第40話 闇神包囲網 中編

「そ、そんな、馬鹿な……」


「空間を操るのがあなただけとは思わないでくださいね」


 そう、有己を襲ったハンターの空間操作の術を打ち破ったのは同じく空間操作系の術を得意とする龍炎だった。彼はすぐに有己にかかった術を中和させたのだ。同じ系統の術を中和するにはその技より精密な技術を持っていなければならない。

 つまり、ハンターより龍炎の方が技術的には上のスキルを持っている事になる。ハンターは彼の存在を詳しく研究していなかったらしく、術が破られて非常に悔しそうな顔になっていた。


「く……誤算だった」


闇螺旋やみらせん、暗転!」


 今度は自分の番だと龍炎が得意の術で今度は逆にハンターを攻撃する。この技も同じく空間操作系の技ではあるものの、ハンターの繰り出した同じ系統のものより更に精度の高いもので、術をかけられたハンターは自力で中和する事も出来ずひたすら襲い来る闇の力に精神を翻弄され続けるのだった。


「うぐおあああ!」


「まだまだ、ここからですよ!」


 自分の術がハンターに決まっているのを目にした龍炎はドヤ顔になって更に追撃をしようと構えを取る。そんな状況の中で包囲網を仕掛けるハンター達は全く動じずにじりじりと私達に近付くのを止めなかった。

 仲間が苦しんでいるのにそれを助けようともしないその姿に鬼気迫るものを感じた有己は冷や汗を一筋垂らし、ぽつりと言葉をこぼす。


「こいつら、玉砕覚悟か?」


「油断してはいけません!」


「分かってるって!」


 使徒2人がこの状況に緊張感を持って対処しようと認識を新たにした次の瞬間、このハンター達のリーダー的存在と目される人物がいきなり大声を上げる。


「オン!」


「しまった、これはっ!」


 次の瞬間、異常に気付いたのは龍炎だった。ハンターの気合の一言と同時に使徒2人の足元に謎の魔法陣のようなものが浮かび上がる。それを見た有己はそれに見覚えがあったのか焦って口を開いた。


「闇封印の術式!いつの間に!」


「ふふ、耐えられますか?かつて闇神をも封じたこの術に!」


 リーダーハンターはそう言って使徒2人を挑発する。その言葉に従えば今彼らを襲っているこの術はかつて闇神様を封じた術と言うものらしい。この言葉を聞いた有己は激高して声を荒げる。


「馬鹿な!我が主がこの程度の術で!」


「ならば、見事に耐えきって我々に見せてください、その実力をね!」


 リーダーハンターは既に勝ち誇ったようなドヤ顔で使徒2人に向けて言葉を飛ばす。次に周りにいるハンター全員がその輪の中心に位置する使徒に目掛けて全員が手をかざす。そこから放たれる封印の力は実力派の使徒2人を執拗に苦しめるのだった。


「うぐぐ……」


「これは少し、厄介ですね……」


 流石の龍炎もこの術に対しては簡単に反撃出来るほど楽ではなかったらしく、足元の魔法陣から湧き出してくる封印の力に苦悶の表情を浮かべている。


「本来は全員で掛ける技、人員が減った事で多少の威力不足は否めませんが、そこは気合でカバーです」


「ざっ……けんな!この程度で俺達が……」


 挑発するように喋るリーダーの言葉に有己は意地で抵抗する。彼は持てる力を総動員してこの状況を打破しようと抗っていた。


「力比べですよ……単純で分かりやすくていいでしょう?」


「絶対負けねぇ!」


 闇封印が闇の存在を封印する術とは言え、発動すれば必ずその効果を発揮するという絶対的なものではないらしく、使徒2人の放つ闇の力に封印は拒まれていた。この均衡が崩れればどちらかの勝利となる。

 しかしこれも力比べと言う事になれば単純に数の点でハンター側の方が有利だった。その状況を見据えた上でリーダーは強がる有己に対して余裕たっぷりに言葉を返した。


「さて、どうでしょうねぇ」


「ぐおおおお!」


 ぶつかる力と力。巨大な力の衝突はやがて空間に歪みを生じさせ、目に見える形で次元の壁を視覚化させていた。ハンター達も死力を尽くすものの、同じくらい使徒もまた闇の力を絞り出して対抗する。その為、この力比べはしばらくは続くものと思われた。

 けれど、不意にそのバランスは崩れ去る事になる。


「術式、逆展開!」


「何っ?」


 そう、ここでも突破口を開いたのは龍炎だった。彼はハンター側の切り札であるこの闇封印の術式を逆に利用し始めたのだ。この展開にドヤ顔だったリーダーの顔をはみるみる青ざめていく。


「この手の術式なら解明済みです。なので少し手を加えてみました」


「ぐあああっ!」


 龍炎によって逆展開された闇封印は逆にハンター側に力を逆流させていく。自分の放った術に苦しめられる形となった闇封印の術はあっけなく消滅した。

 使徒の足元の魔法陣が消えたと同時に行き場を失ったエネルギーが暴走しハンター達は吹っ飛ぶ。結果、彼らの目論見はここで途絶えた事になる。倒れたハンター達を目にして全てが終わった事を見届けた有己は改めて自分達の実力を声高々に宣言する。


「どんなもんだ!術関係で龍炎の右に出る者はいないぜ!」


「お、終わった?」


 この戦いが始まってから怖くてずっとしゃがみこんでいた私は勝敗が付いたらしい雰囲気にようやく安心して口を開く。

 けれど、状況を冷静に見通していた龍炎の言葉によって私の期待は呆気なく裏切られるのだった。


「いえ、まだ残っていますよ。強そうなのがね」


「ここで真打ちのご登場か。いいね、燃えるぜ」


 この龍炎の言葉に有己が拳を握りしめて呼応する。どうやらここに集まったハンターは目の前にいた5人だけではなかったみたいだった。実はその奥にもうひとりいたらしい。私はまだ終わっていなかった事を知ってもう一度頭を押さえながらしゃがみ込む。


「早くして……ストレスで吐きそう……」


「俺達の力をもっと信じろよ」


 この私の仕草を見た有己は呆れ気味に口を開く。そんな事を言われても怖いものは仕方ない。本能が危険を察知して体が自動的に震えているのだから。

 私は自信満々の彼に対してやけくそ気味に声を張り上げて返事をする。


「信じているから!頼りにしてるから!」


「……君らの犠牲は無駄にはしない……」


 闇の中から現れたこのハンターは静かにそして強い口調で喋り始める。その醸し出す雰囲気は底知れない力を秘めているように感じられた。やがてその姿がハッキリ見えるようになると、そこにいたのは身長160cmくらいの小柄な、まるで少年のような身なりのハンターだった。

 立ち向かう使徒2人もまた完全戦闘態勢で迎え撃つ準備は整っていた。近付くそのハンターが攻撃範囲に入ったと感じた龍炎がまず声を上げる。


「来ます!」


「おうよ!」


 彼の言葉に有己が反応した次の瞬間だった。そのハンターはゆっくり右手を掲げて念を込めるようにゆっくりと、しかし確実に自分の力を言葉に変えていく。


「神…器…開放!」


「何っ!」


「まさかっ!」


 神器と言えば使徒2人も苦しめられた鬼島が使っていた宝具と同じ名前のもの。確か龍炎は神器を使えるハンターは特別な存在と言っていたけれど――。

 と、言う事はつまり今私達の目の前に現れたハンターもそう言う存在って事?ヤバイじゃん!

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