秋のものがたり
第1話 蒼い空
私のなまえは、海野蒼。
海が遠い場所で生まれたのに、うみのあお。
という名をつける両親のセンスがすごい。
ちなみに弟は、海野空。うみのそら。
二人合わせて蒼い空! なんのヒーローなんだか。
私は今、中学2年生。
名前の通りに男の子っぽいなって自分でも思うし、たぶん周りもそう思ってる。
だいたいみんな、蒼か、海野ってよびすて。ちゃんなんて、つけられたことあったかな。
ねこじゃらしって草、知ってる?
先がふかふかした穂になってて、ねこがジャンプしてじゃれるの。
私、小学生の頃、見つけるといっつもそれ持ってぶんぶん振ってたなぁー。
それにあの茎、なかなかしっかりしてて、先をぐるっとまるめて輪っか作っておくと、いろいろ引っ掛けるいたずらに使えるんだ。楽しかったな。
男の子と一緒に遊ぶのが、家にいるよりすきだった。
放課後はキックベースやって、外を走り回って、木の枝もって林を探検して、川に向かって石ころ投げるんだ。
あの頃のこと思い出すと、ファンタスティック!って叫びたくなる。
あーあ、今はもう部活が忙しくて、遊べないー。
*
私が男の子みたいなのは、もう一つ原因がある。
それは、幼ななじみの律の存在。
山藤律子って、なまえからして乙女の彼女は、ふわふわあまあまの綿菓子みたいな女の子で、それはもう可愛らしい。
なんでおまえら気が合ってんの? ってよく言われるんだけど、あんなかわいい子といると、別の世界がそこにあるんだよ。
律がいる空間はあったかくて、女の子が夢見る世界なんだ。
そこにいると、自分も女の子に、ならなくて、ちょっとした王子さま気分で、守ってあげたくなっちゃうんだよね。
だから、私は男の子。
自分が男の子みたいにしてるのは、ごくごく自然なことで、仲いい男子はみんなともだちで、中学になってもそんなに変わんないって。
そう思ってたのに。急に変わりはじめていく視線。
そして、とまどいながらも、自分が目で追ってしまう人。
*
今日も帰り道に、律の家に寄る。私がだいすきな場所。
それに、お隣には葉月先生が住んでいる。楽しい実験をやってくれる理科の先生。
小動物が訪ねてくる、季節の花が咲く庭。今は秋桜がゆれてる。
ここは森の中。涼しい風がここちよい。
でも、どこかで呼ばれているような気もするんだ。
それは、きっと海の方角からだ。
ここは海が遠くて、なかなか潮風になでられることがない。
いつか、きっと、そばにいくから、ね。待ってて。
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