第124話 神々の戦い その6

 それなら確かに戦力は増えるかも知れないけれど、たったそれだけで対抗出来るようになれるのかと問われれば正直不安は拭えない。もしかしたらすごいパワーアップするのかも知れないけど、焼け石に水のような気もするし。


 私達がそんな相談をこっそりしていると、その話が気になったのか異界神が不信感を抱き始める。


「何を話しているのです!」


 苛ついた異界神の念波がピンポイントで有己の体を貫いた。闇の具現化でもある彼はこの程度で消滅したりはしないのだけれど、それでもダメージは受けたらしく、攻撃を受けた痛みに小さくうめき声を上げる。


「うぐっ……」


「ちょ、大丈夫?」


「こ、このくらい何ともねぇ!それより急ぐぞ!」


「分かった。でも一体どうすれば……」


 効果的な意味で言えば不安なところもあったのだけれど、今打てる手がそれしかないと言う事もあって、私はこの有己の提案を受け入れる事にした。

 とは言え、他の意識を取り込むなんてそんな簡単に出来るのかな……。私がどうしたらいいか戸惑っていると、目の前の彼がすっと手を伸ばしてきた。


「俺の手を握れ、後は何とかする!」


「う、うん……」


 他に選択肢がなかったのもあり、私はこの差し出された手を素直に握る。


「よし、それでいい!」


 有己はそう言うとそのまま闇のエネルギー体に変化して、私の腕を通してそのまま身体の中に取り込まれていった。腕からエネルギーを取り込むと言う初めての体験に、私はプチパニックになる。


「うわあああ~っ!何これ、何が起こってるの?」


 その感覚はとても言葉で言い表せるようなものではなく、濃い栄養が突然腕から全身に行き渡るような、腕からエネジードリンクを飲んだみたいな特殊で特別な感覚だった。ひとことで言うととても気持ちがいい。何これ。何なのこれー。


 当然のようにこのやり取りを異界神もじっくりと観察しており、私に起こった変化を見て驚きを隠せないようだった。


「む、何だ?使徒を取り込んだのか?」


 私の中に取り込まれた使徒はすぐに目的を果たそうと動き始める。意識の深いところに潜り込みながら何かを探しているようだ。


(ここがしおりの中か……。いや、時間がない。主、聞こえますか!今すぐに儀式を!)


(お主の目的はそれか……良かろう、では早速始めるぞ)


 私の身体の中で使徒とその主が何かを始める。融合したとは言え、意識的には独立しているので彼らが今何を始めたのかはさっぱり分からない。ただ、それこそがきっと起死回生の策に違いないと、私は彼らのこの行為を信じる事にした。

 そうして次の瞬間、私の身体を強烈な刺激が襲う。


「うわあああ~っ!」


 強烈な電撃と言うか、そんな感じの強烈なエネルギーが身体中を駆け巡り、私の意識は一瞬飛んでしまう。例えるならそれは身体も意識も何もかもが再構築されていくような感覚だった。


「あ、あれは……」


「有己、やったな」


 地球を攻撃する分神体への攻撃に余念がないはずの使徒2人もこの私の変化に満足そうな顔をしている。その反応から見て、どうやら有己との融合は正しい選択だったみたい。私も何だかすごく力がみなぎってきたような気がするよ。今度こそちゃんと戦えそうな気がする。


 今まで何をしても余裕の態度を崩さなかった異界神も、ついにその表情に戸惑いの色を見せ始めていた。


「たかが使徒一体を取り込んだ程度で、ここまで潜在力が底上された……だと?」


 愕然とする異界神を見た私の中の有己の意識が突然表に現れ出てきて私の顔をドヤ顔にさせると、そのまま私の口から言葉を発した。


「ああ、そうだぜ……いくつもの力がひとつになれば……その力は何倍にも膨れ上がる!強くなれるんだ!」


「馬鹿な……これではまるで」


 私の力の総量をその神の目で計測していた異界神はその結果に愕然とし始める。どうやらその態度と力量が合致したらしい。

 相手が狼狽してる今がチャンスだとばかりに、私の身体が勝手に動き始めた。どうやらさっきまで体内で行われていた儀式の最終段階が始まったみたい。


「四魂融合!神域開放!」


 まぶたを閉じて両手を合わせ、体内に流れるエネルギーを循環させる。それはさながら小さな宇宙が誕生したような瞬間だった。宇宙創生の初発のエネルギーはどんなものよりも強くて純粋だ。

 そうして、私の身体から発生するエネルギーは私の身体の外にも同時に影響を及ぼし始める。


「ち、力がみなぎってきますよ……」


「有己、ついに成功したな……今がチャンスだ!一気に叩き込む!」


「はい!」


 原理は良く分からないけど、神域を開放した事で使徒の潜在能力も自動的にレベルアップしたようだ。こうして力を得た龍炎と芳樹は自身の手に持つ神器にそのまま増幅した力を全て注ぎ込んだ。


「神器無限解!真神威!」


「神器無限解!闇神威!」


 今まで全くびくともしていなかった分神体の防御フィールドが、この使徒の攻撃に耐えきれずに破壊されていく。やがて直接本体に攻撃が届き、分神体は悲鳴を上げ始めた。


「ぐおあああああ!」


「まずい、分神が……」


 自信の分神のピンチに異界神の意識がそれる。それを最大のチャンスだと判断した有己がまたしても勝手に私の身体を動かした。


「オメーの相手は俺だっ!神技!光皇龍牙!」


 彼の叫びによって私の身体は自動的にその技を発動させる。私の身体の内側から発生した強烈な光がやがて無数の巨大な龍の姿へと具現化して、そのままこの世界での異物である異界神に向けて襲いかかっていった。

 この意志を持つ光に、異界神はほぼ無抵抗のまま包まれていく。


「こ、この光は……」


 こうして発生した強烈な光はその後も銀河を超えるほどに広がり、やがては宇宙全体に満ちていった。

 力を出し尽くした私が次に意識を取り戻した時、そこには地球を襲う異界神の分神体も、異界神そのものの姿もどこにも見当たらなくなっていた――。


「お、終わった……のかな」


 達成感に包まれた私の強烈な疲労感が襲ってくる。四魂融合はやはりとてつもない負担を身体に与えていたみたいだ。緊張感が解けたと同時に、私はもう一度深い眠りに落ちていく。ああ、もう疲れて何も出来ないよ――。

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