第4話 サンタさんの正体


 今年もアドベントカレンダーを窓辺に飾った。

 12月に入ると毎日、日付の書いてある紙をめくるだけのカード。


 そこには小さなプレゼントの絵が描かれているだけなのに、リポンや包み紙の中を想像してみる。

 これはきっとおもちゃ。今日は絵本かな。そんな風に小さな頃に戻る。


 リビングにはきらきら光る背の高いモミの木。

 大きな星にちかちか光るライト。

 毎年ママと一緒に飾り付ける、きらびやかなクリスマスツリー。


 そして、自分の部屋には小さな林檎と白い綿のミニツリー。

 赤と白と緑さえあれば、もうそこはクリスマスなの。


 こどもの頃、私きっと他の子よりも長いこと、サンタさんの存在を信じていたと思うの。

 クリスマスイヴの夜、そっと大きな靴下を置いて眠りにつくと、翌朝にはちゃんとプレゼントが入っていて。


 あのね、いつも目覚めると可愛いお菓子が そこにあって。

 すてきな缶に入ったキャンディもあったなぁ。

 缶に長い赤いリボンがついていて、首から下げられるんだよ。

 一日中、中のキャンディを出して並べてみたり、また缶にもどしてみたり、なかなかたべられなかったなぁ。


 でもある年の十二月、ママが押入れの上の方に何か隠してるのを見つけちゃったんだよね。

 何してるの?って声かけたら、ママの背中がギクッとして、クリスマス柄の包みが見えてしまった。

 サンタはママだったんだぁ。


 あら、ちがうわよ。律の枕元に置くのはパパの役目だったのよ。

 やだ、ママ、そこじゃないよ、否定するとこは。


 蒼に話したら、目をまるくして「今まで信じてたのー?」って、叫んだっけなぁ。


 蒼の家では、蒼のお父上(丸顔)がサンタさんだったんだけど、寝たふりしてる蒼と空くんの顔を見て、「かわいいなぁ」とかいっぱいつぶやくので、もう幼稚園くらいから、サンタ=父ちゃんってわかっちゃったんだって。

 しかも間違って、ボンボンの代わりに、おまんじゅうが入っていたり。


 まあ考えてみたら、ママのお菓子の味にそっくりだった時点で、早く気づけって感じなんだけど。私、ぬけてるのかなぁ。


 それからはパパとママからってことで、クリスマスディナーのテーブルで渡されるようになったプレゼント。

 こども卒業ですって言われてるみたいで、さみしいのか、少し誇らしいのか、どう考えたらいいか複雑なきもち。


*


 聖夜にはクリスマスケーキ。

 ママの棚に並んでいるお料理の本のコーナーから、お菓子の本を持ってきてパラパラめくる。

 まるで絵本の中の魔法がかかったお菓子みたいでわくわくする。


「ねえ、ママ。これって雪で閉じ込めた結晶みたい」

「きれいだわ。砂糖漬けのことね。果実もいいけどお花もかわいいのよ」

「クリスタリゼって、フランス語かなぁ」

「きっとそうね、お菓子の用語はフランス語がたくさんあるから。キャラメリゼとかもそうかもね。葉月先生に聞いてみたら?」


 今年のケーキはママと相談して、ラズベリーをのせることにした。

 いちごよりも少し大人っぽい果実。

 飾った赤い実に粉砂糖をさらさらとかけたら、雪が降ったように見えるかな。


 あ、スポンジの上にママの得意なヨーグルトムースを使うのはどうかなぁ。

 ラズベリージャムとの相性も良さそう。難しいかな。

 真っ白な雪の地面に赤い実って、葉月先生のお庭みたいでしょ。


 あ、先生は、クリスマスどうするのかなぁ。

 恋人と過ごすのかな。もう、気になって仕方ないよぉ。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る