11.千
「──悪いな。通信の類いはもう刈ってある。連絡はさせねぇよ」
──気づけば彼の手には骨のように白い
この
白い
「…………なんでいきなりお前が出てくる、【
「単なる気紛れだ──なんてスカした台詞を吐く気はもちろんない。ただ、今お前らをこの先に進めるのは俺として好ましくないってだけだよ」
ブン──と白の刃を一度大きく振るい。
【
「つまり──先に進まなきゃいいのか?」
との
「ハッ。確かにまぁ、理屈の上ではそうだな。で、こちらからも質問だが──
「──まさか。お前がそんなお優しいヤツなら、俺らはお前に畏れ慄いたりはしねぇさ」
「物分かりが良くて結構。じゃあ始めよう」
そう言うと錆は、近所のコンビニに向かうかのように気楽な足取りで歩み出す。
「待て──【
「ねぇよ。あの赤トンボには微塵も興味はねぇ」
「なら、【
ハアアァァ、と鬱陶し気に錆が大きく嘆息した。
「んな餓鬼でもわかる理屈を並べてどうする気だよ。ああそうさ、ちっとばかし後輩の世話を焼こうってだけだよ。あいつの戦いに嘴を容れる程無粋じゃないつもりだが、横槍を入れさせない位の義理はある。以上」
面倒極まりなさそうな投げ遣りな口調でそう捲し立て、そして──もう語ることはないとばかりに宙に跳んだ。
「無駄話は終わりだ──死にたくないなら生きてみせろ」
白衣の刈り手は越えてみせろとばかりに嗤った。
「ッ──
それを受けて綱潟は手に持つ自らの武装──
「ふん、見ない
宙を舞う錆は
「踊ってろ──ッ!」
「近、中距離戦用ってとこか……が、俺を殺るには動作がデカ過ぎる──」
と言ったところで。
「跳ね魚──」
鈴の音のような声が響き。
流星の如くに闇夜を切り裂いて、二人目──女性隊員である
「吹き──飛べぇぇぇぇぇ!!」
頭部への上段蹴り。
錆は瞬時に腕で防御したが──無意味。
その一撃は中空に有った錆の身体を、ビルの固い壁へと叩きつけた。
「ぐっ…………!」
流石に呻き声を上げる錆に──当然更なる追撃が加えられる。
「
冷淡な声と共に──鉄の雨が錆に襲いかかる。
「
三人目、
「逃が」
「すかああぁぁぁぁ!!」
──綱潟の
「いい連携だ。【
右手の
「
一瞬の攻防で、錆は相手の連携におおよそのあたりをつける。
(やることは定石通りだ。弱いやつから集中的に狙って連携を突き崩す──ま、こっちがそう来るのは相手もわかってるだろうがな。あちらの攻勢は──やたら速い蹴り女を主軸に銃撃で牽制しつつ隙を生み出し、
自らの最適とあちらの最悪を常に探求し続ける。
それだけが勝利を手繰り寄せる唯一の術なのだから。
「っ、と──?」
だが、錆の予想通りには戦況は動かなかった。
「いくぞ、喜多隅」
「はい、隊長!」
円月輪を手に持った綱潟と喜多隅、二人は息を合わせて白き
「近接戦なら望むところだが──勝てると思ってるのか?」
錆は真っ向から二名と激突した。
舞い散る火花、火花、火花──月の光も満足に届かない路地裏を、刹那の閃光が照らす。
(この一本道の路地裏じゃあ後衛の射線は通りづらい──味方を誤射しかねない筈だ。前衛が二人になれば尚更……それでもあえてそうするってことは)
何かある──そう錆が察したと同時に、綱潟が深く踏み込み、渾身の一撃を放ってきた。
が、【
なんなく錆は
「──ここっ!!」
その隙とはとても言いがたい刹那に、喜多隅は跳んだ。
ダダダダダダダダダダダダ──
まるでピンボールの如くにビルの合間を猛スピードで跳ね回る。
「なるほど、確かに速いが俺に見切れない程じゃ──」
「俺も、いるんだよっ──!」
そこから綱潟の追撃が来る。
「いたから、なんだってんだ?」
単騎での
あっさりとその一撃を弾き飛ばし──
──その飛ばした円月輪はその勢いのまま急転回し、再び錆に遅いくる。
「二番煎じはお断りだっつーの──」
が、円月輪を迎え撃とうと錆が構えたその瞬間だった。
即座にバックステップで後退していた綱潟のお陰で──
(ちっ、後衛の
瞬間。
「そこ、だああぁぁぁぁ!!」
超速で跳ね回っていた喜多隅が、その速度のままに錆へと飛び蹴りを放つ!
そして同時に──綱潟の円月輪と鹿種の銃撃までもが錆に襲いかかった。
まともに喰らえば錆とはいえただでは済むまい。
「──舐めんな」
襲い来る銃弾の合間を縫うようにして躱しきり、手にした
そして頭部に叩き込まれる筈だった一撃を──掌で受け止めた。
「ッ────!!」
「動きは悪くないが、この程度じゃ──」
「──どの程度だ?」
その言葉が言い終わるかどうかの瞬間に。
──遥か彼方より飛来した白銀の一閃が、錆の身体に孔を穿った。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
「さっ! さと! 陥、ち、ろおおぉぉぉぉ!!」
──いける。
渾身の力で【
【
そう思った途端、【
「【
次の瞬間。
亰の視界が暗闇に包まれた。
そして──
「ご、ポ?」
血が、喉の奥から溢れ出す。
いや、それどころじゃなく。
感じるのは。
痛み。
痛い、いた、痛い痛い痛い痛い痛、痛い痛痛痛痛痛痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激激激激激激激激痛痛痛痛痛痛痛痛!!
「う、ぐ、ふ、はっガ、アば、はっッッ、ギゃああああアアアアぁあアああァァァあぁああアアぁ!!??」
余すところなく全身へと襲いかかるその痛苦に、腹の底から絶叫する。
そして、視界が開かれた。
赤く染まった景色の中にあるのは──真紅の死神の姿。
「こんんんんんんんんんのスットコドッコイがぁっ…………!! どこに
自らも血塗どろとなりながら、そんな風に吠えたてる【
…………そうか。
自分ごと、
なかなか、イカれてる。
「なんやねんなさっきのは。中国拳法か? んん? あんなんが効くと思ったか──とか言いたいとこやけども、ああも無様晒したからにはそれも言えんわなぁ」
…………空手だよ。
習ってたの小学生のうちだけだけど。
「…………ま、それもここまでや。もう失血で動けんやろ。このまま姐さんのトコまで引き摺ってくか──」
胸ぐらを掴み上げられる。
身体はさっぱり動かない──意識を保っていられるのが我ながら不思議なぐらいだったが。
そこで。
ガチャリ。
と、扉の開く音を聞いた。
「…………ミヤ、コ?」
今。
もっとも聞きたくない声が聞こえた。
まっかな視界のなかで。
カラオケボックスの中から。
「…………っ! ダッ、メ…………むす、び。逃げっ──」
逃げて?
本気で、そんな事を言おうとしたのだろうか。
そんな言葉に従う筈がないということぐらい。
「…………離せよ」
「…………んん?」
結の言葉に白々しく【
「聞こえへんなぁ。なんていうたんや自分──」
「ミヤコを離せっつったんだよ!!」
怒声が響き。
ニタリ。
と、【
「へえ──やっぱ、覚えてるんか」
そう言いながら、あたしを床へと手離した。
「待、てよ…………なに、するき………」
「さてなぁ? 何やと思うー?」
──【
その手に真紅の
「ッッッ!! やっめ、ろテメェっ!! ざっけん、なっ…………狙いは、あたしでしょうがっ」
「や、
ゾッとするような声色で。表情で。【
その姿はまるで。
残酷な。冷酷な。
ニンゲンの、ような。
「あ、ああ、ああああ…………」
コツ、コツ、コツ、コツ。
赤い死神が、親友へ向かって歩を進める。
死ぬ。
死んでしまう。
あたし、ではない。
他でもない。
死ぬ。
亡くなる。
いなくなる。
あの赤い、紅い、死の刃に──刈り取られて。
お父さんのように。
お母さんのように。
…………
いなくなる。
なくなる。
あたしを、覚えてくれている人が。
あたしに、おかえりと言ってくれる人が。
もう、誰も。
ただの、一人も──
「………………………………………………………………………………いやだよ」
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「…………さ、別れ道だよ、
熱帯夜の明るい月の下。
母なる死神は、揺蕩う娘子に向かって呟いた。
「誰しも、どんな『生き方』を選ぶのかは千差万別──けれども、『在り方』には二通りしかない。人も、
──生き様に惑うか。
──死に様に溺れるか。
「…………あなたはどっちに進むの? 亰ちゃん」
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