神々の戦い

第119話 神々の戦い その1

「へいへいへーい。異界の神様、ビビってるゥー?」


「ほう?」


 3体融合を成功させた私は異界神に対して精一杯の虚勢を張った。ま、挑発相手の反応は超然としたものだったけど。このにらみ合いはしばらく続き、私からも異界神からも特に動きはない。お見合い状態のまま重い時間が亀のようにのっそりのっそりと過ぎていく。重い……重いょ……。

 永遠に続くかと思われたこの緊張感の中、この展開に耐えきれなかった有己が私に大声を投げかける。


「ば、バカ!すぐに攻撃を叩き込んでいけよっ!」


「な、バカとは何よバカとはっ!」


 私はついその声に反応する。それは張り詰めていた緊張の糸がぷつんと弾けた瞬間でもあった。視線がそらされた事で、異界神は不服そうにため息を吐き出した。


「残念です。この程度でしたか」


 そう言うと、異界神は私をひとにらみ。多分気迫的なその力だけで私は軽くふっとばされた。


「きゃああーっ!」


 あれ?おかしいな?私って最強状態になったんじゃなかったの?こんなにあっさりとふっとばされるほど軽い存在なの?

 見えない圧力で弾かれた私は為す術もなく近くの小惑星に超高速で飛ばされていく。ああ、このままだとアレに叩きつけられちゃうな。ぶつかったら痛いだろうな。痛いで済むのかな。ああ……、格の違いを見せつけられちゃうなぁ……。


 不甲斐ない私を見た芳樹は分かりやすく落胆して気力を失っていた。まるで今までの努力が水の泡になってしまったみたいなそんな雰囲気だ。


「ダメだ、あれではまだ不完全……」


「しおりーっ!」


 このまま小惑星に叩きつけられると私が覚悟して身構えたその時、有己がどこからともなく現れて私を受け止める。そのお蔭で私は痛い思いをせずに済む事が出来た。

 この意外な展開に言葉を失っていると、彼の口から滅多に聞けない言葉が。


「だ、大丈夫か?」


「う、うん……」


 まさかいつも憎まれ口を叩いていた相手から心配の言葉が出てくるなんて。私はちょっとびっくりして思わず言葉を濁してしまった。あれれ?こいつってこんなキャラだったっけ?

 この展開にどんな反応をしていいか戸惑っていると、有己は本来の口調に戻り、エラそうに発破をかける。


「気合入れろよ!相手は神様なんだからなっ!」


 この彼の言葉に、思わず私の中の闇神様が意識の表に顔を出した。


「ふ、成長したのう」


「わ、我が主?」


 混乱する有己を落ち着かせようと、私は簡単に説明をする。


「あ、ごめん、今闇神様の意識も同時顕現してるから」


「じゃあ意識を我が主に同調させてくれっ!しおりの意識じゃ、あいつには……」


 言うに事欠いて、この使徒、私の意識が不要だとほざきおったぞ。当然ながらこの言葉は私を不機嫌にさせる。私の意識が私の頬を膨らませる中、融合した闇神様は申し訳なさそうに使徒のこの要望を却下する。


「じゃがこの戦い、わしだけでは勝てぬのじゃ」


 このやり取りで何となく雰囲気が微妙になる中、私は今が戦闘中だった事を思い出し、すぐに異界神のもとへと向かった。


「ごめん、そう言う事だから、行くねっ!」


「あ、おう……負けんなよ」


「分かってる!」


 この展開に呆気にとられた有己はポツリと一言返すので精一杯のようだった。彼の声援を受けて私は異界神の前にもう一度立ちふさがる。さっきまでのグダグダを容認するくらいにこの神様は余裕たっぷりだ。

 隙があればそこを突いて必死に倒そうとするのは弱い立場の場合の行動心理だよね。


「私は無駄な事はしません。このエリアも私に任せるのです」


「それは出来ない相談だなあ」


「ほう、その声はこの世界の光神か」


 異界神と接している内に私の中の光の意識も顔を出す。同じ身体に3つの意識が混在すると言うのも面倒だよね。多重人格の人もこんな感じなのかな?

 光の意識は異界神に対して、強い念を込めて自分の要望を言い放つ。


「あなたはあなたの世界だけで輝いていてくれませんか?」


「何を言っている?だから猶予を与えたのですよ?」


 目の前の部外者はどんな要望も聞いてはくれなさそうだ。この言い方からして、異界神にとって今回の襲撃はせめてもの慈悲のようなものらしい。話が通じそうにないと実感した光の意志は、それならばと実力行使に訴えかける。


「百億の光輝!」


 光の意識によって私の体は輝き始める。その体から発生した光は強力なエネルギーとなって異界神を包み込んだ。まさに神のみが使う事の出来るこの絶対の奇跡の力に流石の異界神も思わず感心する。


「ほう?これは……」


「この世界は私の治める世界です。私で作られています」


「それはそうだとも。私の世界も同じだからね」


 強烈な光は抗うものを全て焼き尽くす浄化の光。そんな光の中にいて、外部の異物である異界神はまるで何事でもないように平然としている。その態度を見て自らの出力不足を実感した光の意志は更にその力を増幅させた。


「だから、この世界に私以上の存在はないのです!光よ!」


「おおっ!これはかつての大戦の頃と同じ……」


 二柱の神々の戦いを目の当たりにしていた芳樹は、その強烈な光に遥か昔に起こった前回の大戦の記憶を呼び起こしていた。龍炎もまた漏れた光を浴びてその圧力に思わず両腕で顔をガードする。


「相変わらず凄まじい……存在がかき消されてしまいそうです……」


「しおり……」


 闇神様の3使徒の中で有己だけが私の心配をしてくれていた。神様の力を宿したとは言え、ベースは私の身体。神々しい力を発する事による負担は計り知れない。

 実際、私も神様ハイになっていて今のところは痛みを何も感じてはいないんだけど、この状態が解除されたらと思うと不安になる。痛みはなくても今にも身体が張り裂けそうになりそうなそんなイメージを押さえつけるのが大変な状態なんだよね。


 そんな身体的ダメージが限界に来たのか、無限に光り続けられそうだったその勢いが徐々に収束していく。超新星レベルの光の爆発は実質十数分程度で消えてしまった。

 かつては異界神を退けるのに決定的な役割を果たしたであろうこの攻撃も、その程度では十分な効果を発揮出来ず、光が消えると全くのノーダメージで攻撃対象はその神々しい姿を表した。


「……随分と脆弱になったものですね。一度私が消したからですか?」


 かつての強敵の技が弱体化した事に異界神は落胆している。さっきの光の攻撃が決定的な一撃になると思いこんでいた使徒達は、異界神に傷ひとつつけられていないその現実に驚愕していた。


「な、何ィ……」


「くっ……」


 力の差を改めて思い知らされた芳樹と龍炎は自分達では何も出来ないと、そのスケールの大きさに言葉を失う。有己に至っては圧倒されてゴクリとつばを飲む事しか出来なかった。

 異界神は自分の前に立ち塞がっている不甲斐ない抵抗勢力に対して不満の声を上げる。


「力だけを残しても何にもなりません。残留思念で勝てると思われていたとしたら心外です。あなた達はちゃんと準備をしていたのですか!準備をしてこの程度なのですか!」


 準備と言う言葉を聞いた芳樹は自分達がこの日のために仕込んだ数々の作戦を思い起こし、強すぎる異界の神に向かって声を荒げた。


「ああ、当然準備はしていたとも!」


「はぁ……。この程度で私を止められるとでも?随分と低く見られたものですね」


 第1使徒のその言葉を聞いた異界神はがくりと肩を落として顔を左右に振る。

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