第7話 修学旅行 -桜ー
はぁ、楽しかったぁ。1日目は奈良に行って来たんだよ。
めっちゃ巨大な大仏様と、きれいな朱塗りの春日大社。
それで純がね、奈良公園で鹿に囲まれたの。
「わぁー、なんだよ、俺すっげーモテモテ。女鹿ハーレム~」
いや、君が鹿せんべい持って無防備に立ってるからでしょー。
どうして女鹿って決めつけてるんだよ。角すごい奴もいるじゃないか。
もちろん、手に持ってるのは食べられちゃうし、背中のリュックもガンガン小突かれてるしで、結構すさまじい。
見せびらかしてると、闘牛ならぬ闘鹿になっちゃうよぉ。
あれ、私の横にちょこんといるこの小鹿ちゃんは、めっちゃおとなしくてキュートなのに?
わぁ、近くでみてもお目目かわいい。スケッチしたーい。
*
1泊目は、京都植物園近くの宿。
疲れたぁって部屋でごろごろくつろいでいたら、何やら廊下が騒がしい。
「どうしたの?」 と同じクラスの男子に聞くと
「純が熱出したー」って。
やっぱり女の子に囲まれて(鹿だけど)コーフンしちゃったのかな。
だいじょうぶかなー。明日の自由行動、せっかく一緒の班なんだからね。
心配だなぁ。様子を見に行ったら、なにやら先生たちがバタバタしていた。
*
お夕飯は、京都らしく懐石料理。
食べる前に懐石の意味と素材の説明を、宿の方がしてくれる。
私は野菜がだいすきなのですごく嬉しいけど、あまり和食が得意じゃない子たちは面食らってる。
でも見て。きれいだよ、日本が誇る和の食事。
「え、ちょっと川名、もう平気なの?」
「わかんねぇ、ちと頭フラフラする。でも腹減っちゃったし、折角の京都の飯、食いたいじゃん」
顔が少し赤くて、いつもほど勢いないけど、おいしそうに食べてる。
すききらいないよね、純は。というか、残すのが悪いって思ってるんだろうな。
筍ごはんのいい香り。ちょうど今が旬。
そして、炊き合わせの高野豆腐と蕗。
京都に来たら一番楽しみにしていた、ごま豆腐と湯葉。
木の芽和え。豆腐の田楽。父さんが酒の肴として愛でそうな小鉢たち。
少しずつきれいなお皿に並べられて、目でも楽しめるのが最高。
お箸で丁寧に持ち上げて、ありがたい心持ちで、いただきます。
*
朝早くロビーで会った純は、もうすっかり元気になってて
「鴨川沿い走って来た! めっちゃ爽快。最高!」とか言っちゃって、まぶしく笑ってる。
なーんだ、まったくもう。心配して損しちゃった。
でも、よかったよ。
壁に貼ってある地図のところで手招きするから見に行くと
「ほら、ここ。二つの川が出会うところ、行ってみたくてさ。前から地図見て走るルート考えてたんだ。ロマンだろー?」
私があきれて、まじまじと川名の目を見たら、照れたように
「さあーって、朝ごはんいっぱいおかわりしよっと」
って、手振って行っちゃった。
「ゆく川の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず」
国語の授業で習った『方丈記』の冒頭。
賀茂川と高野川、二つの川が Yの字のように交わるところ。
水の流れを辿りながら走る道は、きっと彼の一生の思い出になるだろう。
*
2日目の日程は、京都の散策。
北西コースと南東コースに分かれて、午前中は集団行動。
私たち北西コースは、天下の金閣寺を見学したあと、
仁和寺の桜は「
八重だと少し豪華過ぎて桜ではないように思えてしまうけど、きれいだ。
土壌があまりよくないので、樹高が低い。
つまり花が近いってことだよね。香りが傍で感じられるっていいな。
遅咲きだから4月半ば過ぎに咲き、京都の桜の最後を飾るらしい。
さすがにそれすらもう終わってしまっているけれど、実はここの桜は御室桜だけではないんだって。
さあ、みんなでさくら探し。
二王門から入ってすぐ左手の御殿の中にそれはある。
まずは、玄関の上の方に彫られた桜を発見。あった、あったと小声で喜ぶ。
襖の上の
そして、瓦や庇に、紋のような桜マークがたくさん見つかる。
ぽんっと押したくなるハンコのような、かわいいハートの花びら。
回廊って、時代劇に出てくるみたいなの。
姫様、お待ち下さい!ごっこができるね。お付きの者たちを困らせる姫。
あ、回廊の曲がり角の戸にも、桜が。 武将のおじさんがなんか指示してる。
ふきだしをつけるとしたら、「ゆけ、皆の者」ってとこかな。
おみやげに桜のかたちのかわいいお守りを買ったよ。りんって鈴が鳴る。
さあ、午後はグループ行動だよ。きゃっほー。
嵐山の渡月橋に着いた。お楽しみの、お弁当タイムだ!
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