生セレクション達。

 そんな四人を見て──みやこは何とも言えない気分になる。

 燃えるのは結構だし、頑張るのは良いことだけど。

 その気迫に実力が伴って無さすぎでは? なんて、嫌みな台詞が浮かんできてしまう。

 ──せめて。

 使、なんて思いながら。

 みやこは変わらぬのままに、再び踏み込んだ。






◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□

◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■






「だいたい60%から70%位…………ですか?」


 おおよその選抜生セレクション達の偏在率を耳にし、儁亦すぐまた 傴品うしなは目を丸くした。


「…………さっきもむすびが言ってたけど、50%もありゃ充分一人前ってトコなんだからな?」


 鍔貴つばきが改めてそう言うも、傴品うしなは釈然としない様子で首を捻る。


「は、はぁ。いやけど…………幹部候補生みたいなもの、なん、ですよね? 選抜生セレクションって」


「あのね。【死対局アルバトロス】最高戦力の【聖生讃歌隊マクロビオテス】の人らだって70%越えてる人はそうそういないんだからね?」


「え、ええっ!? ほ、ホントなんです? それって」


 えんの言葉を受けて、ここまで卑屈気味でおどおどとしっぱなしだった傴品うしなが、珍しく声を張り上げて驚嘆の声を上げた。


「いや、驚くとこかそこ…………なんでそんなに──」


「──まあ、儁亦すぐまたさんが驚くのも無理はないかも知れませんね」


 と、背後から声が投げ掛けられる。


「ん? それってどういう…………こ、と…………」


「何とか教官役はこなせているようでなによりです、えん


 そこには【死神災害対策局アルバトロス】局長【聖生讃歌隊マクロビオテス】全隊長兼第一隊ブラックサレナ隊長、煦々雨くくさめ 水火みかが立っていた。


「たったたたったたたたたった隊長何故ここに!?」


「きょ、きょくちょーさん!」


 驚愕を隠そうともしない二人。その感情はすぐに部屋全体へと伝播していく。


「生憎と長居する気はありませんよ──儁亦すぐまた隊員、弖岸てぎし隊員。所用がありますので着いてきて下さい」


「へぁっ!?」


「え"っ…………あー、はい。えん、教官役、バトンタッチね」


「え、あ、う、りょ、了解!」


 そうして演習室から退室する煦々雨くくさめ、それに追従するむすび傴品うしな


「…………あ、あのー。きょくちょーさん。さっきのって、ど、どういう意味なんでしょう」


 目的も行き先も知らされぬまま、廊下を歩く三人。そんな中で沈黙に耐えきれなくなったか、傴品うしな煦々雨くくさめに質問を投げ掛けた。


「そのままの意味です。儁亦すぐまたさん、貴女なら──他者の偏在率が、、などと思えても仕方ありません」


「う、うぐっ、あ、あの、えとその、ぽの」


「…………えっと会長さん、じゃなくて局長。それってつまり──」


「ええ、つまり──」





 儁亦すぐまた 傴品うしな──【最高瞬間偏在率 79.3%】(入局時点)




「うげっ…………マジですかそれ」


 その数値を聞いたむすびは思わず呻き声をあげた。


「事実ですよ。入局即座に第十隊ダチュラ選抜生セレクションというのも納得でしょう?」


「え、えっと…………高い方、なんです? これ」


「いや、入局時点でそれは…………ほぼ居ないでしょ。多分記録ものだよ。そもそもトップである局長の偏在率が──」




 煦々雨くくさめ 水火みか──【最高瞬間偏在率 85.6%】




「………………ま、マジです?」


「事実ですよ…………ああ、いえ、一部語弊ありますね。──トップというのは間違いです。局内偏在率ランキングでは、最高瞬間偏在率、平均偏在率ともにの数値ですよ、私は」


「…………ふぇ?」


「ん"ー………………」


 きょとんとした顔をする傴品うしな と、どこか気まずそうにするむすび




「謙遜も行きすぎると嫌みになりますよ──弖岸てぎし隊員。映えある第一位トップランカーさん」






 第五隊サイプレス選抜生セレクション弖岸てぎし むすび──【入局時偏在率 82.7%(歴代一位)】【最高瞬間偏在率 91.1%(局内最高値)】






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■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇






「遅い鈍いトローいっ!」


 選抜生セレクション二名の攻撃を捌きながら、あたしはそう見得を切る。


「あたしの強みである機動力アシを削ごうって狙いはわからなくはないけども──ざーんねん! そう簡単に潰されたりしないからの、強みなんだねっと!」


 刺突槍ランス使いの攻撃を、想定の間合いリーチより余分に距離を置きつつ躱す。


「ふふん、しかしそれはあたし一人の実力ではないことも認めよう! そう! あたしにはこの頼れる相棒──」


 一端大きく距離を置いてから、あたしは足に装着したそれを大いに見せびらかした。


「──死神グリム専用特注品オーダーメイドインラインスケート……その名も! サムライブレード・アグレッシブモデル! が、あるからねーっ!」


 じゃじゃじゃじゃーん!

 どやぁ。


「………………」


「………………」


「………………」


「………………」


「なにさそのうっすいリアクションはぁ!」


 もっと崇め讃えよ奉れぇ!

 この精練された流麗なデザインが目に入らぬかっ!


「いや、インラインスケートって…………小学生かよ」




 プチっ。




「…………歪みねえなYou got me mad now.


「はい?」


 もうゆるさん。

 貴様はこの世全てのインラインスケーターを敵に回したのだ…………その不敬は万死に値する!




「──




 その言葉と同時にあたしの脳内で、と歯車が切り替わる──ようなイメージが走る。

 そしてあたしは──駆け出した。


「──なっ」


 さっきから巫山戯たことばかり抜かす男の目前まで一瞬で移動する。


「速すぎ──」


「速いだけじゃないよ?」


 ガッシリと、手甲ガントレット型の生装リヴァースを装着したその両手を、こちらも両手で真っ向から掴み合う。


「お、らあああああぁぁ!」


「ぐ、おおおぉおぉぉ!?」


 渾身の握力で相手の両手を締め上げる。


「あはっ──余裕ない顔してるね? 女の子とガッツリ手ぇ繋いでるんだからもうちょい嬉しそうにしたら?」


「あいにく、とっ──もっと大人っぽい子が好みなんだよっ……!」


「……………あん?」


 こんな貞淑なレディを捕まえといて何をほざくか。もうマジに許せん。


 ──ミシ、ミシミシ。


「つ、 ぶ、 れ、 ろ !」


 手甲ガントレット型の生装リヴァースに亀裂が走り、必然相手の両手も軋み悲鳴を上げる。


「がっ、ぐっ、おお、あ、ああ"あ"あ"ぁぁっ!」


 このままだと両手を握り潰されると確信したのだろう。

 相手は苦痛を堪えながら、不恰好ながらも片足で蹴りを放ってきた。

 しかし。


「──悪手でしょ」


 あ、いや、手じゃないか。足か。悪足か。

 などと内心でノリツッコミをしつつ、あたしは両手を即座に放し、両腕でその蹴りを受け止める。


 ギ ャ リ ギ ャ リ ギ ャ リ ギ ャ リ 。


 と、厭な音を立て、あたしの足についた車輪──サムライブレードが唸りを上げた。

 そこから瞬時に両腕で掴んだ相手の脚を、内側に巻き込むように自らの身体ごと回転させ、その勢いのままに投げ飛ばす──!


 ──飛龍竜巻投げドラゴンスクリュー


 瞬間、両腕に伝わってきたのは嫌な感触。

 無抵抗のまま投げ飛ばされ、相手は屋上の金網に叩きつけられる。

 あー、ありゃ膝の靭帯っちゃったな。

 まず立つのも難しいだろう。戦闘不能だ。


「………ま、脚がまるまる捥げなかっただけツイてるよ」


 車輪の力は回転の力だ。

 あたしの回転に本気で巻き込まれたら、四肢の一つや二つ、簡単にフッ飛ぶ。

 なるたけ穏便な、フツーの投げ技を使ってあげたお陰だろう──ガチに車輪で巻き込んでたら、もう挽肉ミンチである。


「さて、これで一人再起不能っ──」


 そこで。

 あたしの顔面に、再び刃が飛来する。


っ、たああああっ!!」


 気迫の雄叫びと共に、あたしの顔面にナイフ型の生装リヴァースが叩き込まれた。

 しかし。


殺ってないよほっへはいよ


 


 刃を歯で受け止める──だけではなく、完全に噛み砕く。


「う、そ、でしょ…………」


 戦慄し、表情を凍てつかせる少女。

 の、顔面をガッシリとあたしは両手で掴んだ。


「寝れ」


 頭突きヘッドバット


 ゴツ、ゴツ、ゴツ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ。


 と、九回目を叩き込んだところで──目前の少女は白目を剥き、額から流血しながら気絶していた。


「おっし、二人目っと」


 と、息を吐く間もなく──ジャラジャラという金属音と共にあたしの足に鎖が巻き付けられる。


「止めましたっ……! 安羅梳あらぐしさん、早くっ」


「ダァホ」


 のあたしをこんなチャチな鎖で止められるものか。


「巻き込まれ注意──って知らないのかな?」


 ギ ャ リ ギ ャ リ ギ ャ リ ギ ャ リ ギ ャ リ ギ ャ リ 。


 車輪サムライブレードを軋らせ、猛烈な勢いであたしはその場で真横に一回転した。


「えっ──」


 間抜けな声を一つ溢し、そのまま連接鎚フレイル使いは宙を舞う。

 そしてそのまま目にも止まらぬ速度で──屋上の給水タンクへと衝突した。

 大きくひしゃげたタンクから水が漏れだす…………それにめり込んだ本人は、もうピクリとも動かなかった。


「……武器から手ぇ離せば良かったのに」


 ま、灰祓アルバにとっては生装リヴァースはまさしく命綱だ──気絶したって手放さないように訓練されてる筈だし、しゃーないか。


「さて、あと一人…………」


「おおおおおおおぉぉッ!!」


 烈迫の気勢とともに刺突槍ランスが突き込まれる──がしかし。


「もう当たらないってば──ギミックのネタは割れたよ。でしょ?」


 そう。見かけだけの間合いに惑わされれば痛い目を見る。てか、見た。

 その実態は、回転と共に隠された二枚目の螺旋状を描く薄い刃が攻撃の瞬間だけ槍から飛び出してくる、というワケだ。


「初見殺しだね、所詮。いや、初見とも言えないか。こんな小細工で殺られる神話級ミソロジークラスとかいるワケないし」


 ガシッ、と。

 槍使いの喉を締め上げつつ、あたしはそう言った。


「ち、くしょ…………」


「ま、それなりに健闘した、って言っておいたげるよ」


 ギ ャ リ ギ ャ リ ギ ャ リ ギ ャ リ 。

 唸る車輪と共に──あたしは最後の一撃を放つ。

 …………それは死神グリムとして幾度もの闘いを潜り抜けてきたあたしが培った戦闘法──否! それは戦法でもなければ殺法でもない。

 武器の刺突槍ランスもろとも吹き飛ばす、渾身の回し蹴り──その名も!




──向日葵一輪ひまわりいちりんっ!!」











 ──【死神災害対策局アルバトロス情報保管庫ライブラリより抜粋。






 特異死神グリム、グリムコード【駆り手ライダー】──











 ──【最高瞬間偏在率 186.6%】





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