秋のものがたり

第1話 蒼い空


 私のなまえは、海野蒼。

 海が遠い場所で生まれたのに、うみのあお。

 という名をつける両親のセンスがすごい。


 ちなみに弟は、海野空。うみのそら。

 二人合わせて蒼い空! なんのヒーローなんだか。


 私は今、中学2年生。

 名前の通りに男の子っぽいなって自分でも思うし、たぶん周りもそう思ってる。

 だいたいみんな、蒼か、海野ってよびすて。ちゃんなんて、つけられたことあったかな。


 ねこじゃらしって草、知ってる?

 先がふかふかした穂になってて、ねこがジャンプしてじゃれるの。

 私、小学生の頃、見つけるといっつもそれ持ってぶんぶん振ってたなぁー。

 それにあの茎、なかなかしっかりしてて、先をぐるっとまるめて輪っか作っておくと、いろいろ引っ掛けるいたずらに使えるんだ。楽しかったな。


 男の子と一緒に遊ぶのが、家にいるよりすきだった。

 放課後はキックベースやって、外を走り回って、木の枝もって林を探検して、川に向かって石ころ投げるんだ。

 あの頃のこと思い出すと、ファンタスティック!って叫びたくなる。


 あーあ、今はもう部活が忙しくて、遊べないー。



 私が男の子みたいなのは、もう一つ原因がある。

 それは、幼ななじみの律の存在。

 山藤律子って、なまえからして乙女の彼女は、ふわふわあまあまの綿菓子みたいな女の子で、それはもう可愛らしい。


 なんでおまえら気が合ってんの? ってよく言われるんだけど、あんなかわいい子といると、別の世界がそこにあるんだよ。

 律がいる空間はあったかくて、女の子が夢見る世界なんだ。

 そこにいると、自分も女の子に、ならなくて、ちょっとした王子さま気分で、守ってあげたくなっちゃうんだよね。

 だから、私は男の子。


 自分が男の子みたいにしてるのは、ごくごく自然なことで、仲いい男子はみんなともだちで、中学になってもそんなに変わんないって。

 そう思ってたのに。急に変わりはじめていく視線。


 そして、とまどいながらも、自分が目で追ってしまう人。



 今日も帰り道に、律の家に寄る。私がだいすきな場所。

 それに、お隣には葉月先生が住んでいる。楽しい実験をやってくれる理科の先生。

 小動物が訪ねてくる、季節の花が咲く庭。今は秋桜がゆれてる。


 ここは森の中。涼しい風がここちよい。

 でも、どこかで呼ばれているような気もするんだ。


 それは、きっと海の方角からだ。

 ここは海が遠くて、なかなか潮風になでられることがない。


 いつか、きっと、そばにいくから、ね。待ってて。







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