ヤスデ人間――あるいは人の価値に関するいくつかの不安――

作者 既読

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★★★ Excellent!!!

あなたは差別の正体をどれだけ理解していると言うのか?
言うまでもないことだが、『変身』はナチスにおけるユダヤ人差別の比喩として書かれた小説である※。この作品は、現代における差別されるべき存在としてヤスデ人間となってしまった主人公の葛藤がユーモラスに描かれている。

勿論、差別されるべき存在など許されてはならない。だが差別はいけないなどと、口先では言いながら、この中にヤスデ人間を目にして嫌悪を感じない人間がどれだけ居るだろうか。
私には恐らく無理だ。生理的に無理なモノは無理。それを人間に置き換えた時、私の中に眠る差別の正体が浮き彫りになるのである。

ちなみに、私は小学生の頃に『変身』をSF小説だと思って(授業中に)読んでいたので、教師に見つかっていたく褒められた時には逆に驚いてしまった経験がある。それ以来、夏休みの読書感想文は毎年『変身』を題材にしたので感想文も徐々にブラッシュアップされ、大変良い物になった。担任が違えば案外バレないものなのだろう。そう言えば、ここに書いた文章の一部は当時にも書いた覚えがある。

何が言いたいかと言うと、私はそのくらいカフカには詳しいんだぞ!というアピールである。一見分かりにくいとは思うが、この作品は随所に原作の文体模写まで取り入れられており、詳しい者でさえも唸らせる出来だ。
実を言うと私は最近『こたつ女』というオマージュを書こうとして、あまりに安易な発想だったのでボツにした経緯があるのだが、今は書かなくて良かったと心から思う。どう考えてもこの作者に任せた方が面白いし何より楽チンだから。

もし叶うならば、長編として続きを書いて貰って、人間の醜さや愛について更に深掘りして欲しいと思う。

※(という解釈もある)

★★★ Excellent!!!

ヤスデになってしまったという悲劇を、ポジティブに生き抜くとしまさ。
ポジティブに生きる中でも、時たま見せる不安の色がとても効果的。

みんなが優しくしてくれるだけでなく、辛い当たり方もあるという双方の対応を見れたのがとても良かったです。

どんな悲劇も自分の行動次第で喜劇に変わる。

そんなメッセージ性を感じました。

いいな、ヤスデ人間。

★★★ Excellent!!!

突然、主人公がヤスデになるという突拍子のない設定から始まりますが、主人公や周囲の反応がやたらと冷静なのが、読んでいて何ともおかしかったです。
でもあれはあれで、ある意味、リアルなのかもしれないですね。

それ以上に、非現実的な外見でもすんなり受け入れてくれる世界が優しく、とてもいい読後感でした。

★★★ Excellent!!!

人間は異常を排除する。
それは普通の人間の姿であっても同じです。
見た目と心のどちらかが異常だったり欠けていたとしたら、人間はその異常者を容赦なく排除するでしょう。
人間社会が心や顔の歪んだ障害者を隅に追いやっていることと同じです。

だから主人公は幸運です。
見た目が異常でも、心は人間で、だから見た目なんて関係ないと家族に思われたからです。
まあ、人間の言葉を話せるという部分もあったからではあるのでしょうが、それでも家族の愛の強さが、見た目の異常を乗り越え、彼を生かしたのだと、私は思いました。
カフカのザムザも、家族の愛を示したのが妹だけでなければ・・・

けど、カフカのザムザの方が世の中の反応としては悲しいことに普通です。
だって、異常なのですから。
でも、だからこそこういう優しい物語の結末がとても良いものだと思いました。