第123話 神々の戦い その5

 肉弾戦はあんまり得意分野じゃないけど、遠距離攻撃が全く意味を成さないだけに、ドラゴンボールばりの攻防戦になってしまうのは必然の流れだったのだ。

 何度めかの殴り合い、蹴り合いを経て、僅かな隙を見つけた私はそこに気合を集中させる。


「ハァァァァーッ!」


「レミ・レム・ルゥ」


 しかしその隙は罠だった。私の放った渾身の一撃は見事に誘導され、異界神の力によって力を奪われる。


「完全無効化っ!?だめっ!破れない!」


「合神してその程度とは……やはりあなたにこの世界は任せられませんね。災いの元凶である地球と一緒に滅びなさい!」


「まだまだこれからだよっ!」


 少なくとも経験では大きな差がある異界神相手に、簡単に攻撃が通るとは私も思ってはいない。止められたならすぐに別の手を考える。とにかく相手に隙を与えないように次々と攻撃を繰り出し続けた。

 これが最後の戦いだからこそ、力の出し惜しみはせずに常に全力を出し切ろうと無我夢中になる。


「神魔豪気拳!」


 次に放ったのは、拳に高濃度エネルギーをまとわせたストレートパンチ。

 けれどこの攻撃も軽く受け流され、異界神の表情すら崩す事は出来なかった。


「それで?」


「ならば……光凰千手拳!」


 どれだけ技をいなされても、流れるように次の攻撃へと移る。一撃必殺の渾身のパンチが通じないなら今度は連打だ。超高速で繰り出す連続パンチは、宿した光の力の残像から千の拳をこの空間に現出させる。

 しかし百戦錬磨の異界の神は、この攻撃すら簡単に無効化させてしまっていた。


「何も効きませんねぇ」


「そ、そんな……」


 流石にずっと全力モードだっただけに、技の全てが通じない時点で精神的にかなり疲労が溜まってしまっていた。肉体的には神様の能力のおかげで疲れはあまり感じられなかったものの、この状態がずっと続けば、いつかは――。


 その精神的な隙を突かれ、異界神側からの反撃が始まる。異界神はゆっくりと右手を私に向けると、その手に力を込めた。


「ルェア・レレ・ムルエ!」


「きゃああーっ!」


 それは音のような、光のような、とにかくこの世界では全く知られていない攻撃だった。感知出来ない謎の波動が私の体を通過し、隅々にまでダメージを与えていく。この攻撃によって、私の体は一瞬で全身複雑骨折レベルの致命傷を負ってしまった。


「がはっ!」


「全く話になりませんね。この程度とは失望しました。さて、そろそろ終わりにしましょう」


「くうっ……」


 まるで今までの攻撃がただの実力チェックだったかのような異界神の態度に、私は行き場のない悔しさを覚える。力の差が歴然としすぎていて、突破口がまるで見出だせない。このまま、このまま何も出来ずに終わってしまうの?

 ここで最悪の状況まで思い浮かべた私は、残りの気力を振り絞って目の前の強敵に対して拳を振り上げて向かっていった。


「うぉぉぉぉぉぉーっ!」



 その頃、地球破壊の圧から地球を守っている地上では状況の変化への対応に追われていた。


「異界神からの破壊エネルギー量が増大しています!このままでは……」


 地球上の実働部隊はハンター組織が対応しているものの、天神院家もただ指を咥えて見ていた訳ではない。世界各国の神霊組織と連絡を取り合って、霊的な防御フィールドを使徒達とは別系統で組んでいたのだ。その主導権を握る天神院家では、ハンター組織と同じく、各国の防御状態の情報が逐一報告されている。


 上がってくる情報は、どれも想定以上の攻撃エネルギーに対応が追いつかないと言う危険を示すものばかりだった。プロジェクトリーダーである天神院家当主、天真院聖光はこの事態に対してどうにか適切な対応を取ろうと、関係各所に向けてすぐに適切な指示を飛ばす。


「各国の古代エネルギーネットワークに対して、祈りの結界を発動させます。これで何とかなりませんか?」


「それは確かに有り難いが、それでも焼け石に水だ。今のままでは持って約20分……が、いいところだ」


 各国の霊的指導者から上がってくる絶望的な報告を隣で話を聞いていた陽炎は、達観しきった表情で空を見上げながらポツリとつぶやく。


「ああ、それが我々の星の残り時間……」


「もう、ここまで来たら覚悟を決めましょうか」


「私はあの子達が島に来た時には決めていたよ……」


 聖光と陽炎は共に空を見上げながら、その向こうで激闘を繰り広げている私達の事を思ってくれていた。



「レリ・レリ・グェ!」


 異界神の必殺の攻撃が私を月に向かってふっとばしていく。攻撃が当たる前に何重もの防御結界を張り巡らせたのに、その全てが呆気なく突破されてしまったのだ。

 この状況に対して、分神体に攻撃を続けていた龍炎が超高速でふっとばされる私を目で追い始める。こんなスピードでぶつかったら、月でさえその形を維持するのは難しいだろう。


 私が月にぶつかろうとしたその瞬間、龍炎は思わず大声で叫んでいた。


「ああっ!月がっ!」


「龍炎、集中しろっ!」


「は、はいっ!」


 私と融合した闇神様によると、月と闇には大きな関係があり、月こそが闇の力を調整していると言っても過言ではないらしい。融合神となった私はこの状況でも死ぬ事はまずないはずだけれど、このままだと月はきっと粉々に破壊されてしまうだろう。

 この規格外の戦いでは月が被害を受けるのも止むなしと、龍炎は思わずまぶたを閉じた。


 しかし、私が超高速でぶつかったのに月はその形を無事に保っている。そう、私は月にぶつからなかったのだ。ぶつかる直前に月の前で闇のネットが発生し、私の体を優しく包んで衝撃を無効化していた。

 私を受け止めた闇のネットはやがて収束して人の形をとる。それは見慣れた姿をしていた。


「全く、俺がいなかったらどうするつもりだよ」


「ゆ、有己っ!」


「言っただろ、俺の本体は闇だって。闇のある空間ならこう言う事も出来るのさ」


 月の無事を確認した龍炎はすぐに大声で叫ぶ。


「有己っ!しおりさんを頼みます!」


「まーぁかしとけって」


 仲間に私の事を託された有己は、ドヤ顔でサムズアップをして返していた。ああ、何だか懐かしいやり取りだなぁ。

 そんな中、自身の攻撃が無効化された事を見届けた異界神は、感心したかのようにニヤリと笑う。


「おや、さっきの使徒ですか。消したはずでしたが」


「俺を消したきゃ、この宇宙の闇をすべて消し去るんだな!」


「なるほど、再創生ですか、それも面白い」


 やんちゃな使徒の軽口をまともに受け取った異界神は、すぐにでもそう出来るとばかりに自信満々な表情を見せる。相手が何でも可能な神様だと言う事をそこで改めて実感した有己は、自分の出した言葉を改めて後悔した。


「やべ!あいつ本当にやりかねないぞ」


「墓穴掘ってどーすんのよ!」


「しかたねーだろ!それより話を聞け!」


「な、何?」


 復活した彼には何か秘策があるらしい。正直現時点ではあの強敵に全く勝ち目がないので、私はすぐにこの話に耳を傾ける。もしかしたら本当に役に立つ作戦があるのかも知れないしね。溺れる者は藁をも掴むだよ。この例えが適切かどうかは分かんないけど!


 私が有己の顔をじっと見つめると、真剣な顔で語り始める。


「俺は本来エネルギー体だ」


「うん、知ってる」


「だから俺を取り込め。そうすればワンチャン狙えるぜ」


「え?」


 私は思わず耳を疑った。エネルギー状態になった彼を取り込めと?

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