事故
第27話 事故 前編
「結局降って来ちゃったよ」
「参ったな」
雨が降りそうで降らないままの空は、我慢比べに負けたのか突然堰を切ったように大量の雨を地上に落としていた。私達は急遽近くのコンビニに雨宿り。外が見える書籍エリアから雨の降る外の景色を眺めている。
私は雨が降ったら探索中止だって前もって宣言していたから正直今日の探索はここで終わりにしたかった。そこで独り言のように今日の出来事を反芻する。
「変な敵も出てくるし今日は散々だなぁ」
「しばらく雨宿りするか……もぐ」
「雨に濡れて風邪ひきたくないしね」
しかし雨宿りと言っても、いつまでもコンビニにいる訳にも行かない。そうじゃなくても店内でパンを食べる有己は周りから見たら変な目で見られかねない。仕方ないのでここで私は折りたたみ傘を買って外に出た。外は雨は降っているものの、風はなかったので取り敢えず傘をさしていれば濡れる事はなさそうだった。
雨の中を傘をさして歩きながら私はつぶやく。
「もう今日はトラブルはゴメンだよ」
この言葉に有己は街の景色を見つめながら返す。
「あの変なのはもう来ないだろうけど……」
「使徒探しもお休みでいいよね、だって雨だし」
私は今一度念を押すように今日の予定を確認する。この言葉を聞いた有己は次の新しいパンを頬張りながら答える。
「ハンターはいつ襲ってくるか分からないけどな……むぐ」
ここまで話して私はずっと前から感じていた疑問を改めて彼に聞く事にした。今までは色々あって聞くタイミングを逃していたのだ。この暇を持て余している今の状態なら聞ける!そう思った私は有己の隣に歩調を合わせて彼の方に顔を向けて口を開く。
「ねぇ、使徒って何でハンターに狙われてるんだっけ?人間を襲ってたの?」
「生きる為にはな」
私の質問に有己は何の躊躇もなくサラッと答えていた。そんな、お腹が空いたからご飯を食べるみたいに当たり前に人を襲ってたって言われたら、何だか私も悪党の一味みたいじゃないの。そんなのヤダよ。嘘だと言ってよ。
私は彼の言葉を素直に信じたくなくてそこのところを追求する。
「有己も?私に会う前……」
「俺も基本闇に生きるものだからな……もぐ」
そんな……有己も悪党だったなんて。そんな悪党の主が私(の中の闇神様)って事は私って言ってみれば悪の首領じゃん……。
いや待って、これって昔はそうだったって話なだけかも。過去の過ちなんて誰にでもあるし。私は急いでその確認をする。
「い、今はもうやってないんだよね?」
「そんな暇はないな」
「暇って……」
その言い方に何か引っかかるものを感じつつも、今は悪事を働いていないと言う彼の言葉に私は胸を撫で下ろしていた。するとすぐにその暇と言う言葉の真意を有己は私に説明してくれた。
「片手間で主の守護は出来ないからな……むぐ」
成る程、私を24時間体制で守っているから余計な事をしている時間がないと。私の存在がひとつの悪を止められたのかと思うと、少しだけ自分を誇らしくも思えるのだった。ああ、我ながら単純だなぁ。
傘をさして歩きながら雨宿りしても不自然じゃない場所を探していると、ちょうど広い屋根のあるショッピングセンターが目に入った。ここの屋根の下なら私が雨宿りをしていても、有己がしょっちゅうパンを食べていてもそんなに違和感は感じないだろう。そんな訳で私達はその場所に向かう。
屋根の下に設置されていたベンチに座って私はほっと一息ついていた。
「ああ、雨がずっと降っていてくれないかなぁ」
捜索で歩き回って疲れが溜まっていた私はこの雨がずっと続く事を願っていた。有己は雨が止み次第すぐに捜索を再開させそうだし――。私のこの何気ないつぶやきに彼はまた同じ言葉を繰り返している。
「だから、雨だからってハンターが襲ってこない保証はどこにも」
「でも私は今そんな気がしてるんだよ」
それはただの願望だった。
でも願望も強く願えば真実になると私は信じている。どうかこの願望が現実になりますようにと私は心から願うのだった。
「そうだといいな……もぐ」
この私の切なる願いを彼はまるで他人事のように返していた。その態度にはちょっとイラついたけど、口喧嘩する気力もなかった私は心に生まれた感情を右から左へと受け流していた。
雨はその後勢いを弱め、気がつけば小雨になり――やがては止んでしまう。雨宿りの為にここで休んでいた私達は、その理由を失って仕方なく歩き出す事になった。やっぱりずっと座ってばかりって言うのも退屈だしね。
今にもまた雨が降り出しそうな空を見上げながら、私は横を歩く有己に話しかける。
「この天気、いつまで持つと思う?」
この言葉を受けて空を見上げた彼はしばらく雲の流れを見つめた後、ぼそっとつぶやいた。
「この雲が浮かんでいる内は油断出来ないな」
そんなどうでもいいやり取りを続けていると、さっきまで降った雨で出来てた水たまりに車が突っ込んでその水が私に向かって跳ねて来た。
「うわっ?!」
結構大きな水たまりだったので私は結構濡れてしまう。うう……何てこった。
幸い、道路にたまった水たまりだったので水はきれいで特に染みになる事はなさそうだけど――このままだと体が冷えて風邪をひいちゃうかも。うう……ついてないなぁ。
私のこの惨状を見た有己はパンを食べながらまるで他人事にように薄い心配をしてくれた。
「大丈夫か?全く、無礼な車がいたもんだ……むぐ」
「もう水たまりが出来ていたんて……失敗したよ」
私は愛想笑いを浮かべながらその彼の言葉に答える。雨上がりに車道側を歩くものじゃないね……トホホ。夏も近付くこの季節なので濡れたからってそんなに凍えるほどは冷えてはいない。
でも濡れたままは気持ち悪いし、どこかで着替えたいな。その前に着替えを買わなくちゃ、か。そもそも近距離の旅だから普通に着替えに家に戻ってもいいし――。
そんな事を私が考えていると、さっき私に水を跳ねた車がUターンしてこちらに向かっていた。
「む?」
最初にその車に気付いたのは有己の方だった。私はその時顔を道路の方を向けていなかったからね、仕方ないね。突然彼が前方を気にしたので不思議に思って私も振り返ったんだけど、まさか車が戻って来るとは思わなかったのでちょっと驚いた。
「え?もしかして謝ってくれるのかな?」
戻って来た車は車を停めて大丈夫なスペースに車を停め、静かにドアを開ける。姿を現したドライバーは何か上流階級の人みたいなお高そうなスーツを華麗に着こなしていた。髪型もビシっと決めて、まるでパーティーに行く途中のようだ。そう言えば車も高級スポーツカーっぽいし、セレブな人なのかな?
相手がお金持ちなら、水たまりを跳ねた程度でも結構なお金を謝罪として渡してくれるかも知れない!そう思った私は勝手に頭の中で妄想を膨らませる。
けれど、そのセレブな運転手が放った言葉は私の予想を裏切るものだった。
「まさかとは思っていましたが……あなたが使徒ですか……」
そう、この一見セレブなにーちゃんは私達の天敵だった。こんな出会いってアリなの?私はショックを受けて無意識にそれを口に出していた。
「は、ハンター?!」
「しおりっ!」
有己はすぐに臨戦態勢を取る。私は戦闘の気配を感じ、速攻でその場を離れた。もう確立されたいつものパターンだ。
「分かってる!頑張って!」
「なるほど、そちらのお嬢さんが……うん、資料の通りだ」
セレブハンターはいつの間にか取り出していた手元のパッド的なもので私達の資料を確認していた。ハンター側、どれだけ私達の情報を掴んでいるんだろう?優子が側にいたくらいだし、きっと全部筒抜けなんだよね。
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