第70話 現れる未完成生物 その2

「そう、永久に壊れず永久にエネルギーを発生させるものが出来ればそれは神に等しい。否、神以外にそれを再現させる事は出来ない」


 少し自分に酔いながら話す龍樹の言葉に、隣に立つ鬼島がフォローするようにその説明の補足をする。


「彼らの最終目標は機械仕掛けの神を作る事、そう言って差し支えないでしょう。しかし何もないところから神は作れません。サンプルが必要なんです」


 永久機関を作るにあたって、永久そのものの神の力を模倣する。果たしてそんな事が可能なんだろうか。

 しかし、現に目の前にその研究の成果が空中に浮かんでいる。と、言う事はこれは紛う事なき現実の光景だ。人の望んだ永久機関があの姿だとでも言うの?

 私が現状理解の為に頭の中で思考をぐるぐる回転させていると、何かに気付いたらしい龍炎がつばを飛ばしながら声を上げた。


「ちょっと待って下さい!話を戻しますが、と言う事はアレは……人が作ったものなんですか?」


「その通りです。多くの実験を繰り返してあのレベルの神の模造品が完成したのでしょう」


 その言葉はまたしてもあっさりと肯定される。自信たっぷりに当然のように話す龍樹を見て、さっきからずっと黙って話を聞いていた有己が怒りの感情に任せて彼の服の襟首を掴む。


「テメッ、何でそんなに詳しいんだよ!」


 まるで不良が因縁をつけるようなその行為を受けて、それでも龍樹は涼しげま表情を崩さない。それどころか彼は薄っすらと笑みを浮かべる始末。


「蛇の道は蛇ですよ。色々調べている内に辿り着きました」


「人の作ったものに、眷属を奪われただと……胸糞悪りい!」


 有己は龍樹を突き飛ばすと、空中に浮かぶバケモノに向かっていく。それを目にした龍炎が彼を止めようと大声を上げた。


「あっ!危険です!無闇に近付いては!」


「うるせえ!封印が効いている今が一番のチャンスじゃねぇか!」


「ふ、手助けしますよ」


 勢いで飛び上がった有己に龍樹が手をかざすと、途端に空間の闇属性濃度が上がる。これで彼の戦闘力は何倍にも跳ね上がった事だろう。

 有己は空中に封印中のバケモノに対して攻撃をかまそうと闇の力を生成し始める。そうして両手を振り上げると湧き上がる闇の力を凝縮し強力な武器を作り出した。


闇波動断元剣やみはどうだんげんけん!」


 それはまさに切れ味の鋭い闇の剣だった。その武器を見た芳樹は今から彼が行おうとしている事に対して最悪の事態を想定する。


「ばっ!それじゃ封印ごと切り裂いちまうじゃねーか!やめろっ!」


「この一撃で仕留めれば何の問題もねーだろー……がッ!」


 芳樹の忠告も聞かず有己は剣を振りかぶる。切っ先にエネルギーが充填され、剣事態の切れ味が最高レベルに達した。


瞬斬しゅんざんッ!」


 頃合いを見計らい、彼は切れ味最高状態の剣を勢い良く振り下ろす。こうして封印ごと対象物は真っ二つになった。どんな強敵だろうと、動かない相手に対してなら攻撃をしくじる事はまずないだろう。

 斬った瞬間、居合い斬りで最高に手応えがあった時のような感触を感じ、有己は満足げな顔をする。まさにそれは仕事をやり遂げた男の顔だった。


 斬られたバケモノはその傷口から蒸気的な何かを吹き出し周囲の視界を塞ぐ。そうして斬られた痛みからか咆哮を上げた。


「ギュウワオ……ふん、バカだなお前は」


 煙幕的な何かのせいで何も見えない中、確かに叫んでばかりだったバケモノは喋った。それは化け物の姿からは想像出来ないような知性に満ちた落ち着いた渋い年老いた男の声だった。この意外な展開に思わず私は大声を上げる。


「しゃ、喋ったぁ!」


「私はこの生物の創造主、カーセルだ!大人しくお前らの神を差し出せ!」


「ど、どう言う事?」


 バケモノの喋った言葉の意味が分からずに私は困惑する。キョロキョロと無意識に助けを求めていると、幸いその言葉の意味を理解したらしい龍炎が解説役を買って出てくれた。


「どうやらあの生物を作った責任者が直接交渉を持ちかけてきたみたいです」


「私を狙ってるって……絶対守ってね!」


「任せてください。守りきってみせます!」


 彼の力強い言葉に安心した次の瞬間、煙幕の中から全く無傷なバケモノが急に姿を表した。あれっ?さっき有己が渾身の一撃をアイツに御見舞したんじゃなかったの?

 何でピンピンしてるのよっ。攻撃が効いてないってどう言う事?


「む!そこにいたかぁ!」


「うわああああ!」


 バケモノが獲物の存在に気付き、一直線に向かってきた。その恐怖に私は全く体が動かなくなってしまう。龍炎は守ってくれるって言ったけど、もしアイツがが彼の手に負えなかったらどうしよう。もしかして、私……ここで……ヤバイヨヤバイヨー!


 バケモノが今まさに襲いかかろうとしたその瞬間、私にとっては信じられない事が起こった。


「神器、空転流射くうてんるしゃ!」


 そう、鬼島が、あの鬼島が、憎き敵だったはずの存在が私のピンチを救ってくれた。神器の力を使ってバケモノを弾き返したんだ。


「ギュウオオオーッ!」


 神器の攻撃を受けたバケモノは痛がりながら弾き飛ばされる。そうしてそのタイミングを見計らって今度こそと有己は剣を構えた。


「やっぱオメェは叫び声がお似合いだぜ!闇剣虚空斬やみつるぎこくうぎりっ!」


 振り下ろした闇の剣はバケモノの体に突き刺さる。しかし次の瞬間、突き刺さった剣はバケモノの体に取り込まれ始めた。


「な、何っ!」


 ズズッと飲み込まれていく剣に恐怖を感じた彼は、無意識の内にそれを手放した。途端に剣はバケモノの体に完全に吸収される。そうしてまたその創造主が得意げに自身の作った生物の特徴を声高々に自慢する。


「残念だったな!このクアルは同じ属性のものは取り込めるのだ」


「クアルだとぉ!」


「ああ、この最高傑作の名前だよ!」


 カーセル博士曰く、この生物はクアルと言うらしい。個別の名前を付けられたと言う事はもう実験生物ではないと言う事なのだろう。実験を経て完成に至った完全体とも呼べる代物だ。

 改めてクアルと呼ばれているそれをじっくりと眺めた有己は、その雰囲気から感じた事を素直に口にする。


「ソイツには俺の眷属のデータも取り込まれてんだろ?雰囲気をかすかに感じるぜ」


 私はクアルにひとり対峙する彼が心配になってきた。この戦い、ひとりじゃ絶対に荷が重い……って言うか多分勝てない。だって闇の力が通じないんだもん。

 そう感じた私は必死に周りのみんなに懇願する。


「みんなも力を貸してあげてよ!アイツひとりじゃ……」

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