第117話 妖怪文化祭 その7

 しかも彼の話から判断すると、かなりの破壊力を秘めたもののようだ。突然物騒な物が出てきたと言う事で、いつき達は騒然となった。穏やかな顔で物騒なものを手にしていると言うギャップから、河童自体がかなり危ない妖怪に見えてしまう。


 そうして最新機器として、この銃の実演が始まる。宣言通りに標的は分厚い鉄板。河童は狙いを定めると銃の引き金を引いた。次の瞬間に銃口から放たれた妖力エネルギー弾はまっすぐ鉄板に当たり、すごい炸裂音と共に木っ端微塵に破壊してしまう。そのあまりの威力に、見ていたいつきは顔を青くした。


「うわっ!」


「おい、これヤバいぞ」


 一緒に同じ光景を目にしていたヴェルノも驚いて深刻な顔をしている。この破壊兵器とも言える銃の威力に恐怖を覚えた彼女は、恐る恐る隣で平気な顔をしているたぬ吉に話しかけた。


「ねぇ、アレで人を襲ったりとか、ないよね?」


「大丈夫、あれはまだ試作品だ。ただの技術デモンストレーションだべさ」


 たぬ吉たち妖怪にとってこの程度のものは想定の範囲内らしい。この言葉にいつきは今までの妖怪の認識を改めざるを得なかった。

 で、銃をぶっ放した当の河童はと言うと、温和な顔、温和の雰囲気のままこの最新マシンの説明を続ける。


「この威力、妖力の高い妖怪ならもっと強くなるよぉ~。スポンサー募集中~」


 この文化祭はそう言う各妖怪の研究のスポンサー探しを兼ねてもいるようだ。何となく怖くなったいつきはそうっとこの場を後にする。


 このブース内の各妖怪の研究は勿論そんな規格外の破壊兵器の発表ばかりではない。生活を楽にする家電製品的な機械の発表やら、仕事の効率化を図る工業製品的な機械の発表などの平和的な展示がほとんどだ。

 どうやら妖怪文化祭ではそう言う展示と武器の展示を特に分けない方針らしい。


 次の展示物に向かいながら、いつきはさっきの河童に展示についての感想を口にした。


「河童って傷薬を作ったり、川辺で相撲とったりのイメージしかなかった」


「それ、情報が江戸時代って止まってるべ。河童は今フリーの兵器関連開発の研究者だべよ」


「嘘お。イメージが崩れる」


 現在の河童の職業を知った彼女は昔話の話とのギャップに開いた口が塞がらない。妖怪知識の乏しいヴェルノも、お祭りの時の河童のイメージが強かったらしく、今回の兵器研究者の一面を見て面食らっていた。


「すごいな。夏の祭りの時は焼きそば売ってたのに」


「こっちが表の顔だべ」


 たぬ吉はそれが当然かのようにしれっと口走る。現代の妖怪って――。この一件以降、いつき達はショックで無口になっていた。特に昔話のイメージで今まで妖怪と接していたいつきの精神的ダメージはかなりのものになったようだ。

 たぬ吉はそんな2人に補足するように別に妖怪達はそこまで好戦的ではない事、人間世界の技術水準とそこまでかけ離れてはいない事、当然人間相手に戦争を仕掛ける気は毛頭ない事などを伝え、安心させようと努めていた。


 その説得の甲斐あって、少し表情が戻ったところで一行は沢山のミニチュアが展示されている部屋に入る。部屋の中では妖怪が開発した乗り物や、伝説の妖怪、未来の妖怪の生活を想像したミニチュア等が適切な間隔で展示されていた。そのひとつひとつをたぬ吉は得意げに詳細に説明する。

 いつきはその中である展示物に注目した。それに気付いた妖怪ガイドはすぐに説明を開始する。


「それは天狗山の内部図だべ」


「おお~」


「凝ってるなぁ」


 その精巧な作りにいつきもヴェルノも感心する。天狗山の内部図とされたその展示物は天狗山とその内部構造を精巧なミニチュアで再現したものだ。

 この作りが正確なものだとすれば、この天狗山は表面の山の部分よりも山の内部の方が重要な場所だと言う事になる。そう、まるで地下都市のようにこの天狗山の地下は妖怪達の住む大都市のような作りになっているのだ。

 初めて見るその内部構造を、いつかいつきは実際に生で見てみたいと思うのだった。


「本当にこうなっているのか?」


「それは秘密だべ」


 この天狗山の真相はヴェルノとの会話でも上手くはぐらかされる。その事から言っても、たぬ吉ですら簡単に教えられない事情があるのだろう。

 ただ、嘘だと断言しない時点で、天狗山に地下部分がある事を肯定したも同然ではあるのだけれど。


 ミニチュア展示の部屋を後にした一行は多目的スペースっぽい広い場所にやってきた。そこでは所狭しと沢山の野菜が並べられている。


「ここでは新種の野菜の品評会やってるべ」


「妖怪って野菜も作るんだ」


「当たり前だべ」


 妖怪が作っている野菜は人間が作っているものとほとんどは同じだったけれど、まさに妖怪野菜とも言えるような見た事もない不思議な野菜も幾つか見受けられた。やたらとカラフルだったり、不気味な色合いだったり、めちゃくちゃ大きかったり、ウニョウニョと動いていたり――。

 見慣れない野菜は、そのどれもがいつきが見る限りあまり美味しそうには見えなかった。食べたら美味しいのかもだけど。


 そんな野菜達を見ていたいつきがふと部屋の柱に目を向けると、イベントの告知ポスターが目に入る。それを見た彼女は突然目を輝かせた。


「あ、映画上映会だって!」


 妖怪文化祭で上映される映画、そこに興味を抱いたいつきは一目散にポスターに書かれた場所に向かって走り出した。妖怪は独自の文字文化もあって、この文化祭関連で貼られている文字もその妖怪文字で書かれているものが大半だったものの、映画のポスターは何故か日本語で書かれていたのだ。

 急に単独行動を開始されて驚いたヴェルノはすぐに彼女に声をかける。


「おい、勝手に行くなよ」


「オラ達も急ぐだよ」


 結局は走り出したいつきを追いかける形で、一行はその映画上映ブースに向かう。たぬ吉達が部屋に入った時、中にいる映画を楽しみにしている妖怪の子供達の中にちゃっかり彼女は自然に混じっていた。

 入ってきたたぬ吉に気付いたいつきはすぐに手招きして呼び寄せる。


「ねぇ、あの大画面テレビっぽいヤツ。アレも妖怪?」


「そうだべ。上映されるのは子供用のアニメだども、見るんだべか?」


「アニメ!当然見るよ!」


 人間の生活道具に霊が宿る系の妖怪がいる、たぬ吉曰く、映画上映会で映画を見せる大型テレビはその系統らしい。こう言うところは流石妖怪の世界っぽいよね。

 部屋の中が子供達ばかりと言う事で分かる通り、上映される映画は子供向けのアニメ映画との事だった。アニメ好きないつきはまたしてもここで目を爛々と光り輝かせる。


 そうして、しばらくするとお目当ての映画が始まった。

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