第112話 次元の扉 その5
その意図を理解た私はすぐに次元フィールドを展開。空間転移で決戦の地へと次元跳躍する。この成果をあの有己が軽く褒めてくれた。
「ほお、やるじゃんか」
「てへへ」
彼から褒められるなんて滅多にない事なので、私は変に照れてしまう。決戦の地は次元の裂け目があった場所なのだけれど、当然のようにそこは宇宙空間。漆黒の闇の中で星々の光が宝石のように全天で輝いている。普通なら宇宙空間に生身では存在出来ないのだけれど、私達は修業によって特殊な状態でその場に浮遊していた。
そのために空気のない無重力状態でも地上と同じような環境でいられたのだ。タイムスケジュール的にも早目に着けていたのを龍炎はしっかりと確認する。
「まだ向こうさんは来ていないようですね」
「へぇ、これが次元の扉なんだ。空中にでっかい扉があるなんてすっごくシュール」
私はふわふわと浮かびながら目の前にある大きな扉を目にして感想をつぶやいた。大きさは長さがビルの高さくらいある。大体50メートルくらいかな。
この言葉を聞いた芳樹が冷静にツッコミを入れる。
「空中って言うか宇宙空間だけど」
「で、どうする?迎え討つか?」
好戦的な有己はすぐに思考を戦闘モードにしていた。ラストバトルを前にしても普段通りを貫く芳樹はこの乱暴な言葉に今回の作戦の趣旨を説明する。
「僕達は進撃する訳じゃない。飽くまでも自衛のためにここにいる」
「つまり敵さんがくるまでここで待機って事か」
有己も納得したところで、私は今回の作戦についてもっと平和的な手段を進言した。
「でもさ、そもそも話し合いとかでどうにかならないのかな」
「それは無理だね」
「でもこの次元の壁の亀裂が完璧に直せたらもう問題は起こらないはずでしょ?なら……」
「時間がない」
私が何を言っても芳樹は考えを変える事はなさそうだった。むうう、手強いぞ。とは言え、こんな土壇場で今更ジタバタしてもね。その代り、私が納得出来るような説明はして貰わないと。
と、言う訳で私は好奇心の赴くままに質問を続ける。
「じゃあ時間があったら……」
「次元修復は簡単に出来るものじゃない。急いで直すとなると幾つもの魂が必要になる」
「えっ……?」
彼の口にした魂と言う言葉に私の思考が停止する。次元の亀裂の修復に物理的な物質は使えないって事なの?私がうまく言葉を返せないでいると、芳樹は更に説明を続けた。
「生物の魂こそが世界を構成する要素なんだ。次元の壁とは魂の壁と言っていい」
彼の説明によれば、次元の壁は魂で、そう、命で出来ているらしい。私が黙ってその話を聞いていると、更に龍炎が補足するように言葉を続ける。
「つまり、次元の壁とはこの世界の神の魂の器なんです。直すなら同じ性質のものモノで埋めるしかない」
「そ、そんな……」
次々に明かされる衝撃の事実を前に私は動揺を隠しきれなかった。じいっと次元の傷を眺めるしか出来なくなってしまった私を安心させようと芳樹はここで慰めの言葉をかける。
「安心しろ、次元の壁は今でも自動修復されている。だから時間さえ稼げれば問題は解決するんだ」
「それは、神様が傷を治しているって事?」
「簡単に言えばな。だからここで追い返せれば何も問題はない。それが一番リスクが少ないんだ」
彼の話によれば、今から襲ってくる異界神さえ追い返せれば、次にまた襲いかかるまでの間に壁は完全に閉じてしまえるらしい。その言葉を聞いてようやく心が落ち着いた私は深くため息を吐き出した。
ここで単純腹ペコマンが私に向かっていつも通りのエラソーな口調で励ましてくれた。
「ったく、難しく考える必要なんかねーんだよ。襲ってくるヤツを追い返す、それで万事解決だ。お前もそのために頑張ったんだろ?」
「う、うん」
「ならその力を存分に発揮しろよ。それでいいんだよ」
「わ、分かった」
何だかんだ言って彼の言葉が一番私を奮い立たせてくれる。時には真実よりもハッタリの方が役に立つよね。いつもの表情が戻った私に、龍炎が勇気付けるように私に言葉をかけてくれた。
「未知の敵との戦いに怯えるのは分かります。しかし、しっかりと備えをしたなら、勇気を持って立ち向かう覚悟もまた必要ですよ」
「覚悟……」
その言葉耳にした私は支部についてからの修業の日々を思い出していた。そうだ、私だってこの時のために頑張って準備をしてきた。光の意識に目覚め、闇の力をまとえるようになった。簡単に負けはしない。いや、その気になればきっと追い払える。私は強くなったんだ。そう言い聞かせてぎゅっと拳を強く握った。
この時、次元の扉をじっと睨んでいた有己が突然シリアスな顔になる。
「どうやらあんまり心の準備を待ってくれそうもなさそうだぞ」
「え?ちょ」
折角戦う心構えが出来たばかりなのにもう敵が来たって言うの?使徒は私よりも感覚が鋭敏だからビンビンに強敵の接近に気付いているのだろう。
急に緊迫感を増した雰囲気の中で、闇の力を開放させながら有己が大声で叫ぶ。
「しおり、戦闘準備だ、急げ!」
「い、いきなりなの?」
「戦国時代の合戦じゃねーんだよ!相手が名乗りを上げてくれるとでも思ってたのかっ!」
「わ、わかっ」
私は焦って光の意識を目覚めさせる。目を閉じ、両手を前に突き出してイメージを高めていたその時だった。次元の扉が開いたかと思うと、そこから発射された膨大なエネルギーが私の体を一瞬の内に貫いた。
「しおりーっ!」
そのエネルギーの照射によって私の体は一瞬の内に蒸発していく。あれ?もしかして私何の役にも立てなかった?この日のために修行したのに?
護衛のはずの使徒達も誰ひとり何も出来ないまま、こうしてラストバトルは幕を上げたのだった。
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