第118話 臨界を超えて その6

 闇と光は正反対の性質。エネルギーの総量が同じくらいまでならいい勝負も出来るかもだけど、圧倒的に光の方が強ければ闇は一瞬で消え去ってしまう。

 異界神の潜在的な力は使徒達を遥かにしのいでいる事は間違いない。大変!このままじゃみんな消滅しちゃうよ。


 私はこの状況をどうにかしたい、自分にも何か出来るはずだと強く願った。みんなと元気にこの戦いを終えるために私も頑張ってきたはずなのに。


「み、みんな……」


(使徒達を助けたいのでしょう?)


「と、当然だよっ!」


 今度は光の神が私に語りかけてきたよ。当たり前の質問をされて私は少しキレ気味に返事を返す。すると光の神は何だかそれっぽい一言を口にした。


(ならば、今こそ臨界を超えるのです)


「そんなのさっきからずっとやってるよっ!」


(もっと、もっと真に願うのです。切に祈るのです。そうして意識を乗せるのです。この宇宙と……全てとひとつに……心の宇宙との融合を……)


 もうこの声に導かれるままに私は臨界を超えるしかなくなった。実際、どうやったらそれが出来るのか今の私にはさっぱり分からない。ただ、何となく感覚で必死に気合を入れればこの大きな壁を乗り越えられそうな気がする。

 そうだよ気合だよ!ふんすふんす!えぇい!臨界よ超えろっ!


 と、私が必死に頑張っている頃、異界神は苦しむ使徒に見下した態度で憐れみの声をかけていた。


「中々頑張りましたねぇ。私の陣営に欲しいくらいですよ。さて、仕上げと行きますか……」


 異界神は組んでいた腕をほどき肩幅の広さに広げると、向かい合わせた手に力を込め始める。何かやばい、あれ、光の力を充填させているよ。早くしないとこのままじゃ本当に使徒達が消滅しちゃう!私の力!お願い!限界を超えてっ!


「うおおおおおおお!」


 気合を入れすぎた私はここでどうやら臨界を超えたらしい。エネルギー体だった体もいつの間にか物質的な体を再構築させていた。原理はよく分からないけど、これで私も反撃出来るよね!

 復活に成功した私の存在に異界神も気付き、すぐに私の方に顔を向ける。


「ほう?」


 この気を取られたその時が一番のチャンスだと踏んだ私が一発ぶちかまそうとそう願った時、体は一瞬で異界神の至近距離に移動していた。何だかよく分からないけど、今ならこの生意気なよその神様を思いっきりぶん殴れると思った私は少しも躊躇せずに振りかぶる。


「取り敢えずパーンチ!」


 こうして私は光の速さで異界神をぶん殴ってやった。この攻撃で生意気神様は軽くふっとばされていく。おお、殴れたよ。やったね。ふっとばされた異界神はそのまま近くの小惑星に勢いよくぶつかる感じだったのだけど、空中でそのエネルギーを緩和させて私の顔を不思議そうにじいっと見つめた。


「ほ、ほう……?」


「あなたの相手は私だよっ!」


 私は異界神相手に啖呵を切る。よし決まった!光の重圧攻撃が途切れた事で使徒達も頭を振りながら正気を取り戻し始める。そうして復活した私に気付いてそれぞれが声をかけてくれた。


「し、しおり……」


「何とか間に合いましたね」


「ああ、ここから……だな」


 使徒達も無事で私も戦線復帰した。臨界を超えた私には不思議な力が宿っているっぽいし、うん、これで勝てるかもだね!って言うか勝たなくちゃだね!

 と、私がひとりで盛り上がっていると、ぶん殴ったはずの異界神がクククとまるで悪のボスみたいな笑い声をもらす。


「面白い、面白いじゃないですか。やはりこうでなくては!」


「あれ?効いてない?」


 さっき私は懇親の力を込めて殴ったはず。ただの物理的な力に加えて光と闇の神の力を融合させなハイブリッドなエネルギーをぶつけたはずなのに。ぶつけられた気がしていたのに。

 もしかしてちゃんとそれが出来ていなかった?それとも向こうの神様の方が強くて威力を無効化されちゃったとか?

 私は殴り倒した相手があまりにもピンピンしているので、段々自分の能力の自信がなくなっていった。


「それでは行きますよ……今からは本気のバトルを楽しみましょうか」


「えっと……。これどうしたらいいの?」


 殴られた事で本気スイッチが入ったらしく、突然どす黒いオーラを放ち始めた異界神に私の背筋は凍っていく。何か一気に勝てる気がしなくなったぞ。やばい、どうしよう。私がもっと本気を出して、そこに使徒達のサポートがあれば何とかなるのかな?教えて闇神様!光の神様!うわぁ~!


 私が最高潮に焦っている中で、サポートをする使徒達は全員が何故だか自信に満ち溢れた表情になっていた。ちょ、私の力を盲信してないかなコレ。実際やばいんだってば!

 でもそんな本音をぶちまけたら不安が広がって、勝てる戦いでも本気を出せなくなるかも。う、ここは演技でも余裕の態度を崩さないようにしないとだよね。


 よ、よーし、ばっちこーい!絶対この窮地を乗り越えてやるぜっ!もうヤケだよっ!

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