第11話 きっと見ていてくれる
はぁ。今日はため息しかでない。元気でないよぉ。
部活に行く前、私は理科室を訪ねた。
入ったきり何も言えない私に、先生はカフェオレを入れてくれた。
「僕はハーフなので、目の色がどうとか色々言われましたが、それが何なんでしょうね」
私、 まだ何も言ってないよ、葉月先生?
そのきれいな瞳や髪や仕草も、他のこどもたちにはとても異質に見えたんだろうな。
でもきっと先生は、誰かに媚びたり、無理に仲良くしたりなんてできない子供だったのだろう。今でも、それは変わらなくて。
「君は、担任の陽向先生には相談しないんですか」
「だって、ひなたちゃんって、わかってもらえなさそう」
「そうでもないと思いますよ。かなりユニークな人ではありますけどね」
葉月先生はそう言って、ふっとやわらかく笑った。
ひなたちゃんってさ、あんなに明るくて悩みなんかなさそうじゃない。
相談なんかしても、きっとはげまされて終わりだよ。
*
夏までのように、ただ新体操がすきで、踊ることだけ考えていられたらよかったのに。余計なこと考えてると、なんだか委縮しちゃう。
私は思ったことを何でもはっきり言う人間だと思われがちで、生意気だと陰で言われているのもわかっている。
私はただ、最高の演技をしたいだけなんだ。そのためにがんばって練習してきたんだから、下らないやっかみの声なんかに耳を貸したくはない。
要求がキツイよって、言われてそっぽ向かれているけど、本当に、そうだろうか。 私が相手に求め過ぎているのかな。
「海野。どうかした? 今日の練習、あまり集中できてなかったね」
受験勉強の合間に様子を見に来てくれた前部長が、ぽんと肩を叩いて声を掛けてくれた。
伸びやかな大きな動きができる、あこがれの人。
「新体操ってね、仲間を信じないとできないんだよ。ボールをパスする相手の気持ちも考えないと、自分の演技もできないんだ」
「私、いま孤立しています」
「そうだね。 陽向先生も心配してたよ」
「え、ひなたちゃんが?」
「意外? ああ見えて生徒の事よく見てるんだよ、あの先生。多分、他のみんなのこともね。息が合ってないことが伝わってしまう」
ふぅん、ひなたちゃんがねぇ。
こんな時に、団体競技であることは私にとって苦痛だった。個人で勝負できたら、もっとさっぱりできるじゃないかと。
だけど、仲間を大事に思っていないわけじゃない。
あとで職員室に行って、相談に乗ってもらおうかな。
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