第15話 噂の真相
「~~~♪」
キッチンからは軽快にまな板を叩く音と、ご機嫌な鼻歌が聞こえてくる。真っ白なフリル付きのエプロンを、半袖の制服の上から身につけ、特徴的な赤い髪をポニーテールにまとめ、鼻歌の拍に合わせて左右に頭を揺らす。退院後、初めての朝食作り。入院していたため、つい心が弾んでしまうのは薄味すぎる病院食をもう食べずに済むからだろうか。久しぶりの料理にテラスの気持ちも上々のようだった。
まな板の上で刻まれる細長い万能ネギはお味噌汁へと入れる薬味として利用する。まな板から小鉢へと移しておき、お好みでお味噌汁に入れられるように準備した。
昨日の晩にセットして置いた炊飯ジャーのご飯はすでに炊き上がり、釜の底からしゃもじで一度すくうようにかき混ぜた後、再び蓋をしてしばらく蒸らしておく。釜を開けた時、そしてかき混ぜた時に広がる炊きたての米が放つ独特な甘い香りは、一気に口の中に唾液をあふれ返させる。
魔石から抽出された魔力を利用して、魔法へと変換され火を出している魔導コンロの上には、コトコトと沸騰したお湯を抱えた雪平鍋が二つ。一つはお湯のみが入ったもの。その鍋に塩をひとつまみ入れる。根のついたままのほうれん草をお湯の中へといれ、少ししなっとしたところでお湯から取り出す。
「あちちちっ」
さっと水洗いし、手で水を絞る。まな板の上へと置いて一口サイズ、等分に切り分ける。もちろん、根はこの時切り落としておく。人数分四つの小皿に取り分けて、最後に鰹節をパラリと一振り。ほうれん草のおひたしの完成だ。学食のおばさんが、食卓に彩りを添えるための簡単な献立を教えてくれた。小皿の模様も相成って食卓を賑やかにしてくれるだろう。
テラスは純銅の長方形の平鍋をコンロの上へと置き火をかける。準備していたガラス製の調理用ボールへ玉子の殻を割って中身を入れる。数個入れた後、菜箸で軽快にかき混ぜ溶き卵を作る。そこへ適当な量の砂糖を加えかき混ぜる。純銅の平鍋が熱く温まったところで食用油をひき、キッチンペーパーで余分な食用油を拭き取る。熱した平鍋の底が隠れる程度に溶き卵を注ぐ。溶き卵の端が熱で固まり出してきた。菜箸で橋をつまみ、鍋の奥から手前へと5cm程度手前へひっくり返す。
「……えい! あっ!」
少しだけ崩れてしまったが、菜箸で形を整える。繰り返し2回ひっくり返す。巻いた卵を奥へとずらして、再び食用油を薄く引き直した。新しく溶き卵を注ぎ、巻く作業を数回繰り返し、卵の厚焼きを四つ作った。それぞれ一口サイズに切り取り、長方形の平皿に切り口を少しずつずらして盛り付ける。ついでに水分を切った大根おろしを、つまんで同じ皿へと三角錐型に整えて添える。見栄え良く盛り付けることができ、テラスも頷く。
「うん、できた」
もう一つの雪平鍋のお湯の中で、踊るように回るのは細切りにされた大根。大根の硬さを確認するため一口。ハフハフと少しみっともなく舌の上で大根を踊らせる。噛めばちょうど良いシャキッとした歯ごたえを残していた。
「うん、いいかも」
テラスはコンロの火を弱火にし、鍋の縁にステンレス製のザルを引っ掛ける。そこに味噌を入れて手にした菜箸でザルの中の味噌を溶かしていく。お湯と味噌が混ざり合い、湯気に乗って味噌の香ばしい香りが立ち上ってくる。
「あ~、お味噌って不思議。なんで私たちの国にはないんだろうな~」
「倭国の人はずるい!」そう心の中でつぶやきながら、味噌を溶かし切ったあと中火へと火力を上げ、一煮立ちさせる。
ダイニングテーブルへと食器を運ぶ。ちょうど四人がけのテーブルは白雷がこの寮で寝泊まりすることになりちょうど席は埋まったのだ。ランチョンマットを敷き、その上へ食器と卵焼き、ほうれん草のおひたしを置く。鍋敷きを敷いてその上に大根のお味噌汁が入った雪平鍋を乗る。その隣には炊飯ジャーを置く。手際よく配膳していくテラスの手が急に止まり、一つの気がかりが頭をよぎる。誠は手料理を食べてくれるだろうか? ――ふとそんなことを思ってしまった。
「――今日は、きっと……」
テラスには確信があった。今日は食べてくれる。そう思うと嬉しさがこみ上げ、止まっていた手が動き出す。配膳が終えた頃、イーダがリビングのドアを開けて入室してきた。
「おっはよーございますテラス様! お~退院後早速の食事当番ですか。ありがとうございます~! む、いい匂いの正体はこれですね?」
イーダは食卓に並ぶ、卵焼きをしげしげと見つめる。
「久しぶりですが、うまくできたと思いますよ」
「ふふふ、退院後とはいえしっかりと審査させて頂きますね。」
「お、お手柔らかに……」
イーダはニヤリと口の端を釣り上げて、テラスにぎらりと視線を向けた。イーダはいつものようにテラスの正面の椅子を引いて座る。イーダが手を合わせて食事前の定例を行おうとした時だった。
「あ、イーダ待ってください」
「どうしましたテラス様? 私はもう腹ペコです」
テラスは少しだけ視線を下げて、はにかむ。ほんのりと頬を染めて――
「――どうせなので、今日はみんなと一緒に……」
「…………仕方ないですね~。それでは二人を……」
少しだけ不満そうな顔を見せたイーダであったが、笑顔を浮かべ立ち上が、リビングの扉へと向かった。ぺたりぺたりと床に張り付くような足音が、廊下を伝ってテラスとイーダのいるダイニングへと伝わる。白襦袢を着崩し、両肩を露出させた白髪の美しい少女。ところどころその白い髪は跳ね上がり、青空を切り取ったような瞳は寝ぼけ眼。眠そうに目をこすりながら、白雷がリビングの扉を開けて入ってきた。起き抜けの姿は、見姿の様の通りの幼い少女。テラスは白雷へと笑顔で声をかけた。
「おはようございます。白(はく)ちゃん」
「…………おはよう」
「ハァ、なんとだらしない。顔を洗って、歯でも磨いてきたらどうだ?」
「…………うむ」
イーダが指摘すると、白雷はぼそりと呟きリビングから姿を消す。白雷の意外と素直な反応に、イーダは鳩がマメ鉄砲を食らったような顔をする。白雷は再びぺたりぺたりと廊下に張り付く音を立て、洗面所へと向かっていく。しばらくしてから水が流れる音がし始めた。
「…………朝は意外と素直なんですね」
「白(はく)ちゃんはいい子ですよ」
「というか、いつの間に白(はく)ちゃんと呼ぶようになったんですか?」
「昨日の夜、私の部屋で少し遅くまで話していたとき、そう呼んでいいか尋ねたら、構わないって言ってくれましたよ」
イーダは「ふ~ん」は頷くが、違和感を覚える。そんなことはどうでもよかった。もっと重要なことに気づいたのだ。
「は? いつ、あの小娘がこの寮で寝泊まりすることが決まったのですか?」
「え? 私が病院から戻った時には、既に白(はく)ちゃんは誠先輩とこの寮で生活してたので、てっきり学園長先生が許可を出していたものかと」
イーダの眉がピクリと動き、その眉が釣り上がる。
「……外界演習の時といい、一国の皇女に対するなんたる無礼。許せません! そして一ノ瀬誠はいつまで寝ている。私は腹ペコだ!」
空腹ということもあり、イーダはイライラした様子を隠せないようだった。自らを初代勇者が最後に振るった剣、『白雷』と名乗る少女は、テラスの命を危ぶむ存在である可能性は十分に高い。白雷の正体は未だ不明確で得体の知れない者であるのだから。イーダがため息をつき、頭を抱えていると、特徴的な男勝りな口調、凛とした声色がした。
「誠ならいないぞ」
白雷はリビングに再び入室する。着崩した白襦袢はしっかりと着直し、先ほどまで見せていた寝ぼけ顔はシャキッとした様子になっていた。だが跳ねた白髪はそのままではあった。しっかりとした足取りでテラスの横の席まで歩き、椅子に座った。
「え? 何か朝早くに用事があったんですか?」
テラスは少し残念な表情を浮かべ尋ねた。今日こそは食べてもらいたかった。簡素な食事ではあるものの、今のテラスと誠の関係を鑑みれば、誠は確実にテラスの手料理を食べてくれるはずだ。期待が大きいぶん、残念な気持ちが大きい。テラスにかまわず白雷は茶碗へご飯、お椀へ味噌汁を注ぎ、「いただきます」と一言言って、食べながら誠の最近の様子を伝える。
「いや、誠は退院してからは朝はいつも不在だ」
「…………そうですか」
「しかし、朝餉の支度はいつも誠がやっていたが、これは誠の味ではないな」
「テラス様がお作りになったのですよ、ありがたくいただくといいです」
作ってもいないイーダがなぜ威張っている。怪訝そうな顔を浮かべてジトリとした視線をイーダへと向ける。白雷はお椀を小さな両手で包み込むようにして持ち上げお味噌汁を啜った。テラスは、イーダと自分の分も食器へとよそった。白雷が味噌汁を啜ったあと、「ふぅ」と一息ついてお椀を置いた。
「白(はく)ちゃん、どうですか?」
「………ふむ、テラスよ」
テラスの顔は期待に満ちた顔をしている。ブランクがあるとはいえ、倭国に来てから毎日食事を作ることを欠かさなかった。食堂のおばちゃんにも色々と話を聞いたり、料理本も購入して読み漁った。きっと白雷も喜んでくれる――そう思ったが。
「不味い。お前は料理が下手だな。誠の足下にも及ばない」
***
『ねぇ、テラスさんなにかあったの?』
『病み上がりでまだちょっときついんじゃないの?』
『一ノ瀬先輩となにかあったとか? ほら、一つ屋根の下だし』
『きゃ~! やっぱりあの噂って本当なの? 痴話喧嘩ってやつ?』
朝の教室。
テラスは自分が皇女ということも忘れて、自分の机にうつ伏せ、どんよりとしたオーラを解き放っていた。その様子にクラスメイトたちは何か近寄りがたいものを感じ、ヒソヒソとあれやこれやと話をしていた。テラスの側で仕えるイーダは腰に手を当て呆れたようにため息をつく。
「ほら、テラス様。シャキッとしてください。一国の皇女であろうお方がだらしがありませんよ」
「……ぐすっ。白ちゃんもあそこまで言わなくても……」
朝食のダメ出しを受けたことを引きずるテラスは登校中、もぬけの殻のような表情を浮かべながら歩いていた。まるで生ける屍のように目的もなく、たださまよい歩くような姿は、見る者に恐怖へと陥れるようだった。結局イーダが手を引き、教室までたどり着くことができた。椅子に座った後も、魂が抜けたように上の空で、クラスメイトの挨拶にも応じることすらできなかずいまに至る。
「しかしテラス様、白雷の言っていることは的確でした。味に深みのない味噌汁。砂糖で味付けした卵焼きに大根おろしと醤油。すりゴマのかかっていないほうれん草のおひたしは外道。いずれも的を射た指摘でした。いつご飯以外のものをまともに作れるようになるのですか?」
「イーダまで~!」
イーダからすればテラスの食事は不味くもない、今一歩ということらしい。時々高評価を得られることもなくはないのだが、その味は安定していない。白雷に至ってははっきりと『不味い』と断言された。何処でその舌を養ったのか、料理の的確な指摘はイーダも舌を巻くほどである。一番気になるのは『誠の足元にも及ばない』という指摘。テラスとイーダも誠の意外な一面があるということに驚きを隠せないでいた。
より一層の落ち込みようを見せるテラスをよそに、イーダは顎に手を当てて白雷の言葉を思い返す。
「テラス様の料理はもうどうしようもないとして、一ノ瀬誠の作る料理はとても気になりますね」
「ど、どうにもならないってどういうことですか!?」
「まぁ、テラス様、落ち着いてください。それよりも気になりませんか?」
「それよりもって……。まぁ、気にならないといえば嘘になりますが……」
正直悔しい。女子が男子に料理で負ける。それは、勇者としてあるべく修練を積む傍、女子としても磨きをかけてきたテラスにとって、歯がゆい事実。ましてその男子が誠ということは尚のことであった。誠が料理している姿は何度か目撃していた。確かに美味しそうな匂いが寮を充満させ、口の中に唾液を溢れさせ、腹の虫が否応なしに鳴り響いていた。だが、誠はきっちり一人分を作り、誠自身がそれを口にしているところは見たことがない。だが、その料理の行き先をテラスは知っていた。
「肝心の一ノ瀬誠がまだ登校していないようですが…………」
「どうされたんでしょうか?」
誠の不在を心配しつつ話を続けようとしたが、担当教官が教室へと入室する。
『お〜い、席につけ〜。出席とるぞ〜』
「ではテラス様、後ほど」
「はい、ではまた」
テラスは誠の料理を食べて見たいと思いをはせながら、出席確認に『はい』と応答した。
外界演習終了後、学園は一日の休みを設けたあとすぐ授業が再開された。誠、テラスの二人を除いては学生たちは誰一人として負傷することなく、全員無事に帰還することができた。捕獲された龍族の眷属、魚竜ティブロンは教材として解剖され、授業中、その生態と戦闘の対策の講習が行われた。リヴァイアサンの二度にわたる強襲を受け倭国は学園生徒たちに、より実践的な指導方針を行うことを決定した。海に囲まれている分、海龍族、およびその眷属たちの対策方法は履修することは当然である。だが今回の件を受け、みっちりと叩き込まれるようになった。また将来倭国軍に所属するにあたり、ジェットウェイブを乗りこなすことは必修であり、その実習も兼ねている。
リヴァイアサン強襲後、近海には頻繁に出没し始めるようになったティブロンをはじめ、海龍族の眷属を一掃する作戦に学園生徒たちは組み込まれるようになっていた。だからと言って、防衛作戦の最前線に立つわけではない。3つの戦線を組み、第一、第二戦線を抜けた龍族たちの排除が主な任務であり、1班に必ず、熟練のドラゴンスレイヤーが配置されるため、学園生徒の死傷者は出ていない。徐々に学園生徒たちは力を伸ばしつつあり、他の国の生徒たちよりも十分すぎるほど実力を備え始めていた。
さらなる倭国の軍事的優位は政治的交渉の際、同じ土俵に立つことを許されない。各国もドラゴンスレイヤーの養成が急がれ始めるようになった。近々、『破龍士闘技大会』が開催されることを受け、各国所属の破龍学園も着々とその調整を行なっている。
ドラゴンスレイヤーの養成、『破龍士闘技大会』と同様に一つの話題が世間を騒がせていた。
人はそれを神話の再現、英雄の再来、女神の加護とも噂している。突如として世界中の大気を震わせた轟音。聞こえなくとも伝わる大気の振動。それは世界を歓喜させるもの。
白き裁きの雷。龍を貫く聖なる刃。正義の鉄槌。
世界は初代勇者の再来したのではないかと噂し始めていた。だが、あくまで噂の程度であり、次々と湧き出るゴシップ情報は後を絶つことはない。だが、初代勇者再来を心から歓迎するのは無理もない。17年前に滅んだ勇者一族。その悲しい過去を乗り越え、女神がの祝福が再び勇者をこの地に舞い降りさせたと、ディオサ教は勇者再来の高々と唱う。世界の人々の心はディオサ教の語る言葉に耳を傾け、祈りを捧げている。
誠とテラスが通う破龍学園でも勇者再来の噂は後を絶たない。むしろどの国よりも誰よりも、間近で肌で感じていた。直接その『白き雷』を見たものはいない。だが、伝わるその魔力が、雷鳴が、学園生徒たちへその存在を知らしめたのはいうまでもない。
外界演習中、姿を消していた誠、テラス、イーダの三名がもしかしたらと噂されてはいたが、ロウソクの火のようにその噂は吹き消された。誠は魔法が使えるようになったと言っても、未だ初級魔法すら使えこなせていない。テラス、イーダに関しては『女』だからという理由だ。歴代の勇者を見ても何も『男』の勇者のみであったのがその理由だ。世間一般には勇者は『男』である、というのが定説でああっためだ。
教室は昼食の時間を迎えていた。そこには誠、テラス、イーダの姿はない。昼を迎えても姿を見せない誠を心配して、テラスは教室を抜けていった。イーダもそれに付き添う形で今は不在であった。
そんな教室の中、ある三人のせいとが机を向かい合わせて昼食をとっていた。そのうちの一人、髪の毛を巻貝のように括り上げた女子生徒が唐突に言い放ったことに、彼女の連れ二人は振り向く。
『やっぱり変やなか?』
『急にどうしたと?』
『……うん、あんたの髪の毛、今日おかしか』
彼女が言葉を発した途端クラス中の視線を集める。この三人組は世間のゴシップ情報にやたらと精通している。特に最初に発言した巻貝頭の女子生徒はこの三人のリーダー的存在。彼女の持つ情報はかなりの影響力があり、事実それが真実であったりする。
彼女が話し始めることは、大声を出さずともクラス中の生徒が聞き耳を立ててしまう。そして持ち上がった話題はクラス中でも注目度がかなり高いようだった。話題の二人がいない今、クラス全員の耳が彼女の次の言葉を迎える準備を整えていた。
『違うと! 髪の毛のことは言っとらんたい。例の二人のことっちゃけど』
『あ、テラスさんと誠先輩の話やろ?』
『……うん、バリ怪しか』
生徒全員の耳がピクリと動いた。
外界演習終了後、誠は外界演習直前まで魔力行使を行うことができず、魔法を使うことも、自らを守る魔装すらも身に纏うことはできなかった。あるものは臆病風に吹かれてしまい、部屋から出ることも叶わなかったのではないかという次第だった。事実、外界演習中、彼の影は移動要塞のどこにも見当たらず、リヴァイアサン出現時、避難した場所にその姿が見当たらなかった。
『問題はツーマンセルのペアのテラスさんも一緒におらんやったことたい!』
『テラスさん皇女さんばい? 危ないことはさせてもらえんとやなか?』
『……うん、危なか』
外界演習中、誠のツーマンセルの片割れであった皇女も、その姿を見たものはいない。湧き出た噂は一人歩きし、ついには二人で密会をし、危険迫る中、二人は身を寄せ合っていたのではないかという噂まで発展することとなった。その噂を決定づけるような出来事を目撃したのは、紛れもなく巻貝頭の女子生徒であった。
『あれはそう、陽の光が夕日となって沈み始めた時――。いつも通り下校しとったら、テラスさんが座る車椅子を笑顔で押す誠先輩がおったと。いつも凛々しくしとるテラスさんも頰を染めて楽しそうに笑っとったちゃん。演習前の誠先輩もテラスさんもあんまり仲いいようには見えやったばってん、あれは何かあったとしか言えんばい。急接近にもほどがあると!』
『ばってん! そげんこと言っても噂ったい。誰も信じとらんっちゃなか?』
『……うん、信憑性なか』
クラスの数人の生徒も二人の意見に頷く。
だが、巻貝頭の女子生徒は首を大きく左右に振り、皆の肯定を否定する。確信めいたものがあるのだろうか、腕を組み自信ありげに胸を張る。
『みんな忘れとるっちゃなか? あの二人同棲しとっとよ』
『ばってん! ……あ』
『……うん、可能性高か』
クラスは一斉にざわめく。女子たちは有る事無い事を妄想し色めいた声をあげ、男子たちは勝ち目のない戦いの結果に一斉にため息をついた。巻貝頭の女子生徒は立ち上がり人差し指をクラス全員に向けて宣言する。
『真相究明はこれからやけん! 楽しみにしとくとよ!』
誠たちのクラスでは勇者再来、目の前に迫る『破龍士闘技大会』の以上に、誠とテラスの関係がどうなっているのかの方がより一層関心を集めていた。
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