10.旅立ち
広場の被害は甚大だった。シセが命を落とし、隊長級も何人かが落命、または重傷を負った。
これが戦なら大敗北だ、とロイドルは思う。だがシセ殿は最後まで私欲より国を優先した。我々を信頼もしてくれた。剣の才能を謳われて図に乗ったことはなかったか。ロイドルは自省する。
しかし剣の者がどう応えるかなど、初めから決まっている。
命をかけて王を守る。今度も。今度こそ。
戴冠式は滞りなく行われた。トーニャが歩いて広場に現れると国民は熱狂した。
「新しいー国王様のーお目見えだー!」先陣の大役を任されたラースが声を張る。なんで俺なんだろう、と思ったが、日頃の功績だろう、と深くは考えない。
王命三傑が異常に緊張してるけど、なにかあったんだろうか。まぁいいや。国王ーさまのー!
トーニャが冠を被り、剣を高々と掲げる。広場の熱狂は怒号に近くなる。
剣を鮮やかに振り、鞘に納めた。そのまま着座する。歓声。拍手。
なにも起こらないじゃないか。【王の力】は継承されなかった。
6人の王の内、4人は異常に気付いた。サヌマでなにか、異変があった。会食どころではない。急ぎ帰り、自国を守らねば。
残る2人の王は平静を装った。あまり慌ててみせるのもよくない、と微笑みすら浮かべた。
「なんでお前が来るんだよ」リケルトはうんざり気味につぶやいた。
「お前は異術使いだからな。あの黒甲冑に辿り着く方法、知ってるだろ」バルシスは譲らない。
「知らないっての。俺は俺で調べることがあるんだ」
「旅なら多い方がいいだろう」
「お前と!?」冗談じゃない。
「あたしも」
は。
現れたカルーシャに2人は仰天する。
「無理無理! 城に帰れよ!」
「王の妹君をお連れするなど!」
「あたしのせいだから」カルーシャはつぶやく。「あたしがジーノを連れ出したから。だから、あの子のためになりたい。国王も、そう申しております」
リケルトは言葉がなかった。黙って歩き出す。
「おい」とバルシス。
「日が暮れる。来るなら来い」
「なにを偉そうに」
バルシスとカルーシャは顔を見合わせる。
トーニャは広場を見渡した。キタサン六カ国の王の目。国民の期待。城内の事件を全く知られぬわけにはいかないだろう。威厳を保たねば。
状況の好転はリケルトたちに託すしかなかった。ジーノを救い、玉座を取り戻す。受け継がれなかった【王の力】を、必ず手中に。綱渡りのような――そもそも、綱がかかっているのか――道を歩き通す。石の彼女を思えば、苦でもない。
顔を上げた。堂々とみえるよう、背筋を伸ばす。笑みを浮かべて民衆に応えた。
そうだリケルト。願わくばお前にも、笑顔を。
サヌマの事変を知られる前に、石化解除の知識が欲しい。リケルトたち3人はすでに山中にいた。木々の切れ間に城が見え、思わず立ち止まる。
城に戻ってきたのはつい昨日だった。そして今日、また隠れて旅に出る。
しかし今度は3人。心強いのは明らかだった。
遠くからフクロウが飛んで来るのがみえる。付いてくるのか。
思い切って、笑ってみる。
黒の一団。リズマ団長。ジーノ。
必ず全てを、取り戻す。
知られることのない3人の旅が始まる。
≪第一部 完≫
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