第65話 ハンター本部 その4

 第4階層についた瞬間に私は思いっきり胃袋の中の物をリバースする。この惨状を見て、やっと使徒達は少し休憩を取ってくれた。龍炎に背中を擦られて、ようやく私は落ち着きを取り戻す。

 ただ、使徒達が優しかったのは私が動き出せるようになるまでで、何とか立ち上がれるようになると、またさっさと今までと変わらないペースで歩き始める。私は置いていかれないように必死についていくので精一杯だった。何このスパルタ強行軍……。


「第6階層までの侵入を確認!もうすぐ来ます!」


「ふふ、ちゃんと全員揃っているのかなぁ~」


 使徒が接近する緊張感に包まれる本部内ハンターに対して、リーダーの龍樹はどこかそれを楽しそうに待っている風だ。それは絶対の自信の現れなのか、それとも――。


「来ました!」


 ハンター本部施設の目前で、階層移動の象徴である強烈な光が場を包む。光が消え去ると、そこに使徒達4人が姿を表した。現場にようやく到着した有己は大きな達成感を感じつつ、小さくため息をひとつこぼす。


「ふぅ……」


「駄目……もう目が……開かない」


 何度も階層移動の光を浴びて私はグロッキー状態だ。目的地に着いたのなら少し休ませて欲しい。その場に力なく倒れ込んだ私を見て、有己が見かねて肩を貸してくれた。


「しっかりしろよ、……ったく世話が焼ける」


 いや、あの、しばらく横になりたかったんですけど?そんな時間の余裕も許されませんか?足を引きずる姿を見てようやく龍炎が気付いてくれたおかげで、私は30分程その場にへたり込む。

 それにしても使徒って本当にタフだなぁ……。何で時空間移動して体調を崩さないのよ……。


「そろそろいいだろ?行くぞ!」


 その場で待機しているのがかなり嫌だったのか、有己は横になっている私の腕を掴んで強引に引っ張り起こす。うう、鬼じゃ……有己は鬼の化身じゃ……。


 まだほとんど調子は回復していなかったけれど、彼に引っ張られる形で私達は先を急ぐ。この異空間の中に建物はひとつしかなく、きっとそれがハンター本部なのだろう。既に目に見えている事からも分かる通り、ゴールはもうすぐそこだ。とは言え、本部に着いてからが本当の本番なんだけど。

 はぁ、今更ながらすごい所に来ちゃったなぁ……。


 待ち構える本部の方では、姿を見せた私達に対して龍樹と鬼島がつぶやくように声をかけあっていた。


「来ましたね」


「ああ……」


 私達が来るのをハンター達はみんな御存知のようで……って、そりゃそうか。皆さん本部の前にずらりと勢揃いしている。数は目測で20人位?あれ全員手練のハンターなんだよね?こっちは数の上で圧倒的に不利なんだけど、大丈夫かな?

 この状況を目にして使徒の本能に火がついたのか有己が拳をギュッと握りしめながらつぶやく。


「ほう、おもてなしの準備が整いましたってところか」


「ねぇ……これって……」


「ここまで来てビビってどうする!行くぞ!」


 勇敢な使徒達に守られる形で、私は何とかハンター本部前まで辿り着く。ずらりと並んだ屈強なハンターのセンターにはリーダーの潮見龍樹と、以前にこっぴどくやられた鬼島がでんと構えていた。


 私達は彼らと対峙する形となり、一触即発の雰囲気に包まれる。うわあ~。怖い怖い怖い。使徒達の強さは知ってるけど、目の前のハンター達の強さは未知数だからやっぱり怖いよ!

 私がビビりにビビっていると、リーダーの龍樹が怪しげな笑みを浮かべながら声をかけて来た。


「ようこそハンター本部へ。使徒の皆さん、と、野中しおりさん」


「て、てめぇ……」


 その余裕のある態度に有己は怒りで顔を歪ませ、肩を震わせている。闇のオーラが漏れ出しているのがハッキリ分かるよ。


「いきなり来ましたね」


「ああ、計画通りだ……」


 龍炎も芳樹も覚悟を決めている。ここまで来たら、もう私は部外者ですって逃げられないよね。うん、私も覚悟を決めなくちゃだ。よおし、やるぞい!


「実際に会うのは初めてですよね。私が今の代表の潮見龍樹です」


 龍樹はそう言うとフレンドリーに手を差し出してきた。えっと、何こいつ。見た目は爽やか笑顔マンだけど、何考えてるか全然分からないよう。

 って言うか彼の手を誰が取ればいいの?もしかして私?やっぱり代表者って私って事になるんだよね?こんな展開になるなんて予想外だよおお。


 テンパって身体が硬直して動けない私の代わりに、芳樹が龍樹の手を握る。その光景はまるで海外の大物政治家が交わすそれのようで、計り知れない程の緊張感と背後で繰り広げている見えない戦いがまるで具現化して目に見えるようだった。


「それでは、始めましょうか」


 握手をする彼の目に悪意は全く感じられない。どこまでも純粋でキラキラと輝いている。

 でもだからこそ、そんな人物がハンターと言う組織のトップに立っている事が不自然で、どこか底知れない怖さを私達に感じさせていた。

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