裏切りの真相
第58話 裏切りの真相 その1
寝付けない高級羽毛布団での朝を迎え、私は緊張感のあまり早起きしていた。ほぼ眠れなかった気がする。折角のセレブ体験なのに。もしちゃんと眠れていたなら久しぶりに闇神様とコンタクトが取れていたかも知れないのにな。起きてしまったものは仕方がないけど……。
目覚めた私が着替えてホテルのロビーに行くと、既に支度を済ませた使徒3人が勢揃いしていた。私を目にした3人はそれぞれ思い思いに声を上げる。
「さて、行くか」
「行きましょう!」
「準備はいいか?」
3人の中で芳樹だけが私を気遣ってくれた。やっぱり彼は優しいね。そんな訳で改めて言われると、急に緊張して来た私は生理的欲求を口にする。
「ちょ、あの、トイレ!」
「ったく、しゃーねーな……」
トイレに急ぐ私の背後から有己の言葉が突き刺さる。まぁ彼らしい反応だけど、普通に気を悪くしたぞ。私がトイレに篭っている間、使徒3人は早速作戦会議を始めていた。実はまだ色々決めていない事が多かったみたい。今日計画を実行するのに、そんなんで大丈夫なのかな?
最初に龍炎がみんなに向かって話しかける。
「で、どう移動しましょうか?」
「お前ら、ここまでは眷属使って闇の道使ったんだろ?」
「まぁ、安全に進む為に」
移動方法について龍炎と芳樹が話を始めた。どうやら芳樹には彼なりの考え方があるようだ。それで龍炎に向かってドヤ顔で自説を展開する。
「ハンター本部に向かうならアレ逆効果だぞ」
「何だって?」
芳樹のこの言葉に有己が驚いたような反応をする。芳樹は仕方ないと言う態度で頭を掻きながらそう話した理由を説明した。
「アレ系の移動方法は研究されつくされているんだよ。闇の道を使って本部に近付けても必ず別の通路に道が繋がれて永遠に辿り着けない」
「よく御存知ですね」
この理由を聞いて龍炎が感心する。使徒の中でこれ程ハンター本部について詳しいのは芳樹だけなのだろう。
「まぁ、色々試したからな。それで警戒されたってのはある」
「オメーのせいかよ!」
闇の道で近付けなくなったのは他ならぬ芳樹のせいだった。有己の本気ツッコミがロビー中に響き渡る。幸い、まだ早いのでこのツッコミは関係者以外には聞かれる事はなかった。そんなタイミングで私はトイレから戻って来る。
「お待たせー、ってあれ?」
トイレから見た私の目に映ったのはそっぽを向く有己と芳樹の姿。まるで喧嘩したてホヤホヤのような……。みんなで協力してハンター本部を襲おうって言うのに出発の朝からこんな不仲な状態で大丈夫なの?
私がその2人を見て不信感を抱いていると、龍炎がさり気なく耳打ちする。
「あ、気にしないでください。ああ見えて特に仲が悪い訳でもないんですよ」
「で、どうするんだよ。その方法が使えないとなると……」
芳樹と顔を合わせないようにしながら有己が口を開く。話の途中から聞いた私はその会話の意味が分からなくて龍炎に質問する。
「何の話?」
「ハンター本部までの移動方法で揉めてるんです」
「えー!今更ぁ?」
まぁ、普通は驚くよね。こう言う事は普通最初の方で決めておくべき事だよ。こんな大事な事を当日の朝に話し合うってグダグダ過ぎない?私が自分の常識から外れたこの状況に困惑していると芳樹が話を進め始めた。
「俺にいいアイディアがある」
「何だよそれって」
「公共機関を利用するんだよ。それで問題は解決だ」
「ああ、ハンターと言えども一般人を巻き込む訳にはいきませんもんね」
彼の話す解決方法は意外と普通だった。うんまぁ、いいんじゃないかな。って言うかそれならそれでなぜ昨日の内に決めなかったんだろう?私は使徒の思考が読めず、少し呆れていた。もしかして行き当たりばったりが好きなのかなぁ。
「と言う訳で新幹線のチケットなんかはすでに手配済みだ」
自分の案が受け入れられたと言う事で早速芳樹が私達にチケットを配り出した。どう言う経路を使ったのか分からないけれど、これで移動は新幹線と言う事は確定済みって事だね。私はチケットを受け取りながら思わずこの手際の良さに感心する。
「おお、手回しがいいね」
「よし、じゃあその方法で出発だ」
最後は有己が調子よく声を上げてうまく話がまとまった所で私達は出発する。ホテルを出ると目の前に高級そうな車が止まっており、スマートに着飾った身なりの良い運転手がペコリとお辞儀をした。
「駅までは私が運転します」
「お願いします。運転手さん」
私は運転手に頭を下げて初めて乗る高級車に乗り込んだ。フカフカの何とも具合のいい座席の座り心地に私は何か違和感めいたものを感じてしまう。
「何だか落ち着かないな」
「高級外車に乗るの、初めてなんだろ?」
私が緊張感で挙動不審になっていると隣りに座った有己がからかうように声をかける。
「べ、別にそんなんで緊張してる訳じゃ……」
「顔に出てますよ」
私が顔を真赤にして弁明していると向かい側に座った龍炎も便乗して声をかけてくる。緊張感と恥ずかしさから私は彼らに向かって弁明する。
「や、違うって!」
「今の内にこの環境を楽しんでおくといい……もう味わえないのかも知れないんだから」
「え?」
芳樹のその何処か達観したような言葉に私は違和感のようなものを覚えてしまう。ホテルから駅までは車で約20分程度。高級車の乗り心地にようやく慣れてきた頃にはもう降りなくてはならなくなっていた。残念、せめて1時間は乗っていたかったよ。
「それではいってらっしゃいませ。健闘をお祈り申し上げております」
「運転手さん、有難うございました」
運転手さんにお礼を言って私達は駅の構内へと歩いていく。いよいよ始まるのだと、私は頬を叩いて気合を入れ直した。改札を前にして龍炎がからかうように有己に声をかける。
「さて、ここからは鉄道移動ですね。有己、ちゃんと手順は分かっていますか?」
「ば、馬鹿にすんな!電車の乗り方くらい分かるわ!」
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