第94話 光の代行者の住む島 その5
この意見にも龍炎はまるっと同意する。そこでふと好奇心が疼いた私は、この際だからと彼に聞いてみた。
「ねえ、龍炎は神界にいたの?」
「神界?ああ、天上界の事ですか。ええ、いましたよ」
あまりにあっさりと龍炎は質問に答えてくれた。この様子だともっと突っ込んだ事を聞いても答えてくれそうだったので、私は続けて質問をする。
「どんなところだった?」
「この島みたいな感じですね。規模はもっと大きかったですけど」
「へええ、すごいね」
私がこの返事に感心していると、一連の会話に不満に感じたのか、有己が不機嫌な顔をしながら話に割って入ってきた。
「お前な……俺達はみんな闇神様に仕えていたんだぞ。本来人間が気軽に交流していい存在じゃないんだ」
「何を今更……。大体、昔は昔じゃん!あ、そう言えば何で地上にやってきちゃったんだっけ?」
「おまっ!そんな分かりきった事を今更!」
「えっ、えっ?」
急に大声を出されてちょっとパニクってしまう。あれ?私何かまずい事を言っちゃったかな?
この事に思い当たるふしがなくて混乱していると、龍炎が優しく助け舟を出してくれた。
「我が主が封印されてしまったからですよ。だから私達は天上界にいられなくなったんです」
「あ、そうなんだ。なんかごめん。ちょっと考えればすぐに分かる事だったね」
「いえいえ。そう言えば今まで具体的にこの話をする事はなかったですもんね」
ああ、どんな会話の流れになっても優しく受け止めてくれる龍炎のこの度量の広さ。有己と同じ使徒とは思えないよ。本当見習って欲しいな。
と、ここまでの会話の流れから私はあるひとつの疑問に辿り着いた。
「あれ?じゃあ今その天上界はどうなってるの?他の神様が頑張ってるのかな?」
「流石に私も、いえ、私達も地上に降りてからの天上界の事は知りません。もう戻れませんので……」
そう話す龍炎は少し淋しそうで、聞いちゃいけない質問をしたのかもと焦った私はすぐにフォローに回る。
「あ、ごめん。何か連絡手段とかあればいいのにね」
「本当ですね」
私の言葉に彼は力なく笑う。うーん、この反応からしてフォローは上手くいかなかったみたい。どうしたらいいのかな。有己なら別に放置したっていいんだけど、龍炎にはいつもお世話になってるから元気でいて欲しいしなあ。ええっと……。
「ねえ、戻れるなら戻りたい?天上界」
「ああ、戻れるならな」
ここで返事を返したのは元気になって欲しいとは別に思っていない方の使徒だった。私はその反応の速さに呆れてしまう。
「即答したね……」
「べ、別にいいじゃねーか。って言うか、今まで俺がどんな苦労してきたか……この世界は生き辛いんだよ!」
私の冷ややかな顔を見た彼は顔を真っ赤に染めながら言い訳じみた言葉を口にする。その反応が面白くて私はクスクスと笑った。
「あーそれ分かるー。私もしんどいもん」
「おめぇはこの世界にずっといろよ。人間に生まれてきたんだからよ」
「べ、別に私天上界にいきたいって訳じゃ……」
何か誤解された気がして私はすぐに弁解する。その後も会話は弾み、夢中で話している内に気がついたら私達は長い長い石段を登りきっていた。
最後に膝を上げて一番上に辿り着いた瞬間、陽炎が私達を労ってくれた。
「皆さんお疲れ様でした!見事一番上まで登りきりましたぞ!」
「うわー!やったどー!」
総石段数2046段、制覇!絶対途中で足が動かなくなると思っていたのに、こうして無事に登れた事に私は謎の達成感と開放感を感じていた。ガッツポーズをして大声で叫ぶと、これがまたとても気持ちがいい。
私が感動に打ち震えていると、ここでも龍炎が爽やかな笑みを浮かべながら労いの言葉をかけてくれた。
「しおりさん、お疲れ様でした」
「うん、私頑張った!」
「自画自賛かよ……」
どこからともなく、ツッコミマンの有己がここでもきっちりと自分の仕事をする。すっかり慣れた私はその言葉に何の反応もしなかった。
一番上まで辿り付けたと言う事で、私達はしばらくその場で休む事にする。用意されていたベンチに座って筋肉を緊張から解き放っていると、この時間を持て余していた芳樹から急かすような言葉が飛んできた。
「疲れが取れたらすぐに先にいくぞ、ここからが本番なんだからな」
「了解です、隊長!」
私はすぐに立ち上がって敬礼する。勿論おふざけでそうした訳だけど、ここでツッコミマンがまたしても呆れ顔で投げやり気味にぼそっとつぶやいた。
「隊長って何だよ……」
そんな聞こえないくらいの弱い反応は無視して私達はついに天神院家の中央、当主のいる大神殿の本殿へと向かう。目の前のその建物は作りこそシンプルなものの、遠くからでも見えるほどに大きい。つまり近くで見ると更に大きい。高さは目測で2~30mはあると思う。幅も50m以上はあるだろうか?
私は緊張感でテンションがおかしくなりながら、その巨大な本殿への一本道を歩いていった。
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