第84話 最後の旅立ち その3

「有己!しっかりと現実を見ろ、しおりが正しい!俺達は奴に手も足も出なかった。それは事実だ」


「う……」


 芳樹に図星を突かれて、流石の有己も言い返せずに無口になった。彼の顔を見ると恥ずかしさからなのか真っ赤になっている。ほほ、可愛い奴め。ただ、このやり取りのせいで食事の場がしいんと静まり返ってしまう。

 ずっとこのままなのも色々と気まずいので仕切り直しにと龍炎が音頭を取った。


「さ、食事を続けましょう。しっかり食べないと元気になりませんよ」


「見てろよ!絶対強くなってやる!お前が思わずひれ伏すくらいにな!」


「へぇぇ、頑張ってね。楽しみにしてる」


 こうしてまた賑やかに食事が再開された。私達の言い争う姿を興味深く見ていた龍樹は、楽しそうに芳樹に向かって微笑みかける。


「君達は本当に愉快だねぇ」


「ま、少なくとも退屈はしないな」


 芳樹もまた龍樹にそう言って笑いかけていた。私はこんな日常的なやり取りが楽しくてささやかな願いを口にする。


「戦いとは無縁なこんな日々がずっと続いたらいいのにな……」


 その日の夜。ぐっすりと眠っていると私は久しぶりに壮大な夢を観ていた。こんな夢を見ると言う事はまたお告げとかあるのかも知れない。


「うわ……何これ、宇宙?」


(しおりよ……)


 夢の中でひとり宇宙を漂っていると、案の定闇神様が声をかけてきた。今回も当然のように声だけの出演だ。私は周りの宇宙空間をキョロキョロと見回しながら、この声だけの存在と会話を続ける。


「うおっ!闇神様!復活したんだ!」


(天神院家に行くのだろう。早く向かうがいい。時間がないぞ)


 闇神様は私達の動向をしっかり把握している。今回は天神院家の事について私に話したい事があったのだろう。それにしても私達を急いで向かわせたいその理由って何なんだろう?急かされなくてもみんな急いで向かおうとしてくれているよ、私が駄々をこねているだけで。

 それにしてもわざわざそれを言及するなんて、何か急がなきゃいけない根拠があるのかな?


「え?それはどう言う……」


(現当主の聖光に会え……彼の話を聞くのだ)


 当然のように闇神様は私の話を聞いてはいない。神様と人間だもんね、最初から格が違うもの、そりゃ仕方がないか。


「ま、まあぁ、言われなくてもそのつもりだようん……」


(我はまたしばし眠る……任せたぞ……)


「え、ちょ……」


 天神院家の当主に会えと一方的に告げた闇神様はそのまま一方的にその気配を消した。全く、まるで留守電のメッセージだよ。私を何だと思っているんだか。もうちょっと話を聞いてくれてもいいと思うんですけどねえ……。

 でも、そう言う夢を見た以上はこの事を使徒達にちゃんと伝えなくちゃ。


 次の朝、私は旅の準備を急ぐ使徒達に今朝見た夢の事を伝える。


「……って言う夢を見たんだよね」


 みんなは黙って話を聞いていた。私が話し終わるとすぐに有己が呆れたように話しかける。


「準備ならとっくに出来てるぞ!」


「……はぁ、じゃあ行かなきゃかぁ……」


 結局は私の回復待ちだった訳で。お告げも出てしまった以上、もうここに長居は出来ないよね。私はため息をひとつ吐き出すと、渋々出発の準備を始める。着替えとか洗顔道具とか諸々をカバンに詰め込んで、こうして私達は旅立つ事になった。

 最後に玄関前で靴を履いていると、龍樹を含めた本部内のハンター達全員が旅立つ私達を見送ってくれた。


「じゃあ皆さん、よい旅を。吉報を待ってますね」


「龍樹さんも、ハンターのみなさんもお世話になりました。では、行ってきます」


 こうして私達はハンター本部を後にする。ここに着くまでも色々あって、ここに着いてからも色々あったけど、今度の旅が本当に最後の旅になるね。

 だって次に向かうのは闇神様を封じた本拠地だもの。天神院家に着けば残った謎も全て解明されて、私もこの身に宿る闇神様から開放されるかな。

 出来ればそうなって欲しいなぁ。もうしんどいもん、私。


 そうして私達はハンター本部のあった次元の層から抜け出て東京の某所に戻ってきた。やっとちゃんとした世界に戻ってきたよ。ああ空気が美味しいい!

 と、ここで一安心したところで、私は前を行く使徒達にこれからの行き先を聞いてみた。


「ところでさ、みんな、その、天神院家ってどこにあるか分かってるの」


「え、えーと……?」


 この質問に早速有己がキョドっている。ある意味予想通りの展開ではあったけど、この回答で急に不安が増してきた私は声を荒げる。


「ちょ、知らないの?じゃあどうやって探すのよ!グーグルマップにでも載ってるの?」


「つてがあるんだよ。流石に当てずっぽうで探す訳がないだろ」


 この会話を聞いていた芳樹がすぐに私に声をかけてきた。やっぱ誰ひとりアテがない訳じゃないよね。今度の旅も彼が引っ張っていく感じなのかな。

 それにしても有己は頼りないなぁ。もうちょっとしっかりして欲しいよ。私がじっとその頼りない方の使徒を見ていると、龍炎がにこっと微笑みかける。


「しおりさん、安心しました?」


「まぁ……。って言うか有己はもうちょっとしっかりしなよ」


「な、なにおう!」


 そんないつものお約束を挟みつつ、辿り着いた場所は東京駅。そこで芳樹からまた事前に準備されていたチケットを手渡される。いつもながらなんて手際がいいのだろう。有己とふたりきりだった頃のグダグダとは雲泥の差だよ。やっぱ快適で目的地のしっかりしている旅はいいね。


「また新幹線移動なんだ」


「これが一番早いからな」


「今度はどこまで……って岡山?」


 チケットの行き先を見た私はその意外な地名に目を丸くする。今度は西日本方面に向かうんだ。全く想像出来なかったこの展開に私は言葉が出なかった。

 目的地を知っている彼は岡山についてから先の予定についてもここで説明してくれた。


「で、岡山についたらそこから島に向かう」


「瀬戸内海に天神院家があるの?」


「それはまた新幹線内で話そう」


 該当する乗り場に向かいながら話を続けていると、今回もまた蚊帳の外扱いの有己が不満を漏らす。


「けっ!また勝手にひとりで決めやがって」


「まぁまぁ……」


 龍炎が彼をなだめる中、私はこの雰囲気から気付いた事を芳樹に確認する。


「もしかしてそのつての人って芳樹しか知らないの?」


「教える必要もないからな。けど、有己も龍炎も知ってる相手だ」


 そう意味有りげに語る彼の言葉を聞いた龍炎はそこですぐに何か感付いたらしく、頬に手を当てて意味有りげに笑みを浮かべた。


「なるほど、彼ですか」


「な、俺には誰の事だか……」


 勘の鈍い有己はまたしても思いつく事が出来ずに首をひねっている。その様子を見ていた私は情けなくてため息を吐き出していた。全く、本当にどうしようもないんだから……。この様子を見ていた龍炎がまたここでもさり気なくフォローを入れる。


「島に付けばきっと有己も思い出しますよ、さ、乗りましょうか」


 ちょうど時間になって私達は岡山行きの新幹線に乗り込んだ。指定席でみんな仲良く並んで座る。私の列は私と有己と龍炎の3人だ。私が一番窓側で真ん中が有己で一番通路側が龍炎。私以外のこの2人の並びが逆だったら良かったのに。

 ちなみに芳樹は通路は挟んだ反対側の席に座っている。ま、これは仕方ないかな。

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