第10話 答え合わせ
「これですか?」
「そうそれだ。おそらく、そいつを持ってたから襲われたんだろうな」
ソラノは神妙な面持ちで、『キューバー』を受け取ると、それを蝋燭の光に当てて装飾を確認するように眺めている。
「何か特殊なの?」
ツキミの問いかけに、ソラノはご自慢の髭をさすりながら唸る。
「これらの『キューバー』には、ご先祖様が滅んでしまった原因について記録されてある」
「ご先祖が、滅んだ原因?」
あの少女の記憶が、滅んだ原因?
そんな馬鹿なと思いながら、フユメは釈然としない様子で少女の記憶を思い出していると、どこかに行ってたヒカゲが、両手に抱えきれないほどの装飾が施された『キューバー』を持ち、戻って来た。
「に、兄さん!? その『キューバー』は?」
フユメは思考を中断して、ヒカゲが今にも落としそうだった『キューバー』を、椅子から離れ慌ててキャッチする。
フユメの咄嗟の行動に、「ありがとう」とヒカゲは言い、思いがけない言葉を聞いて照れ臭そうに鼻を鳴らす。
「この『キューバー』は、フユメが持っていたのと同じものだ」
机の上にざっと四十個以上はあるだろうか。ツキミは「ふえー」と、言葉を零し、心なしか目が輝いてるように見える。
「一回きりしか再生できないから、しっかりと記録が取れなかったんだけど、大体こんな感じの事が書かれていた」
そう言って、部屋の隅に置いてあった棚から一冊のノートを取り出して、フユメに手渡した。ツキミにも見えるように手招き、二人でノートを読む。
最初から読み進めて行くと、『キューバー』を見つけた場所や、その記録がされており興味深そうに読み進めていく。
そして、最後のページになる。そこには、ノートの内容をまとめるようにしてこう書かれていた。
『祖先が滅んだ原因。少女の願いが叶えられなかった』
「に、兄さん。これ、ホント?」
フユメは半信半疑といった表情をしている。
他のページには、人間以外の生物が爆発的に増えて滅んだ、環境がめちゃくちゃになって滅んだ、人類間で戦争が起こり滅んだなど、色々な原因が書かれていたのにもかかわらず、その曖昧な少女の願いが根本的な原因という結論に驚きを隠せない。
そもそも、フユメ達が知っている人類が滅んだという原因は「人類同士で戦争をした」だ。幼い頃から言い聞かされていたため、それが真実だとばかり思っていたが、ヒカゲ達が記したノートの内容を信じるなら、それが間違っていた事になる。
「本当さ。ただ、フユメがそう思うのも最もだと思う。僕だって最初は信じられなかったさ。どうして、真実を変えたのかってね」
「じゃあ、どうして少女の願いが原因だって思ったの?」
フユメの問いかけに、ヒカゲは笑顔を消して真面目さを滲ませた表情を浮かべる。
「人類が滅んだ原因について記録されていた記憶は、少女の目線のモノしかなかったからなんだ。だけど、まだ全ての『キューバー』を回収しきれた訳じゃないから、そうやって結論付けるのは良くないけどね。ただ、一つの可能性として少女の願いっていうのが有力候補っていう事は知っててもいい」
ヒカゲはそう言い終えると、フユメの方を見て様子を伺う。まだ釈然としていない様子だったが、不承不承と言った感じで頷き理解を示した。
しかし、それを外から聞いていたツキミには、ヒカゲが何かを隠して喋っているようにしか感じられず、
「そう言うけど、ヒカゲ達は、少女の願いが原因だって確信を持って言っているように聞こえるんだけど?」
ツキミの問いかけに、あくまで冷静にヒカゲは微笑を浮かべながら受け止めて少し考えてから喋り始める。
「そこで、少年に白羽の矢が立つ。少年は、少女の願いを叶えるために旅をしていると言っていた。どこからか『キューバー』と『キロウス』を持ってきた少年が言っていたんだ。まるで、早く原因を見つけるようにと、そう言っているように僕は思えて、それが確信に繋がった」
なるほどと言った感じでツキミは頷く。ヒカゲは、納得した様子にホッとしながら腕を組み、どこか遠くを見据えている。
「どっちにしろ、少年にその事を聞かないとわからないんだね?」
「そうだ。そこで、お前さんたちが持っているその『キューバー』。そこにヒントが隠されている。そこに、少年についての記憶が記録されていたんだろ?」
ソラノは期待を込めた眼差しで、手にしていたキューバーを持ち、フユメの方を向くが、その表情は曇っていた。
「……違うんだ」
重々しく言ったフユメの言葉に、ツキミも静かに頷く。
「違う?」
ヒカゲも同じようにして、フユメ達が持ってきた『キューバー』に、少年の足取りがわかる事が記憶されていると思っていたのだろう。笑顔から一転して、真顔になっていた。
フユメはそれを見て、期待に応えられなかったことに、悔しさを覚えながらあの時の少女の記憶を説明する。
「……まじかよ。意味不明じゃないか」
頭を振り、残念な表情でソラノは席に着いた。
「振り出しに戻ってしまったね」
「ごめん、兄さん。役にたてず……」
ポツリと呟いたヒカゲの言葉に、申し訳なさそうにフユメは頭を下げる。そんな弟の様子を見て、しまったと思いながらヒカゲは肩を叩く。
「何を言ってるんだ、フユメ。フユメは十分仕事をしているさ」
ヒカゲの優しい言葉に、フユメは少し歯噛みをした。そんな様子を静かに見守っていると、先程からずっと机の上にある『キューバー』を弄っていたツキミが、不意に口を開いた。
「……ねぇ、この装飾って、何かの形じゃないかしら?」
ツキミの言葉に、ソラノは近くにあった『キューバー』の装飾を照らし合わせ、思わず息を飲む。確かに、側面に線が一本引かれているだけで、他とは違うがセンスの無い特徴的な装飾だと思っていた。しかし、それに意味があるのなら話しは別だ。
「そう言われてみれば――ッ!? まさか!?」
ソラノは興奮気味で立ち上がり、一つずつ装飾を確認し始める。
「さすが、ツキミ! あまり喋らないから、いつもの人見知りを発動しているんじゃないかと心配したけど、そうじゃなかったんだ! ――いてて!? ちょっと、痛いって!?」
フユメも興奮が冷めない様子でツキミを褒めたようだが、全く褒めた内容では無いので、彼女の裏拳が彼の背中を直撃した。
「おいおい、まじかよ。これって!?」
数十分後。綺麗に、テーブルの上に並べられた『キューバー』の側面に描かれた装飾が、一つの絵となって完成していた。
ヒカゲは驚きを隠せない様子でその絵を見て、一つの地図を取り出す。
「装飾が一つのパズルになっているなんて。どうやら、僕達が住んでいる大陸を表しているみたいだね」
所々欠けてはいるが、テーブルの上には旧地図でいう日本が描き出されていた。更にはある場所に、バツ印が記されていた。地図に記されていた場所は、日本でもっとも高い山だった。
「これって、偶然じゃないよね?」
「絶対何かあるわ」
「こりゃあ、何かないと困るな」
「……行ってみよう」
ヒカゲの言葉に三人は頷き、もう一度机の上に並べられた地図を見つめた。
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